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1-2話 姉妹のような彼女達は


 彼がエレイン達に救われてから、正確な時間は分からないが、結構な時が流れた。

 怪我も順調に快調に向かい、軽い運動程度なら問題なく行えるようになると、今まで何もわからなかった身の周りのことが分かってくる。

 例えば彼がお世話になっているこのエレインの家だ、ここは木々に囲まれた森の中にポツンと一軒だけ建っている。

 周りに人影など無い、歩いて半日ほどの距離に小さな町があるそうだがその町を彼はまだ見たことがなかった。


 家の玄関から数百メートル先までは木を根本から取り除いたのか、切り株や雑草の姿がなく代わりによく手入れされた庭園があった。

 その庭園には野菜や果物が植えられており、その種類は一目見ただけで健康面より好みで育てているなと分かってしまうような偏り方をしていて。

 特に動物や虫の対策をしているように見られなかったので、食い荒らされたりはしていないのかと聞いてみると、どうやら家から半径数キロを円状に生き物が入ってこない魔術結界が設置されているそうだ。

 中々強力なものの様で、考えてみれば虫一匹たりともこの家で見かけてはいない。

 …まあ、野生生物としては良い迷惑なのだろうが彼にとっては単純に魔法の便利さ加減に舌を巻く程度の感想しかなかった。


 それから、この家に住んでいる住人についてとこの家の構造についてだ。

 ここに住んでいるのは彼を除いて二人だけ、つまりエレインとリカだけだった。

 成人もしていないだろう子が二人で人里離れたこんな場所に住んでいるなんて、深刻な事情があるに決まっているが、突然上り込んできた彼がずけずけとそんな事情にまで踏み込んで聞くこともできず、そこのところの事情を彼は知らないままだ。


 そして、子供の範疇を出ていない二人が住んでいるこの家は、同時に二人だけで住むには不釣り合いなほどの規模と部屋数を誇っていた。

 リビング、厨房、寝室、浴室などがある建造物の他に荷物を引かせるのか見た事の無い大きく毛むくじゃらな生き物が飼われている小屋と農作業や木の加工等に使いそうな工具、また害獣、もしくは魔物等と戦うための武器が入った小屋が三つあった。

 青年が使うのは最初に挙げた生活スペースのみで他の小屋はエレインとリカが付き添いで見せてくれた最初の一回目でしか入ったことがない


 ともあれ、住んでいる場所からある程度の広い範囲で襲いかかってくる魔物などがいないという事と当分の生活も安定しているようで安心したのだが、何時またあの悪魔のような怪物に襲われるか分からないなんて、リカがそんなことを言って逆らえないような圧力を掛けてくるものだから、彼は体を動かすことと、簡単な魔法、それと基本的な勉強を拒否権など無く学ぶこととなった。

 青年だって、自分に必要なことな上、普段から身の回りの世話をしてくれているリカからからの提案であるそれに、異議を唱えれるほど図太くはないのだ。


 そんなこんなで、何から何までサポートして貰い気が引けている中で、彼はさらに彼女達から様々な事を学ぶこととなったのだが。



「全然駄目ね」

「ぐっ!」



 机を挟んで向かい合ったエレインが彼の提出した一枚ものの用紙を手に持ち、嘲笑を含んだ薄い笑みを浮かべた。

 投げかけられた厳しい言葉に言い返すこともできず机の上に並べられた大量の書物を睥睨して、悔しげに口を引き絞る。

 書物には、大量の文字が羅列されその脇には所々幾何学的な模様や人型の生き物や獣の変異、または自然を表すような絵を歪める図が描かれている。

 何となく分かるかもしれないが、彼はエレインに魔法について学んでる最中だった。



「点数にすると60点くらいかしら、基本を軽く把握してはいるみたいだけど応用しようとすると粗が出てるわね」

「…はい、書いていて自分でも感じました」

「へえ、どう感じたのかは知らないけど、足りない部分が分かってるのなら良いじゃない。何度も言うようだけど、魔法を使うだけなら動物でもできるわ、魔法は使うより性質を知ることが大事なの。自分が使うとき、相手が使ったとき、もしくはどの魔法が使われているかその対応ができるかが生死を分けるの」

