待ち人
朝の演目は、ウィザの幻想的な魔法で大盛況に終わった。その熱狂はそのまま後の卒業演目者へとそのまま引き継がれていった。ワット、ミーニャ、キラービーのダイス、それぞれが自身の一番得意なものを使って観衆を大いに楽しませた。
午後の一番初めはソドだった。春の暖かい日差しに包まれる中、彼の奮戦によってそれ以上に熱い雰囲気に包まれた。ソドは前にピスとウィザに宣言していた通り、演目はフィロス先生との練習試合になった。詳しく書きたいが、それはまた別の機会に書くとしよう。
さて、ピスはフィロス先生からソドとの演目が終わったら演習場の入場門に来るようにと言われていた。その言に従って、試合を観戦した後、席を外して入場門まで下っていく。
そこは観覧席の入り口とは異なり、演目者のみが通ることができる大きく荘厳な門だった。
人が10人並んでとおっても差支えないほど巨大なものになっている。端を見ると次の演目者であるワットが準備していた。なぜかこちらの方を凝視しているが、なにか問題でもあるのだろうか。それよりもまずは、フィロス先生を探そうとワットの様子のことは一旦忘れる。
「たしか、この辺なんだけどなぁ。先生どこにいるんだろう?」
「君がピスかい?」
ピスの背後からいきなり声が掛けられる。囁くような、静かで低い声だったのでピスはおもわず体をびくりと震わせた。恐る恐る顔を後ろに向けるとフードを目深に被っていた男が立っていた。いや、男かどうかはわからない。その姿はボロボロのローブに包まれていて形がはっきりとしていない。胸の膨らみはないがエルフの場合女性でも胸が薄いと聞くので女かどうかわからない。ピスが男だと思ったのはその声のみだった。海の底のような静かで低い声。それだけがピスに男だとおもわせたものだった。シルフィードは男だとフィロス先生が言っていたがまさかこの人なのだろうか。
「ええ、そうですけど。あなたは?「風の放浪者」さんですか?」
その言葉に男はわずかに覗かせていた口をふっと微笑ませただけだった。
「ある人物に頼まれてね。君の卒業演目を見るようにと言われてきたんだ」
その言葉にピスは心底驚いた。こんなにあっさり試合相手を了承してくれるなんて。先生の聞いた話だと大分気難しくて根気よく説明しなければならないとばかり思っていた。
「ありがとうございます!今日はよろしくお願いします」
「それでは早速その場所まで案内してくれ」
「はい!」
ピスの足取りは今までで一番軽いのかもしれない。なにせ初めて殺さないように意識せずに全力を注げる相手が現れたのだから。
その会話から30分後、ピス達が立っていた場所と同じ場所にある人物がやってきていた。その隣には馬蹄の音を鳴らしながらフィロス先生が少し不機嫌そうな顔こそをしている。
「こんなに君がひねくれてるなんて思わなかった。君に納得してもらうためにえらい時間かかって、ピスとの約束の時間に遅れてしまったじゃないか」
「何を今更そんなことを言っている。僕が頑固な性格をしてるのは昔から、1000年経った今でも変わらないことじゃないか」
フィロス先生の隣に立っているのは鮮やかな緑の髪をした優男だった。
「さてさて、君がそこまで言うからにはそれほど強いのだろうね。たまには体を動かしてみたくなったと思えるほどに」
「ああ、それは保証する。君も油断してると足元を救われてしまうかもしれないぞ。さあ、早くピスを見つけなければ。」
「でもその少年の姿が見えないではないか。どこにいると言うんだ」
「おかしいな、遅刻をするような子ではないんだけど。あ、ワット!ここら辺でピスを見なかったかい?」「あ、先生。ピスなら少し前に闘技場に向かって行きましたよ。誰だかわからないけど背の高い人を連れて。」
「え?そんなはずはない。だって私たちがここにいるのにピスがむかうわけないじゃないか?」
「先生、その隣にいる方は一体誰ですか?」
その言葉に辺りを見回していた緑髪の男が答えた。
「私かい? 私は気まぐれな妖精、シルフィードさ」




