卒業演目
改稿しました。会話を少し追加しました。序盤なので薀蓄や世界観の設定の説明台詞が多いのですがご容赦ください
翌日は特に何も起こることなく終わっていった。昨夕、ソドとウィザが言っていた通りその日はピスの体力(というか精神力)を考慮して「衝動」を抑える訓練は行われず、ピスは2人の科目の復習を見るだけだった。夜はいつも通りマーサおばさん(ともうひとり下働きの妖精エリザが作っているのだが、夜はなぜかあまり見かけず、晩御飯を3人が食べに降りてきた時にはもう姿が見えないことが多い)の美味しい夕飯を食べ、学校の話題を口に出す。3年間同じことを延々と繰り返してきた光景だ。時々マーサが話に加わったり、めずらしくエリザの姿を見て驚いたりするけれども、3人とも飽きもせずいつでも楽しそうだ。3人が授業のことを語り出すと若干専門的になるのはこの際見ないようにしておこう。。
「ねぇ、1か月後の卒業演目どうする?」
ピスが間近に迫ったきた卒業の話題を切り出した。
この世界の学校では卒業式の代わりに街を挙げての大きな行事を開催する。それが「卒業演目」と呼ばれるものだ。「基礎学校」や「撰術学校」でも同様の行事が行われるが、行われる内容には若干の違いがある。
基礎学校では授業で学んだ集大成として学術展示と学生のみの小規模な大会が主な内容だ。学術展示はその日、生徒1人1人に屋台のようなものが支給されそのスペースの中で自分が学んできた学問の研究発表を行う。ウィザのを例にすると「植物魔法における、他魔法の相互干渉作用について」……いや、例えが悪かった。普通の生徒はこんなことを発表するわけではなく、「るしふぁーとがぶりえるが戦ったお話しの感想」だの、「酸魔法で卵の殻だけを溶かしてみた」といった、現実でいう読書感想文や自由研究に近いものだろう。ファンタジーの世界でも12歳の考えていることなので、あまり現実と変わらない。
一方、小規模な大会の方だが、こちらはもう形骸化しているといっていい。王国からのお達しでなるべく、剣術が研鑽されるような催し物をするよう言われているが、なにせ村で卒業するのは毎年5人程度だ。王国からの要綱ではトーナメントが良いとされているがそんなものは子供がたくさん生まれた昔だからこそできたからで、こんな平和な世界でたくさん子供は生まれてこない。そこで3人の故郷のルツボ村の場合は村全体を使っての「鬼ごっこ」をやることになっている。これは卒業する学生が「鬼」となって、村の住民を追っかけまわすのだ。もちろん体格的には大人の方が圧倒的に有利で子供が太刀打ちできるものではないのだが、ここで1つのハンデを設けている。すなわち、子供のみが魔術と剣術の使用を許可するということである。大人は魔法を使わず己の体術のみで追ってくる子供に対処をしなければならない。これでやっと条件的には対等にはなるのだが、その年その年で村人全員をつかまえることができたり、できなかったりと五分五分の戦いがくりひろげられ、子供はもちろん、ルツボ村に住む大人たちもこの勝負を毎年楽しみにしていた。
ちなみに3年前の「ルツボ村鬼ごっこ大会」ではピスは参謀として直接鬼になったわけではないが、ソドの身体能力とピスとの訓練で培った拘束魔法で夕方になる前にすべての大人を捕まえていた。
さて、「術練学校」の場合はこれまで習ってきた科目の中から自分の一番得意な科目を選んで発表するのだ。この発表する場所というのは街の北にある演習場だ。そこはイメージするとしたら現代のサッカー場か、古代のコロッセウムだろうか。ただ試合や卒業演目をするだけでなく、そこでは劇やオペラ、そしてたまに行政上の知らせを行う場所として多種多様な行事に利用されている。珍しいところだと各地の腕利きを集めて「世界麺王者」という大会を行ったこともある。
