第347話 下水道の襲撃者
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部屋に飛び込んできたのは三人。全員が黒い布で顔を覆っており、体格も似せているのか判別が付きにくい。
だが、動きに迷いがない。明らかに訓練された連中だ。
「マースを守るのが優先だ」
「承知しました」
一人が懐から黒い球体を取り出し、床へ叩きつけた。
――ボンッ!
鈍い破裂音と共に濃密な煙が室内へ広がる。視界が一気に白く染まった。
「煙幕か」
私は即座に鑑定眼鏡を装着する。
視界越しに魔力反応が浮かび上がった。
なるほど。ただの煙幕ではない。魔力を混ぜ込んで感知を阻害するタイプか。一般的な索敵術式なら多少は誤魔化せるかもしれない。
だが――
「悪いが、相手が悪かったな」
サーチレンズ越しには輪郭がハッキリ見えていた。
煙の向こうで、一人が術式を展開する。
直後、火球がマース目掛けて放たれた。
「やはり魔術師がいたか」
しかし――
火球がマースへ届く寸前。
メイが一歩前へ出る。
「甘いですね」
振り抜かれた拳が火球を真正面から叩き砕いた。
轟音。火花と熱風が散る。
普通の人間なら腕ごと吹き飛びそうな衝撃だが、メイは眉一つ動かさない。
「なっ――」
襲撃者の動揺が煙越しにも伝わってきた。
その隙を逃す理由もない。
私はリボルバーを抜き、一人へ照準を合わせる。
「ショット」
発射された魔弾が煙を裂き、標的へ直撃した。
「ぐぁっ!?」
男が吹き飛び、そのまま扉の外へ転がり落ちる。続いて下水へ落下する音が響いた。
まぁ、多少汚れるぐらいは覚悟してもらおう。
「こちらも制圧完了です」
振り返ると、残る二人は既にメイに拘束されていた。
どこから持ってきたのか縄で簀巻き状態にされている。仕事が早い。
「流石メイだな」
「ありがとうございます御主人様」
そんなやり取りをしていると、破壊された扉の隙間から猛烈な悪臭が流れ込んできた。
「うっ……!」
マースが思わず顔をしかめる。
下水の臭いが部屋に逆流してきたか。
「これは流石にキツいですね……」
私は無限収納リングから三枚のマスクを取り出した。
「はいマース。これを」
「助かります……」
マースに手渡し、私とメイも装着する。
「これは?」
「臭気遮断面さ。悪臭や有毒臭気を遮断する魔導具でね」
マスクを着けた瞬間、マースが目を見開いた。
「おお……! 本当に臭いが消えた! なんという快適さだ……」
「下水道探索用に作っておいて正解だったよ」
さて――後はこいつらだな。
私は下水へ落ちた男を引きずり上げ、三人まとめて通路に並べた。
「メイ、起こしてあげて」
「承知しました」
――パァン! パァン!
容赦のない往復ビンタが炸裂する。
三人が揃って呻き声を漏らしながら目を覚ました。
「くっ……我々が、たかがガキとメイドに……!」
随分と悔しそうだな。
ちなみにマースは既に変装用の指輪を付け直している。ワーマル族であることは隠したままだ。
「さて。色々聞かせてもらおうか」
「誰が話すか!」
「そうだ! 舐めるなよ!」
威勢だけはいい。
「ふむ」
私は腕輪から別のマスクを取り出した。
今度のは鼻部分が妙に長く、犬の鼻のような形状をしている。
「え? 御主人様それは?」
「ちょっとした実験用だよ」
私は三人へ順番に装着した。
「何のつもりだ!」
「まさか恩を売れば喋るとでも――」
「これは嗅覚増幅面と言ってね。嗅覚を数万倍まで強化する魔導具なんだ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
『ぎゃぁああああああああああ!?』
『くっさぁああああああああ!』
『鼻がぁあああああああ!』
三人揃って絶叫し、そのまま泡を吹いて倒れた。
下水道の臭気を数万倍で受ければそうなる。
我ながら中々凶悪だな。
「えぇ……」
マースが若干引いている。
「御主人様、やはりこれ危険すぎませんか?」
「大丈夫。死なない程度には調整してある」
「その“程度”が怖いのですが」
メイが珍しく半眼になっていた。
「さて、もう一回いこうか」
「ひっ!?」
目を覚ました三人が露骨に怯える。
「話すかい?」
「……」
無言。
「そう」
私は再びマスクを手に取った。
『やめろぉおおおおおお!』
今度は即落ちだった。
「しゃ、喋る! 喋るから! その悪魔の道具をしまえ!」
「悪魔の道具とは失礼な。立派な魔導具だぞ」
私が不満そうに言うと、メイが小さくため息を吐いた。
「御主人様、そこではないかと」
そして遂に――
三人は観念したように、口を開き始めたのだった。
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