ワンマン社長
1年前。東京のとある高層ビルの最上階にあるオフィス。
「オリエンタルシティ」は元々、不動産売買を専門とする企業であったが、
2013年の取締役社長交代により、
東京都の委託事業である「スマートタウンモデル地区」に選んだ地域の
土地開発事業を手掛けることになった。
新たに、取締役社長に就任した富岡新太郎は、
東京大学卒業後。大手のIT外資系企業に就職。
赴任先のインドにおいて、最新のITソリューションを体験。
その後の彼の人生に、大きな影響を与えた。
日本に帰国後。富岡は、PoC実証実験に参加する。
それから5年後。大学の同窓生だった先代社長の子息より、
ヘッドハンティングされて、取締役社長として迎えられた。
富岡は自ら、候補地へ足を運んで調査することにしている。
「次の候補地は、N県の山間地域だ」
富岡が、東京都の担当者からもらったファイルを
集められた社員たちに提示すると発表した。
「たしか、あの地域は、先の大地震の影響により、
人口の流動化が深刻となり、わずか数年のうちに
限界集落となった場所ではなかったですか? 」
社員の大堤が疑問を投げかけた。
「都によると、過疎化の原因は、若者が減少したことにあるという。
今回の開発をきっかけに、土地を離れた若者を呼び戻すと同時に、
新たな若者たちを招き入れられるのではないかということだ。
その提案に、受け入れ先のN県も快諾したらしい」
富岡が力説した。
「つまり、地域活性化および少子化対策になるわけですね」
社員の勝浦が神妙な面持ちで告げた。
「そのとおり。やりがいを感じるだろ? 」
富岡が言った。
「地域住民の理解を得やすいことはたしかです。
今より良くなるなら、反対する理由はありません」
社員の河野がうなづくと告げた。
「ところで、現地調査へは、社長が自ら乗り出されるのですか? 」
専務の猪俣が、富岡に聞いた。
「いつものことだ。今さら、聞くまでもない」
富岡が低い声でそう告げると、突然、席を立った。
せわしなく、その場を後にする富岡に、
取り残された社員たちはあっけにとられた。
現地調査を行うまでの間、富岡は仕事の合間を縫って、
指定された地域に関する情報を収集。
N県内の有力企業数社ともコンタクトを取り、
あらかじめ、有力な協力者となる人間を潜り込ませた。
誰もが、外から舞い込んだ儲け話に乗るとは限らない。
富岡の強引な根回しはいつものことであるが、
思わぬトラブルをひき起こしたことをその時は知る由もなかった。