「生死って、…ずいぶんと物騒ですね」

「物騒な世界だもの、歩けば常に命の危険が伴うわ。それはあなたも既に実感してると思ったのだけれども、忘れてしまったの?」

「それは…」



 忘れるわけがない。

 あの怪物に襲われた時のことを、理不尽なほどに蹂躙された時のことを、彼は忘れたくても忘れることが出来なかった。


 血の気が失せる、呼吸が乱れる。

 正常な思考がぼやけ、あの時の光景が脳裏に蘇る。

 荒くなっていく呼吸とぼやけていく視界の中で、怪物の嗤いが彼を蝕む。

 走馬灯のように駆け巡っていた彼のそれは、頭に加えられた衝撃によって遮られ、気が付くと彼の視界にエレインのいつも通りな不機嫌な顔が映し出される。



「まったく、トラウマを刺激した私も悪いけど早く克服したほうがいいわよ、それ」

「あ、ああ…、すいません…」



 額を叩かれたのか、ひりひりと痛むおでこを軽くさすりながら、今やるべきことに集中しようと机上に視線を彷徨わせるがフラッシュバックするかのように思い出される怪物の表情に邪魔をされ、まるで目の前に集中することが出来ない。

 呆れたような短い嘆息を吐くと、エレインは机上に広げた資料の数々を片付け始めた。



「ま、待ってください!まだやれます!」

「馬鹿、今の今まで休みなくやってたんだから少し休憩するだけよ。教えるこっちだって

疲れるんだから、特にあなたみたいな理解の遅いのを相手にするときはね」



 エレインは厭味ったらしい、言い捨てて使い終わった資料を小脇に抱えるとそのまま椅子から立ち上がり部屋から出てってしまう。

 知らないうちに緊張していたのか、彼はエレインの姿を見届けると急に体に重さを感じて、少しでもやる気を見せようと背をもたれさせず綺麗な姿勢でいたの解いてしまう。

 彼はそのまま、目の前に散らばる分厚い書物を片手で拾い上げ、学んだ部分を流し読む。


 魔法、それは物理法則を覆し、自然現象を任意で引き起こし、そして奇跡すらも起こすもの。

 相応の対価と正確な指向性を想像さえできれば様々な方法で発現させることが出来る。

 それは魔力のみを対価とした呪文で起こすものであったり、力のある文様を描き魔力を発火装置として使うだけのものであったりと多くの種類があり、工夫さえすればいくらでもやり方を作り出すことが出来るものであるらしい。


 少し学んだ個所を飛ばして読み進めていっても、魔法の種類の底はいつまでたっても見えてこなければ、想像だにしていなかった技術の応用の数々が記されている。

 終わりがあるのか、そんなことが彼の頭をよぎった。


 早くやらなければならないことがある。

 こんなことをしている時間は無いはずだ。


 そんな言いようのない焦燥感、理由のわからない焦りがこのままではいけないと彼を追い立ててくる。

 彼の知識の習得は、完全に彼女たちの善意によるものだ。

 そしてそれは彼にとって何よりも大切なことであり、必要になるであろうことなのはまず間違いない。

 だからこそ、彼自身そんな理由の分からない焦りを感じている自分自身にいらだちを感じていた。

 あまりにも恩知らず、あまりにも無計画。

 命の恩人でもあるはずの彼女たちに、あまりにも失礼だろう。

 彼はそんないらだちを振り払うように、荒々しく開いていた書物を閉じた。

 


「…」

「…あ」



 そして、その書物の持ち主であるエレインが、両手に軽くつまめるような軽食を持った状態で彼の前に立っており、無表情で椅子に座っている彼を見下ろしていた。

 にっこりと彼女は微笑んで、冷や汗を止めることもできない彼の正面に腰を下ろし、何ごともなかったように彼に皿を差し出す。

 地響きがするような感覚に襲われ、彼は体が震えていることに気が付いた。



(ああ、これは死んだかもしれないな…)

