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さすらう8



 目が覚めるとハンスキン。


「うぇ!? 生きてるぞ!」


「やり直しを要求する。受付嬢ちゃんだ。受付嬢ちゃんが心配して覗きこんでる感じで頼む」


 ふざけんなよ。なんでオヤジ顔のアップなんだよ。ここはフラグの立てどころだろうが。


 長々と見るものじゃないので、起き上がろうと体を起こしたところで鳴るガラガラ音。


 なに? 俺のせい?


「ああ待て、動くな。お前、椅子やら机やらが積んであったところに突っ込んだんだが……まあ、覚えちゃねーわな」


 呆れ顔のハンスキン。眼球だけギョロギョロと動かしてみたところ、木製の椅子やら机やらの脚が散逸している。どうやら頭の上には上手い具合に崩れそうになっている山があるらしい。


 取り除いてくれている冒険者が隙間からチラホラ見える。


「……なんて危機的状況なんだ」


 ストップ二次災害。


「危機的状況が去ったから今の状況なんだがなあ……」


 俺の隣にあった机をどかしながらハンスキンがぼやく。


「ああ、そういや新人は? なんか期待とか注目とかされて去っていった?」


「……おめえも新人だろ。まあ、誰のこと言ってるかはわかるが……」


 ハンスキンが言うには、俺の抵抗が功を奏したのか、期待の新人現る! な一幕ではなく、あの金髪坊主は危険な新人として見られているらしい。


 あの後、勿論のこと受付嬢からは注意を受け、これは減点対象で罰則が課せられると告げられたところ、金髪坊主は不遜な態度で勝ち誇ったように言ったらしい。


「まだ冒険者登録を済ませていなかったので、減点も罰則もおかしいですよね?」


 それなら普通に暴行だと衛兵を呼びに行こうとした冒険者に、ただの喧嘩に衛兵を呼ぶのはどうだろう? これでも俺は貴族の末席に名を置いている。下手な行動はしない方が身のため、と脅迫めいたことを述べていたらしい。


 当時の状況を思い出したのか、ハンスキンはほとほと呆れたと軽く息を吐いた。


「ただの喧嘩に魔技なんて使うかね? 下手すりゃ死んでるぞ」


 はい、魔技いただきました! きたね。これキタね!


「魔技……なるほどね。魔技ってなんですか?」


 教えてハンスキン先生。


「ああ、知らねえのか。まあ村出身ならしょうがねえか……。いいか魔技ってのはなあ――」


 魔技というのは、魔力を込めると発動する技の総称らしい。


 魔法とは別に、魔道具の中には魔力を込めるだけで一定の動作をする物があるらしく、その威力や精度によって階級分けされ戦闘に用いられるそうだ。


「あいつが使っていた魔言<ワード>から見るに、八級打撃系の魔技だな。……普通に犯罪だぞ? なに考えてやがんだあの坊主は……」


 階級は全十一階級に分けられ、下から、十、九、八……と上がっていき、一、零が最高位となるらしく、十級でも戦闘系の魔技はモンスターを打倒することを主眼に考えてられているので、威力が高いのだとか。八級からは一般人を十分に殺傷せしめる威力があるため、街中での行使は攻撃魔法使用に準ずる違法だそうだ。


 大体の攻撃力は、


 十級→一般人が重傷を負う威力。


 九級→一般人を殺傷する威力。


 八級→武装した一般人を殺傷する威力。


 が目安となる。


 十、九級の威力も大した物なのだが、武装したら同じような威力が出せるので違法には制定されず、力の弱い魔法職が喧嘩時の護身用に装備していることが多いとか。


 ただし八級からは違法だ。


 武装していなければ十分(・・)に人を殺せる威力があるので、当然ながらギルド内云々ではなく街中での使用が禁止されている。


 なにそれ怖い。


「貴族様だから勘違いしてんのかねえ」


「おお、そうだ。あの金髪坊主、貴族だったんだよね? じゃあなんか許されんじゃねーの? こう……無礼者がっ、的な?」


 斬り捨て御免制度みたいな。そう考えると日本すげーな。


 椅子を片手でどかしながら、ハンスキンが呆れた視線を俺にも向けてくる。


「無礼打ちか? あるっちゃあるが……冒険者やろうってんだ、そんなんそれこそラビの数ほどってやつだろうが。第一、法を犯せば家名を汚すしギルドだって黙ってねえよ。それこそ名声欲しさの貴族の冒険者が地方まで来てそんなミスするか? よっぽど頭ん中お花畑なんじゃねーか」


