第37話 騎士団再編
第37話 騎士団再編
冷えた空気が張りつめる訓練場に、鋭い号令が響いた。
「そこだ! 構えが甘い!」
一瞬の迷いも許さぬ声。
だがそこには理不尽な苛烈さではなく、“守るための厳しさ”があった。
ゼノ・フォン・グレンヴィルは、整列する騎士たちの前に立ち、その全員を静かに見据える。
「これより、グレンヴィル騎士団の再編を行う」
ざわめきが広がる。
「第一隊は北方警備、第二隊は暁の丘周辺の防衛、第三隊は領境巡察を担当する」
淡々とした口調だが、その采配は的確だった。
「これまでの“勇猛さ”ではなく、“統制”を誇れ。
個の力ではなく、貫く意志でこの地を守れ」
それは、力による支配ではない。
誇りによる統率だった。
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「……さすがですね」
少し離れた場所から、エレノアがその光景を見つめていた。
整然と動く騎士たち。
迷いなく命を受ける兵士たち。
「あなたの背は、皆を安心させているように見えますわ」
「背中で語れと教えられた」
ゼノは短く答える。
「だがな……」
視線を、そっと彼女へと向ける。
「俺がいま、本当に守りたいものはもうひとつある」
それは、あまりにも自然な言葉だった。
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訓練が終わり、整備区画を歩いていると、ひとりの若い騎士が近づいてくる。
「ゼノ様、失礼を」
「申せ」
「近頃、エレノア様に近づこうとする者が増えております。
貴族派の使者や商人が……不穏な気配もございます」
その言葉に、ゼノの表情がわずかに陰る。
「……監視を強化しろ」
「はっ」
「決して、あの方に無断で近づけるな」
それは命令ではなく、警告だった。
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回廊を歩く途中、エレノアが足を止める。
「……何か、ございましたか」
静かな問い。
「お前に、不審な接触があったと聞いた」
「些細なことですわ」
「些細ではない」
きっぱりと。
「お前に関わることは、すべて重要だ」
その言葉に、わずかに彼女の頬がやわらぐ。
「それでは、私は窮屈になってしまいます」
「なら、俺が盾になる」
視線を合わせ、はっきりと言う。
「お前が自由でいるために、俺が重荷を負う」
⸻
「……ゼノ様は、ときに過剰ですわ」
けれど、声はやさしかった。
「お前にだけは、そうなる」
静かな告白に近い言葉。
「俺はもう、ただの“領主”ではない。
お前の存在を守る“一人の男”だ」
それは騎士団長としての発言ではない。
明確な、感情だった。
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そのとき、ひとりの年配騎士が声を上げた。
「団長閣下!」
「なんだ」
「兵たちが……その……」
少し言いにくそうに続ける。
「“あの方のためにも、強くあらねばならない”と申しております」
一瞬、訓練場がざわめいた。
「……なるほどな」
ゼノは小さく笑った。
「それでよい。
だが勘違いするな」
引き締まった声音。
「守るのは、あの方一人ではない。
この領すべてだ」
視線だけを、エレノアへと向けて。
「……だが俺は、その中心を誤らぬ」
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夕刻。
城の庭園で、エレノアが静かに花を見つめている。
「今日の空は、澄んでおりますわね」
「ああ」
「騎士たちの背が、少し誇らしげに見えました」
「それは、お前の影響だ」
ゼノは足を止め、彼女の隣に立つ。
「彼らも理解し始めている。
この領には、“守るべき誇り”があると」
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「ゼノ様」
小さく名を呼ぶ。
「あなたは……どのような理想を、この地に見ておられますか」
「理想か」
一瞬、考え、そして静かに答えた。
「争いが起きぬ地ではない。
だが、“争いを選ばずに済む地”だ」
「……美しいお考えですわ」
「お前にそう言われるなら、誇れる」
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風が庭を通り抜ける。
「エレノア」
「はい」
「もしも、この地に危機が訪れたなら――」
少しだけ声が低くなる。
「俺は、命に代えてでもお前を守る」
「それは……困りますわ」
「なぜだ」
「あなたがいなくなれば、この地は失われてしまいます」
「ならば」
彼は微かに笑った。
「互いに、生き延びねばならないな」
⸻
その言葉は、冗談のようでいて、
確かな覚悟が込められていた。
騎士団は再編され、
剣は整い、
統制は完成しつつある。
だがその中心にいるのは、
ただ強き者ではない。
心をもって支配する男と、
誇りをもって導く女。
そしてその間には、
もう隠せないほどの想いが、確かに育っていた。