これらの行事の中でも「術練学校」や「撰術学校」の卒業演目はことさらに注目をうける。理由は3つ。1つは未来を担う子供たちの成長をこの目で見られるから。1つはこの卒業演目の評価が街の評価へとつながるからである。街が豊かであればそれだけ教育環境が充実し優秀な生徒を輩出できる。逆に言えば優秀な卒業者がいる街というのはそれだけ豊かな街に違いないということで貿易や政治的コネクションを持ちやすくなる。そしてもう1つ重要なのが見ていて楽しいからである。
学生の中には自分の魔術理論をとうとうと展開するといった。学術的な発表をする者もいる。一昨年は珍しくそのよう演目を行った学生が優勝した。現在彼は王都で学者としての道を爆進中である。しかし大半のものはとにかく派手なものを好む。体術と剣術を混ぜ合わせた演武であったり、魔法を大量に使ってみるものを驚かせたりするのが街の住民もそしてなにより学生のおおきな楽しみなのだ。
もちろん学生にとってもメリットが多々ある。なかでも重要なのが他の街からのスカウトだ。「撰述学校」に入るためには推薦を受けるか、自らその街に赴いて自分の力量を学校に示さなければならない。しかしこの卒業演目では多くの街から学校の勧誘者がおとずれるのだ。彼らの目に留まればわざわざ街へ行く必要はなくなり、その場で推薦をもらえるのだ。
「そうだなぁ。俺はやっぱり剣舞かなぁ」
ソドが大きく伸びをする。
「それも試合形式のやつ。やっぱり型も大事だけど実戦形式の方が盛り上がるだろうし。相手はそうだなぁ。フィロス先生に頼んでみようかな」
「去年の卒業生って何やったんだっけ」
そういったのはピス。
「バッカ、ピス覚えてないのかよ。キロ先輩が特大爆発呪文ぶっ放して大騒ぎになっただろ」
「あー、あったねそんなこと。あやうく全員巻き込まれて死んじゃうところだった」
「あれって本当は花火打ち上げ用としてたみたいね。どこをどう間違えちゃったのかわからないけれど、使ったのが工芸用の魔法じゃなくて軍用のものだったけど」
「あとはマスホ先輩が「ラビリンス」作り出して体験型の卒業演目にしてたな」
「あれ楽しかったよね。「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる、探せ! この世のすべてをそこにおいてきた」なんて先輩が言うものだから、みんな躍起になっちゃって。ああいうのもいいなぁ」
「でもソドも言ってたけど実戦形式の試合が1番派手で楽しそうだな」
「まぁな。ウィザはどうするんだ?」
「私は、特大魔法かな。まだ、どうやるかは決めてないけどやるならみんなが驚くようなものにしたいなぁ」
「そういうお前はどうなんだよ、ピス」
「うん、ちょっと考えたんだけどね。試合にしようかなって。」
「えぇ!?」
ソドが素っ頓狂な声を上げる。無理もない。ソドがやるのならみんな納得する。しかしまだ「殺人衝動」を制御しきれていないのだ。ピスが本気でやれば必ず死人ができてしまう。
「俺らじゃ無理だぜ。なんも抑えていないお前とめんの」
「そう。だから敢えて止めない」
「どういうこと?」
ウィザが怪訝そうに尋ねた。
「つまりさ、俺が本気でやっても勝てない人を連れてくるんだ。たとえばこの国最強のロラン将軍とか」
今度はウィザもソドもおったまげる。ピスはなんて無茶なことを考えるんだろう。無理だろと二人とも言う
「無理かどうかはやってみないとわからないさ。卒業演目規則にはこう書いている。「教授である者は可能な限り生徒の演目達成に協力しなければならない」とね。それに俺は将軍に勝ちたいわけじゃない。負けてみたいんだ。いくら俺でも勝てないやつがいるんだって実感したいし、街のみんなも面白がるだろう」
大胆不敵なことを言うやつだ。普段は少し頼りないことがあるくせに、たまにピスはこんなことを言い出すのだった。




