下宿のマーサ
なかなか物語の中核となる「魔術」と「剣術」が登場しませんが、もう少し我慢して読み進めてみてください。あと少しで登場させる予定です。改稿しました。ただそんなに変更点はありません
3人の下宿は学校から直行したら歩いて10分くらいの距離である。ただ、3人はパン屋に寄った後も寄り道を繰り返し30分ほど使ってようやく下宿にたどり着いた。大通りを通るととにかく街にすむおじさん、おばさんに声をかけられる。「今日も元気ねぇ」や「これ、あげるよ」などと会話がすぐすめばまだいい方なのだが、会話が長続きしてしまうと住人にあっという間に群がられて立ち往生してしまう。そこで3人は、話の長そうな住人を見かけると裏通りに行って迂回する。しかし裏通りを使うにしてもその構造が複雑で結局時間がかかってしまうのだ。それに裏通りには学生の好きそうな食品店や雑貨が多い。ピス、ソド、ウィザも例外ではなく見かけるたびに立ち寄ってしまうのだった。それでこんなにもかかってしまったのである。
下宿はレンガ造りでどっしりとした構えになっている。これは下宿の主人が腕のいいドワーフと知り合いで遠方からわざわざ呼び寄せて作らせたという。しかもドワーフとしては主人に借りがあったらしく、破格の値段で下宿の建設を請け負ったらしい。いかにも堂々としたかまえは不思議と下宿の主人を連想してしまうのだった。
「ただいま~」
「今日も疲れたぁ」
「ただいま帰りました」
玄関に着くとピス、ソド、ウィザの3人はめいめいに帰りの言を口にする。
「はいよ、おかえり。……ってあんたたちまたピグんところでパン食べてきたわね?」
「あ、バレちった?」
ソドがとぼけたように頭をかく。ひょうきんな彼はかなり目上の人に対してであるにもかかわらず舌をだすまで大きなリアクションをしてすっとぼけていた。一応敬意は払っているのではあるが。
「当たり前じゃないの!口から甘い匂いを出して、純オークの私をなめるんじゃないわよ!」
そう笑いながら下宿の主人、オークのマーサが叱った。彼女はさっきのパン屋のピグと仲良しだ。これまたオーク種なのだが、彼女の場合はピグと違って先祖代々オーク同士で結婚・出産をしてきた。なのでこのような純血種を純オークと言ったりする。血が濃いとそれだけ種族の能力が鋭敏に発揮される、だから彼女は人間の何倍も鼻がいい。
「まぁ、あんたたちだから今日も食べてくると思ったよ。ご飯は8時だからね。残さないようにするんだよ!」
「「「はーい」」」
いつもなら夕飯は夜の7時と決まっているのだが、3人の帰りが遅かったり、彼女のカンが3人とも食べ歩きをしていると告げたりしている場合は時々こうやって夕飯の時間を遅らせてくれていた。
3人が素直に返事をした。こちらと同じで15歳の思春期真っ盛りといってもまだまだ子供なのである。
「とりあえず、外で今日習ったところを復習するか」
ソドが提案する。
「そうだね。体動かせばおなかもすくだろうし」
ウィザも賛成する。そして二人はノールックでピスの腕をがしっとつかんだ。ピスがソドとウィザの顔をうかがってみると、2人とも満面の笑みを浮かべていて怖い。
「逃げるなよ? ピス」
「逃げようとすれば私が最近開発したアイアンメイデ……いや鉄の棺桶呪文をかけちゃうよ?」
「ええ!? 今、アイアンメイデンって言おうとしたよね!? なんか微妙にオ ブラートに包もうとしてもダメだよ。鉄の棺桶でも十分怖いよ!」
相変わらずさらっとピスに対して怖いことをのたまうウィザだ。
「別に外で座学を勉強してもいいだろ。そのついでに俺たちのを見てくれよ!」
「休ませてくれたっていいじゃん!」
ピスは最後の抵抗を試みたが次の2人の言葉にあえなく撃沈した
「よくない! ピスはさっきだって昼寝してたでしょ!」
「お前が「魔剣術」みるだけなら大丈夫だって知ってんだからな!」
僕に自由時間なんて存在しないのか、なんてピスがボソッと呟いたけど二人に黙殺される。さっきまで怖いくらいに笑顔だった2人は今はもう素直に怖い、オーガのような形相でピスをにらみつけていた。あえなく、ピスは両肩をがっちりと組まれ裏庭へと連れ出されていった。
「まったく本当にあの3人にそっくりなんだから」
マーサは夕飯の調理をしながら3人を見送っていた。