「…じゃあ、続きを、始めましょうか」

「よろしく、お願いします…」

 

 



 彼自身、自分の記憶喪失についての実感はある。

 頭の中に虫食いになった空白があり、思い出そうとしても思い出すことが出来ない。

 あたかも初めからそこには何もなかったかのような感覚だ。


 こうして、様々な知識や常識を習うようになり多くのことを知識として身に付けてきたが、彼には違和感があった。

 今習っている魔法は穴が埋まる感覚ではなく、広がっていく感覚、…うまい言い方が思いつかないが、新しいものを覚えていっている気がするのだ。

 

 どういった経緯でこんなことが起きているのかは分からないが、エレインが言うには魔法関係は本当ならば子供でも知っている常識だそうで基礎も全く知らないというのは、考え辛いらしい。

 ということは、今の彼の状態はどういうことなんだろう。

 もちろん彼の感覚が間違っているということも考えられるが、彼は腑に落ちていなかった。



「うわぁ、お疲れ様だね、エリィが半刻くらいは休憩にするって」

「…あ、リ、リカさん、ありがとうございます。僕、頭から煙とか出てないですよね。なんか異常に頭が熱いんですけど」

「…うん、今日はもう休憩にするよう私から言ってみるよ」



 休憩を言い渡され、地獄の勉強トライアスロンから解放された彼が机の上に上半身を投げ出し、意識を朦朧とさせていると、いつの間にか部屋に入ってきていたリカに声を掛けられた。

 彼は氷の入った冷たい飲み物を透明なグラスに入れ持ってきてくれたリカに感謝を伝え受け取る。

 一口飲むと冷たい液体が喉を通り火照った体を冷やしてくれる。


 

「少し怪我の具合を見るから上の服を脱がせるね」

「あ、はい、お願いします」



 するすると伸びてきた包帯まみれの腕があっという間に彼の服を脱がせてゆく。

 他人に脱がされているというのになぜだか不快感を感じないのは、リカの立ち回りがうまいからなのか。

 碌な抵抗もできないまま半裸になるとひんやりとした柔らかい手のひらが首元から順に上半身を触診していく。

 怪我が酷かった右肩を入念に触れて、何度か肩を回すように指示されたり強く押されたりして痛みがないかの確認を行うと満足そうに頷いた。



「うん、もう日常生活に支障はないかな」

「あ、ありがとうございました」

「全然運動してなかったんだから、筋肉量が減ってることは忘れちゃだめだよ」

「…はい」

「あとは―――」

「あ、あの…」



 リカの言葉をさえぎると、リカは不思議そうに口を閉ざして彼の言葉を待つ。

 


「怪我が治った後って…、僕はどうすればいいんでしょうか」

「…えっと、それはどういう?」

「あの、今僕はこうしてお二人のお世話になっている訳じゃないですか」

「ああ、うん」

「お二人の介護で、何とかこうして日常生活を送れるくらいに回復することが出来て、思ったんです。何も知らない、何もできない僕が怪我が治った後、本当に一人で生活できるのかなって」