「名声欲しさってなんだ?」


「あ? あー、端くれ貴族の三男やら四男はな、手っ取り早く有名になるために地方から冒険者を始めることが多いんだよ。首都なんて優秀な冒険者で溢れてっからな、そこそこな装備や腕を持ってても埋もれちまうんだよ。そこで有名どころのいない田舎に出向いて冒険者を始めるとだな、その装備やらお供の実力やらで直ぐさま有名どころの仲間入り、ってな」


 大海の蛙、井の中に戻る、ですね。


「まあ首都に名前を響かせようって魂胆だろうな。いいとこの貴族家の目に止まれば婿入り、手柄を立てて領地でも貰えばまた貴族生活って感じだろ? それだけに悪名轟かせてどうすんだって思って…………あれ? お前全然怪我してねえな」


 椅子や机をどけ終えてようやく明るいところに出られた俺に、ハンスキンが言う。


「机の山ん中にいた時は暗くてよく見えなかったけどよ、顔は壮絶に腫れてんのかと思ってたんだが……いや、傷一つねえな? お前、顔面に魔技叩きこまれて一回転してたんだが。首が変に折れ曲がってたとかいう奴もいてよ」


「はははは、あんなボンボンのグルグルパンチ、蚊に刺された程も痛くありませんね」


「頑丈だな。そういや最初に着てた服もボロボロだったのに傷一つなかったな」


 足を怪我してたでしょーがっ! 足を!


 立ち上がった俺は周りで片付けを手伝っていた冒険者やギルドの人にお礼を言っていく。


 当然ながら、金髪坊主パーティーはいなくなっていた。なんでも机の弁償代などは支払ったとか。


「お前の怪我の治療費もそっから出すかってギルドの方は言ってたんだけどよ、そんぶんならいらねえな」


「うっ! なんてこった……今になって首に痛みが!? お、折れてやがる……!?」


 とっさに首を抑えてうずくまる俺。目の前の受付嬢、リアスちゃんをチラチラ。


「…………。ちょっと儲かったんで、片付けに従事してくれた皆さんにエールつけまーす!」


 あ、あれ。見えてないのかな? ちょっと摺り足で近づいてみようかな。


 まるでいない人みたいに扱われる俺。受付に帰っていくリアスちゃん。


 酒盛りが始まったところで、俺は無言で立ち上がった。


「……仕事の時間かな?」


 仕事人的な意味で。


 得意の指鳴らしをバキバキと披露していると、ハンスキンが肩に手を置いてくる。止めるな。


「お前、そんなに頑丈なら丁度いいぜ。ポーターやらねえか?」


 運び人<ポーター>だと? 言われなくても俺の金(治療費)で酒を飲んでる連中を冥府に送ってやるわ。決め台詞は『酒を見る度思い出せ』とかで。


 ニカッと笑うハンスキンに荒んだ表情で振り返る。


「日当二万五千プラス取れ高制でどうだ?」


「直ぐにお荷物お持ちしますね! これですか?」


 魔技とか治療費とかどうでもいいですよね!


「いや待て待て。色々買い揃えにゃならんしな。すぐ出発ってわけじゃねえぞ」


 おっと。ちょっと気が急いてたぜ。


「そういえば、えーと、何をどこに運ぶんすか?」


 ヤバい粉とかじゃないよね? 違法な粉とか小麦粉似な粉とか。だとしたら俺も一言言わせて貰うぞ。安い。


 疑問を呈す俺にハンスキンは何でもなさそうに答えた。


「ダンジョンに潜る」



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