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夜のタビの街

 そのあとフィロス先生からは実技のことは心配していないから座学の方を優先


してはげみなさいとピスは言われた。


 魔術と剣術の授業をさぼるか、見学ばかりしている彼にとってはそれが唯一己


を鍛える方法だったからだ。おかげで生徒の中での成績は常にトップである。も


はやヲタクと言われても仕方がないような剣術大好きなソドと魔術大好きなウィ


ザの、学生の能力を超えた高度な理論や持論の語り合いにも最近はついていける


ようになった。もっとも知識をつければつける分だけ、「衝動」を克服しようと


練習しているときに拘束魔術の反対呪文を無意識に発してしまいどんどん抑え込


むのが難しくなってしまっている。しかし、ソドもウィザもそれ以上に術の腕が


成長しているのでピスが自分で力を抑えようとすればこの前のようになんとか動


けなくすることはできている。


 今日はフィロス先生と卒業演目の相談で帰るまで時間がかかってしまうことが


わかっていたため2人には先に帰ってもらっていた。今頃は、寄り道も終わって


マーサおばさんの下宿に帰っていることだろう。


 ピスは寄り道をせずに帰っていった。まっすぐ行けば10分程度で帰ることので


きる距離だ。真四角に加工された石が敷き詰められた大通りを歩いていく。日も


暮れかけていて辺りはすでに夜の気配があちらこちらに伸びてきていた。すれ違


う人もこの時間帯だからかまばらになっていた。三節棍を上に振り上げて魔法を


放つおじさんとすれ違った。ゴブリンのブルックおじさんだ。彼はこの夕暮れ時


になると「剣」をもって街の大通りへと出かける。大通りにある街灯に光魔法を


灯すのが彼の仕事だからだ。他の街にも同じような仕事をする人がいるそうだ


が、タビの街ではブルックおじさんが三十年もの間毎日灯し続けているらしい。


ピスは視線をおじさんから前へ戻す。するとなぜか下宿に戻っているはずのソド


とウィザがこちらに歩いてきた。


「2人ともなんでこんなところにいるのさ」


 すると、ウィザが説明をし始める。


「それがね、マーサおばさんがぎっくり腰になっちゃったみたいで寝込んじゃっ


たの」


「そうそう、俺たち帰ってきたときに床に倒れてるもんだからそらビックリした


ぜ」


「あわてて駆け寄ってみたらおばさんが「ぎっくり腰になったからベッドに運ん


でちょうだい」って。それで私たちもほっとしたんだけど、今日はご飯作れそう


にないからピスもつれて3人でどこかで食べてきてくれって」


「それでか、なるほどね」


 ピスも納得する。おばさんはいつも元気なのだがたまにこうやって動けなくな


る時がある。その時はいつも3人は外食をするのだ。おばさんの作る料理もおいし


いのだが、外で食べる料理はおばさんの味付けともまた違って、マーサには悪い


が3人は密かな楽しみにしていた。


「どこで食べようか」


「とりあえず市場のようへ行ってみようぜ」


 ピスたちは大通りから少し道をそれて朝市場をやっている広場の方へ足を向け


た。朝は市を開いている広場だったが、夜になると大勢の屋台が軒を連ねる。ブ


ルックおじさんの街灯に加えて、屋台の人たちが自分の店を目立たせようとたく


さんの光魔法で飾りつけをするので辺りは昼と同じと言っていいくらいに明るく


なっていた。ちなみに現実の白熱照明と違って光魔法は熱を発さないので現実の


世界よりも幾分かは涼しい。


「どこにする?」


「やっぱり外食だったら麺だろ!」


 ソドの提案にピスもウィザも賛成する。マーサの主食の大半は米なので、小麦


から作る麺類は3人にとって珍しい食べ物だった。3人は目に入った麺の屋台に足


を運んだ。屋台のなかには3人よりも遥かに小さな、けれどもそのシルエットに反


して3人よりも遥かに男らしい雰囲気を放つ人影が浮かんでいた。そう浮かんでい


たのだ。


「へい、らっしゃい! ってピス、ソド、ウィザねぇか。久しぶりだな!」


 そういってきたのはこの屋台の主人のルーマだ。彼はピクシー種。大抵この種


族はかわいらしい外見をしてるのだが突然変異でも起こしたのかと疑ってしまう


くらい無骨な姿をしている。ちなみにマーサの下働きとして働いているユカもピ


クシーであるためはじめってあった時は3人とも驚いていた。


「またマーサが寝込んじまったのか。アイツのぎっくり腰もいい加減治ればいい


んだがな」


「しょうがないですよ。おばさんいつも私たちの世話をしてくださるんですか


ら」


 ウィザが答える。


「ちげえねぇ! さて3人とも何食べる?」


「「「おじさんのおすすめで!」」」


「あいよ!」


 ルーマおじさんは根っからの料理人だ。なんでも術練学校に入ったに決める


「剣」選びの際にすでに自身の「剣」を包丁に決めていたらしい。若かった当時


のフィロス先生はさすがにどう剣術を教えるか困り果て遠くの街にわざわざ赴い


て包丁使いの人から包丁さばきを教えてもらったらしい。


 ルーマは3人と雑談をしながら手元すら見ずに器用に調理を進めていく。予め切


られていた麺を煮えたぎったお湯に入れ、数分立つとお湯から麺を上げて目にも


とまらぬ速さで水切りをしていく。ちなみに火力はルーマの炎魔法で自由自在に


操ることができる。


 丼に特製のタレを流し込み出汁をとったスープもいれるさらに油も少々、水切


りした面を入れて最後に具を上に乗せる。手早く調理された3つの麺が3人の前に


同時におかれた。ルーマの念動魔法だ。


「おまちどお! 今日はな南海から仕入れた一角獣の角を出汁にとってある。味


もいいがなにより滋養強壮に良く効くぜ」


「「「いただきます!」」」


 三人は今か今かとラーメンを待ち、前に出されるやルーマの説明も聞かずに食


べ始める。説明なんて聞かなくてもルーマの作る麺が美味しいことは知っている


からだ。


 箸で麺を掬い上げ、飛び散る汁も気にせず口に頬張る。3人の中で唯一猫舌なソ


ド(ドワーフとエルフのハーフである彼が猫舌なのも不思議な話だが)は息を麺


に吹きかけ、2人よりも慎重に麺をすする。


「「「美味しい」」」


 3人の声がまたも重なる。しばらくは互いに言葉も交わさずしばし夢中になって


麺を食べていた。それをちいさな男は微笑ましく見守っていた。


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