 彼は目線をリカに合わせることもできず、手元の湯呑に落とす。

 不甲斐ないようなことを言っている自覚はあった。

 言い換えれば、怪我が治っても追い出さないでほしいと言っているようなものだ。

 見ず知らずの他人を、ここまで治療してくれただけでも望外ものの優しさで。

 これ以上を求めるなんて、かれは本当はしたくはなかった。


 それでも、あの経験が。

 あの怪物に襲われた経験が、無防備に外界に出る事への拒否反応を起こさせる。

 せめてここでの常識を覚えるまで、何が危険か分かるまで、ここでの生活が軌道に乗るまで、なんとか助力を貰いたいと考えさせられてしまう。

 それがどれだけ惨めな行為でも、少なくともこんなところで死にたくはないのだから。



「あー、んー、…まあそうなるよね」

「はい…」

「あの子が、…エリィが言ってたのは、怪我が治るまで。あの時のことを考えれば、このまま治療終了と同時に手ごろな街に送り届けて終了なんだけど…」

「…ッ」



 非常に言いにくそうにそんなことを言うリカに、彼は予想していたとは言っても少なくないショックを受け、これからの生活の難しさを考え血の気が失せた。



「でもまあ、あの時考慮してなかった状況もあるわけだから再考の余地はあると思うんだよね…。」

「それは、つまり…?」

「んん…」



 言葉を濁すリカに軽い苛立ちを覚える。

 彼としては濁した返答で変な希望を持たせるのは、心情的に本当に勘弁してほしかったが、同時にリカも自身が伝えようとしていることが言外に伝わらないことに、勘弁してくれと言わんばかりに小さい溜息を吐いた。



「…私はあくまで保護された人間なんだよ」

「え?」

「だから、私はエリィに助けられただけの人間で、エリィの決定に異論をはさむほどの力はないの」



 つまり、と言って戸惑う彼の目前に指を突きつける。



「あなたは頼む人を間違えてるの。私にいくら言っても、せいぜい私がエリィに対して、そんなことを言ってたよって伝えるだけになっちゃうの」

「そ、れは」



 その通りだった。

 伝える相手が違う、頼む相手が違うのだ。

 いつもは優しい普段と異なる強い口調に、彼は二の句も告げなくなる。

 


「まったく、ほんとは私が言えることじゃないのに、なんでこんなことを言わなくちゃいけないんだか」



 呆れたようにそう言って、飲み物に口を付けたリカは彼の後ろを顎で指し示す。

 


「ほらね、威圧的な態度ばっかりとってるから、こういう大切なことをエリィじゃなくて私に言うようになっちゃうんだよ」

「…わ、私は別に」

「へえ、ふーん。そっかそっか、じゃあ私の勘違いかな?」



 何時の間にか彼の後ろにいたエリィに、リカの矛先は向けられる。

 彼はエリィの存在にまるで気が付いていなかったため、目を見開き、慌てて背後へ振り返った。

 そんな彼の反応に、何時もなら嫌味の一つ投げかけるエリィが今はリカの鋭い矛先に、エリィは厳しい視線を彼に送っていたことも忘れ、タジタジとし始める。



「私が何度も何度も言い含めていたことをぶち破って、言葉の暴力をふるい続けていると思ったけど、私の目が節穴で、私の価値観が狂っていただけなんだね」

「い、いまそれは言うべきではないと、思うのだけど」

「私が、悪かったんだよね?」

「ち、違うわ」



 ごめんなさいと言って、空気が抜けてしまった風船のようにショボンとしてしまったエリィの様子に、彼は状況が飲み込めず硬直していたが、目線で何かを訴えているリカに気が付き、慌ててエリィに対して声をかける。



「あの、エレインさん」

「…なにかしら」

「僕を、もう少しだけ、この家に住まわせてもらえないでしょうか」



 ちらり、とエリィはリカの方を盗み見てから、心底忌々しそうに青年へ目を向ける。

 エリィは自身の見えない位置で彼に向かってリカが、良くやったと小さな声で称賛を送っていることに気が付かない。



「…つまり、いつまであなたを私たちは世話してればいいのかしら?」

「…僕は、何にも出来ないってことは、これまででよく理解しました。何かしら取り戻すことが出来るだろうと思っていた、記憶も技術も一向に元に戻らない。…生きていけないと、思ったんです」

