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22話 川で釣り

 今日は休日。

 俺とアリスは、リザヴトとヴェルレアと共に川へとやってきていた。

 碌にアウトドアレジャーを経験したことがない俺たちを、リザヴトが川に誘ってくれたのだ。


 周りには俺たちを囲むように緑の山々が並び、青い空には鳥がさえずっている。

 のどか、という言葉がぴったり当てはまるようなスポットだ。


 俺とリザヴトは、穏やかな流れの川に釣り糸を垂らしている。

 針の先に付いているのはルアー。

 小型の魚と同質の魔素を放つルアーを使って魚をおびき寄せ、釣るのだ。


「釣れたか?」

「忍耐の時……」


 どうやらまだらしい。

 そんなにすぐは釣れないのだろうか。釣りをするのは初めてに近いから、勝手がイマイチわからない。


 川へと目を移す。

 透き通った川は水底の小石まで優に見渡せ、その光景を見ているだけで涼しげな気分になる。


「リザヴトさんの趣味が釣りだったなんて、知りませんでしたよ」


 そう言いながらアリスが近づいてくる。

 アリスも釣りはしたことがない。

 経験者と言えるのはリザヴトだけだ。


「山の雄大さ。川のせせらぎ。精神の落ち着き」


 リザヴトは目を閉じ、耳を澄ませてアリスに答えた。


「リラックスできるってことですか?」

「然り」


 リザヴトがコクンと頷いた。


「私釣りって初めてなので、ちょっとワクワクしています。色々教えてくださいね」

「俺にも頼むな、リザヴト」

「承知。熟練の技の見せどころ……!」


 おお、リザヴトが張り切っている。

 これは期待が出来そうだ。





 数時間後。

 俺は三匹、アリスは四匹の魚を釣り上げた。

 その後昼に差し掛かったので、俺たちは釣りを休止し昼食をとる。

 今は昼食終わりの休憩時間だ。

 しかし、なんとなく一人の空気が重い。リザヴトだ。

 理由は単純、リザヴトだけまだ一匹も釣れていないからである。


「に、忍耐の時……」


 リザヴトはプルプルと震えながら言う。

 それに応対したのは、酷く間延びした声だった。


「頑張るのじゃリザヴト~。妾は応援しておるぞ~」

「清々しいほどやる気のない応援だなお前」


 釣りもしないし、何しに来たんだろうかコイツ。


「ここまで来るので体力を使いすぎたのじゃあ~。もう何もしたくないのじゃ~」


 河原に敷いたシートの上に寝転がるヴェルレアは、ゴロゴロとその上を転がる。


「ヴェルレアさん、途中からリザヴトさんと魔王様に背負われっぱなしじゃなかったでしたっけ。なのに疲れたんですか?」

「だ、だって草が腰より高いんじゃもん。ちょっと歩いただけで疲れて敵わん。じゃからあれは仕方ないのじゃ」

「ああ、お前ちっこいもんな」

「誰がちっこいじゃ! 魅力が凝縮された体形と言わんか!」


 動揺したのか、ヴェルレアはスクリと立ち上がって言った。


「外見は内面を表す、とはよく言ったものですよね」


 怒り始めたヴェルレアに、アリスが宥めるような声色で声をかける。

 それを聞いたヴェルレアは満足そうに首を何度も縦に振った。


「ほうほう、アリスはよくわかっているようじゃな」

「ヴェルレアさんは可愛くて」

「うむ」

「庇護欲を掻き立てられて」

「うむうむ」

「精神年齢相当の容姿をされています」

「うむうむ。……あれ、妾馬鹿にされてない?」


 されてるぞ。

 からかわれていることに気が付いたヴェルレアは頬をむくらせアリスを睨む。


「むむぅ~! 妾は一万歳じゃぞ! 偉いんじゃぞ! アリスの馬鹿! 貧乳!」

「ひ、貧乳!? それは関係ないじゃないですか!」

「い~や、胸の大きさはすなわち器の大きさじゃ。お主は随分と狭量なようじゃのぉ」

「そ、そんなあっ……!」


 あ、アリスがノックダウンした。


「口喧嘩で勝ったのは久方ぶりじゃ、気分が良い」


 勝ち誇るヴェルレア。

 ……ふむ。


「なあヴェルレア」

「うん? なんじゃ?」

「どうでもいいけどさ、その理論で行くとお前も相当器小さいよな」


 俺はヴェルレアの身体を顎で示しながら言った。

 これ以上ないほど見事な幼児体型。もちろん胸もない。


「なっ、なんじゃとぉ……! よく見てみぃ、妾の胸は大き……くはないが、そこまで小さくも……あるのう。……小さいのう。……ぐふっ!」


 あれ、ヴェルレアまで地面に蹲ってしまった。


