第344話 思い出すかつての仲間
「そうか――どうりで見覚えがあると思った」
正体を明かしたマースを見て、私は得心した。
その顔立ちや仕草の端々に、かつて私を慕ってくれた友人の面影が重なる。
「マクス――私の友人の名前だ」
「はい。マクスウェル家の始祖にあたる人物です。私のご先祖様ですね」
マースが静かに頷いた。
なるほど。だからか。
血の繋がりというのは、こういうところに表れるものなのだな。
懐かしい記憶が、ゆっくりと蘇る。
三百年以上も前――まだ私が各地を渡り歩いていた頃の話だ。
マクスは、私の作る魔導具に強い興味を示した。
目を輝かせながら、何度も同じことを言っていたのを覚えている。
――自分も作りたい。
――その仕組みを知りたい。
そしてついには、弟子にしてほしいと頭を下げてきた。
だが当時の私は、まだ未熟だった。
自分自身が試行錯誤の最中にあり、人に教える余裕などない。
だから最初は断った。
何度も、何度も。
それでもマクスは諦めなかった。
雨の日も、風の日も、同じ場所で待っていた。
その執念に根負けして、私は折れた。
弟子ではなく、友人として。
疑問に答え、試作品を見てやり、時には一緒に考える。
そういう形で関わることになった。
だが――
(あいつには、決定的に足りないものがあった)
マクスは確かに器用だった。
工具の扱いも上手く、加工精度も高い。
だが、魔導具師に必要なのはそれだけではない。
魔導具とは、単なる“物作り”ではない。
術式を組み上げる論理。
魔力の流れを読む感覚。
素材が持つ性質の見極め。
そして――
完成形を頭の中で“成立させる”直感。
そのいずれもが、マクスには僅かに足りなかった。
例えば術式一つとっても、彼は「正しく書く」ことは出来る。
だが「最適に組む」ことが出来なかった。
無駄が残り、魔力効率が悪くなる。
結果として、完成品が安定しない。
何度も調整し、何度も試した。
それでも、越えられない壁があった。
私はその事実を、はっきりと伝えた。
マクスは――少しだけ悔しそうな顔をして、それでも笑った。
『じゃあ俺は、別のやり方で関わるよ』
そう言って、彼は道を変えた。
魔導具を“作る側”ではなく、“扱う側”へ。
商人としての道だ。
これが、見事に当たった。
マクスには、人を見る目があった。
物の価値を見抜く力があった。
そして何より――
「それを誰に届けるべきか」を理解していた。
彼は私の魔導具を最初に仕入れた人物でもある。
そして、それを“正しく売った”。
必要な者に、必要な形で。
結果として、私の魔導具は広まり、
同時にマクスの商いも大きくなっていった。
その後――
私は魔導具の研究に没頭するようになり、
彼との交流は自然と途絶えた。
三百年という歳月は、あまりにも長い。
だが――
「家名を得て、ここまで繋いできたとはな」
私は小さく息を吐いた。
「懐かしいよ。マクスは私の魔導具を初めて世に出してくれた男でもある」
「はい。今のマクスウェル家があるのも、エドソン様あってのことと聞いております」
マースが柔らかく微笑む。
その表情は、やはりどこかマクスに似ていた。
「しかし……何故変装を?」
「ワーマル族は、人族からの印象があまり良くありませんので」
マースは淡々と答えた。
「それもあって、表では人の姿で過ごすようになったのです」
差別、か。
時代が変わっても、そういう部分は残るものだな。
「ですが――」
マースが続ける。
「この指輪、元はエドソン様が作られたものと聞いております」
「……え?」
思わず間の抜けた声が出た。
全く覚えがない。
「ご主人様。記録にございます。マクス様からの依頼で作成された“変化の指輪”です」
メイが即座に補足する。
……ああ、完全に研究に没頭していた時期のものだな。
「この指輪は我が家の家宝です」
マースが静かに言う。
「そ、そうだったのか。それは……大切にしてくれてありがとう」
内心まったく記憶にないのだが、ここはそう言っておくべきだろう。
マースは満足そうに頷いた。
その様子に、マクスの面影が重なる。
「さて」
私は気持ちを切り替えた。
「昔話もいいが、本題に入ろう」
視線をマースに向ける。
「カミラの現状。それとゴーン商会を狙う連中の正体。そして――吸血鬼との関係だ」
「はい」
マースの表情が引き締まる。
「エドソン様が気にされている三つの件ですが――」
一拍、間を置く。
「それらは、全て繋がっております」
「やはり、か」
予想はしていた。
だが確証が得られたのは大きい。
「繋がっているということは、共通する原因があるということですね」
メイが確認するように言う。
マースはゆっくりと頷いた。
「ええ。その通りです」
そして――
「一連の事件。その全ての裏には――」
わずかに声を落とす。
「この都市を統治するエクサス家が関わっています」
空気が変わった。
「そしてカミラ様は現在――」
マースははっきりと告げた。
「エクサス家の手によって、幽閉されています」