「ふん、まあ、そうでしょうね」

「だから、僕が僕として生きていける何かと取り戻すことが出来るまで、手伝ってほしいんですっ」



 彼はいつの間にか強く握りすぎていた手に気が付いて、手を数度握りなおす。

 手のひらに掻いていた汗が、空気に触れ冷たくなるのがやけに鮮明に感じられた。


 彼は、自身が言っていることが酷く自分本位な意見であることは分かっていた。

 けれど同時に、彼が頼ることが出来る存在が目の前にしかいないのもよく分かっていて。

 ここで断られることが、自身の生死に直結するだろうことも今になって理解してしまった。



「ずいぶんと、自分勝手だと思わない?」

「そ、その通りだと、思います…」

「そうよね、私たちには何の責任もなくて何の義務もない。貴方を世話することで得られる報酬もないし、逆に払わなければならないものもないと思うの」

「…」



 言い返す言葉もない。

 これからどうしようと、彼は頭の中でそんなことを考え始めて。



「…まあ、そうね。でも、貴方の素性にも興味が出てきたし、貴方の要望を飲んでもいいわ」

「…え」



 続けられた言葉に、彼は一瞬反応が遅れた。

 冷水を浴びせ続けられた後に熱湯に突き落とされたような気分で、彼は何度か瞬きしながらエリィを見つめる。

 彼女は大きく鼻を鳴らして、形のいい眉を不機嫌そうに歪めた。



「なにか、不満でもあるの」

「い、いや、ほんと助かります」

「………ふん」



 彼は顔をそむけたエリィをしばらく眺めていたが、背後から漏れてきた笑い声にエリィとそろってその声のもとに顔を向けた。



「ふ、ふふ」



 いつの間にか声の主であるリカは彼らの方を見ておらず、顔を俯かせ口元を押さえて体を震わせていた。

 なにを見て笑ったんだろうと思う青年とは裏腹に、頬を紅潮させたエリィは歯ぎしりが聞こえそうなほど歯をかみ合わせ、鋭い視線をリカに投げかける。



「っ、リカ!!」

「ふ、…ごめんごめん、何でもないから、…ふふふ、いやほんとに、何でも、くふっ」

「このっ、このいじめっ子めぇ!!」



 その言葉と同時に動き出したエリィを、彼は捉えることが出来なかった。

 顔を俯けていたリカの姿が消えたと思った瞬間には、椅子が倒れ二人が床で揉み合いを始めていた。

 ゴロゴロと掴み合いをする二人の視界に、すでに彼の姿はない。



「いつもいつも私を子ども扱いしてぇ!許さないんだから!!」

「ば、ばかめ、こんなことをするから子ども扱いされるんだと気が付かないの!?」

「一見子供はそっちでしょうが!このちびすけ!」

「それは言っちゃいけないやつ!あ、もう怒った、実力差を見せつけてやる!」

「やって見せてよ、リカのバーカ!非力なことは分かってるんだから!けちょんけちょんにしてやるぅ!」

「――あ、これダメなやつだ。ちょ、ちょっと待って、ごめんごめん、私が悪かったか、あ」



 ゴロゴロと床を転がる二人の攻防は延長戦に突入したようで、ドアから廊下へ飛び出していった二人の姿は、あっという間に彼からは見えなくなる。

 それでも聞こえてくる二人の喧騒は、どんどんレベルが下がったものになっていて、二人がどんな状況か見に行かなくとも理解できた。



「リカのバーカバーカ!ムーとあいつの世話ばっかりして私のこと構ってくれなくなって、酷いよ!」

「な、なにが酷いもんか!私だって何でもかんでも手が届くわけじゃないんだから、自分のことくらい自分でやりなさい!この前部屋掃除したら、前日使ったコップが置いてあったんだから!せめて洗い場に出してよ!」

「知らないもん!毎日私の部屋に来ないリカが悪いんじゃないの!?」

「またそんな子供みたいなこと言って!!!」


「………」



 青年はとりあえず、明るくなった自分の未来に安堵しつつも何とも言えない気分を味わうことになった。

目の前にある何とか無事だった飲み物をじっくりと眺めたあと、口に付けると少しだけその気分も落ち着いて。

 ちょっとだけぬるくなってしまったそれに、もう一度口を付けるのだった。



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