 地面に無様に横たわる二人と立ったままの俺を見比べて、リザヴトが俺の腕を上に掲げる。


「勝者、魔王様!」


 どうやら俺はいつの間にか二人の口喧嘩に参戦したことになっていたらしい。

 というかそもそもお前審判だったのかよ。


「勝者の感想」


 マイクを模した手を向けられる。

 ……こういうことされるとちょっとテンション上がって来るな。なんとなくその気になってきた。


「俺はいつ何時でもさらなる強者を待っているぞ! 来たれ、挑戦者!」

「わー、わー」


 観客の声までやってくれるとは、さすがリザヴトだ。

 なんだかんだリザヴトも気持ちを切り替えられたようだし、午後はサクッと十匹くらい釣ってくれるだろう。








 そしてさらに数時間後。

 日が暮れてきた中、リザヴトは無心で川に糸を垂らす。


「忍耐の時……」


 今日のリザヴトは耐え忍んでばかりだな。

 まだ一匹も釣れてないぞ。

 そんな俺たちの視線を感じ取ったのか、リザヴトは言う。


「好きと上手は違う。これすなわちこの世の真理」


 なんか知らんがカッコいいな。

 とその時、リザヴトの竿が僅かにしなった。


「あ、リザヴトさん、かかってますよ!」


 アリスの声と同時にリザヴトは竿を持ち上げる。

 しかし竿はしなるばかり。

 数秒のこう着状態の後、水面がバシャリと波立った。

 今まで俺とアリスが釣ったものとは比べ物にならないほどの大きさの魚が食いついているようだ。


「おお、でかいぞ!? リザヴト、頑張れ!」


 俺たちはリザヴトに声援を送る。

 リザヴトは緑の顔を真っ赤にするほど気合を込めて、全身全霊で竿を立てた。


「漆黒の……饗宴んんっ!」


 バキンと音を立て竿が折れるのと同時に、水中に隠れていた巨大な魚が宙に浮く。

 その体長は少なく見積もっても八十センチはありそうだ。


 しかし、魚は俺たちの手前で落下し始める。

 このままだと逃がしてしまうことになりそうだ。


「し、漆黒の饗宴……!」


 リザヴトが悲痛な声を上げる。

 ――その傍らを、銀髪の吸血鬼が駆けて行った。


 風と見間違うほどの速度のヴェルレアは宙を跳ねる魚の尾を正確に掴む。

 そしてそのまま二十メートルほど先の対岸へと着地した。


「カッカッカ、協力ぷれいというやつじゃ!」


 ヴェルレアが自身の首までありそうな魚を笑顔で掲げ。


「漆黒の饗宴っ!」


 リザヴトが歓喜の声をあげた。





 そして帰路。


「なに? 帰りは最後までリザヴトが背負ってくれるのか?」


 こてんとあざとく首をかしげるヴェルレアに、リザヴトはコクコクコクコクと高速で頷く。

 だが、リザヴトはそこまで身体能力が高いわけではない。

 正直ヴェルレアを背負って帰り道を往くのは相当な苦行だと思うのだが、リザヴトはそんな心配など頭から飛んでしまっているようだ。


「巨魚の恩義! 誠意の奉公!」

「むふふ、そこまで言うなら仕方ないのぉ。妾を運ばせてやるのじゃ、光栄に思うがよいぞ?」


「カッカッカ!」と胸を張るヴェルレアを、満足そうに背負うリザヴト。


「大丈夫ですかねリザヴトさん。あの人見ための割に体力ないのに……」

「本人が望んでるんだから、好きにさせたらいいだろう」


 嫌々やってるわけじゃなく、進んで背負ってる訳だしな。

 アリスはリザヴトに背負われるヴェルレアをチラリと見る。


「……魔王様、私も疲れました」

「そうか。頑張れ」


 俺は背負わんからな。


「魔王様冷たい! 冷酷非道! この魔王!」

「魔王に対して魔王と言っても悪口にならんぞ」


 だって実際魔王だし。


「どうしたんですか魔王様。魔王様は私の荷馬車のごとく働くという契約だったじゃないですか。忘れたんですか?」

「そんな契約誰がするかっ!」

「確かにしてないですね。でもどうでしょう、今日一日『契約した』ということにしてみませんか?」


 なぁに言ってんだコイツ。

 よく真面目な顔でそんなこと言えるな。


「そんなことをしても俺のメリットがないだろう。もしあると言うなら言ってみてくれ」

「私を背負えます」

「話にならんな」

「よく考えてください魔王様。私の肌の温もりを背中に感じられる、こんなご褒美が他にあるでしょうか。いえ、ありません」

「お前と話していると力が抜けるよ……」


 屁理屈を並べるアリスをあやしながら、俺は川を後にするのだった。

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