Injury World (一)
「最初は、何もなかった。」
「ただ、万物を覆う闇の空間だけが存在していた。」
「そしてある瞬間、一筋の大きな光が闇を貫いた。」
「それに続いて、すべてが……」
…
はぁぁぁ〜……
隣の煙の竜が突然顔をそむけ、目を細め、大きなあくびをした。
「またくだらない話か!」
「本題に入れ!」
「起源の話なんて誰でも知ってるだろ!」
「数歳の子供でも暗記してるぞ!」
…
目の前の実体が軽く体を傾ける。
「そうか?」
「人間はいつも、こうやって話を始めるものではないのか?」
「いきなり本題に入ったら、誰も理解できないだろう。」
…
グルルル……
その竜は、今や頭をそむけていた。
「どうでもいい。」
「簡潔にまとめて理解しやすくしろ!」
「オブザーバー。」
…
その実体の影が突然大きくなり、周囲の白い煙が徐々に薄れ、背後に広大な黒い空間が現れる。
「わかった。」
「では本題に入ろう。」
「だが、次からはちゃんと名前で呼べ。」
「ミライだ。オブザーバーではない。」
「お前もだ、ハル。」
…
「は、はい。」
唇が無意識に返事をし、目は目の前の空間から離れなかった。
そして奇妙なことに、いくら見ようとしても、その実体――ミライには、形というものがない。
…
白い煙が完全に退いた直後、広大な黒い空間が我々を包み込む。
次に、我々を取り囲むように11個の球体が並び、鮮やかな光を放っていた。そのすぐ下には、
無数の枝分かれした直線がエリアを埋め尽くし、繋がり、分岐し、交差し、絶えず伸び続けている。
そしてミライの声が、どこからともなく、直接頭の中に突き刺さる。
「時間の分岐という概念にはもう馴染みがあるだろう、ハル?」
「一つの根源的な出来事から、わずかな変化が全く異なる未来、起こりうる可能性を生み出す。」
「例えば、我々が会う直前の戦場だ。」
「もしお前があの人魚たちと残っていたら、あるいはミズノが俺との契約を履行しなかったら……」
「未来は別の方向に分岐し、おそらく……」
「この出会いすら起きなかっただろう。」
…
「だが、そんな当たり前の話は退屈だろう。」
「もっと面白い質問をしよう。」
「なぜ世界には、その世界に属さない記録が存在するのか?」
…
体を回して四方を探し、目を最大限に見開く。
「世界に属さない?」
「どういう意味だ?」
…
「考えてみろ。」
「本来、お前の世界に魔法など存在しないのに、なぜ魔法の記録がここまで詳細なのか?」
「神秘的な生物、奇妙な地名、」
「非物質の存在、一部の人間にだけ起きるランダムな現象、」
「人間がどれだけ望んでも決して足を踏み入れられない場所が、この星の上に存在するというのに?」
…
体を絶えず回して探すが、ミライの姿はどこにもない。
「それらはただの空想じゃないのか?」
「人間が理解できないものを説明するための解釈だ。」
「同時に、人間自身が、実現するのは難しい、あるいはほぼ不可能だとわかっている夢でもある。」
「今のほとんどのことはすでに説明できるはずだ。」
…
ミライの声がますます全方位から響く。
「つまりお前は神秘を否定しているのか? それが目の前にあっても?」
「人魚のような、あり得ないはずの生物がお前の目の前に現れ、対話した。」
「道具に過ぎないはずのAIが、人間のように振る舞い、意志まで持っている。」
「ランダムな個人に力を与える金属。」
「お前の腹に巻きついているこの煙の竜もそうだ。」
「お前の基準で言えば、」
「すべてただの虚構じゃないのか?」
…
「それは……」
…
ふふ……
突然、ミライの声が少し柔らかくなる。
「安心しろ。」
「ただ試していただけだ。」
「結局のところ、生き物の認識は周囲の環境と、その世界観が何を認めるかによって制限される。」
「だが、お前は気づいているだろうか……」
「お前の世界の本当の本質に。」
…
「どういう……意味だ?」
…
そして、無数の枝が伸びる球体が突然こちらへ近づき、その中の映像が少しずつ鮮明になっていく。
一つの映像、一つの街……これは……
まるで中世の街のようだ。
ただ違うのは、人々が……箒に乗って飛んでいる?
大きな板に乗って、列をなす人々についていっている?
指を弾いて火を起こしている?
は?
…
球体が突然遠ざかり、白い煙が再び包み始め、ミライのぼんやりとした影も後に続く。
「あれは別の世界だ。」
「魔法を認める世界。」
「そして魔法こそが、その世界の基盤だ。」
…
「世界の……基盤?」
…
ミライが徐々に体を小さくし、ほぼ自分と同じ高さになる。
「その通り。」
「始まりの世界から、世界は無数の異なる可能性へと分かれていった。」
「そしてそれらの可能性から……」
「最も際立った11の可能性が安定し、互いに分かれて、決して交わることのない並行世界を形成した。」
「魔法が存在する世界は一つだけ。」
「多種族が存在する世界は一つだけ。」
「人間のような人格を持つAIを創造できるほどの技術がある世界は一つだけ。」
「人間が巨大な怪獣と立ち向かわねばならない世界は一つだけ。」
「そして……」
…
一つの思考が突然頭をよぎり、まるでこれをよく知っているかのように、
体の震えが止まらず、両手で髪を掴み、次第に身をかがめていく。
「待て。」
「どうして……俺が知っている……」
「お前の言うことが……真実だと……」
…
ミライが突然背を向け、煙の中へ徐々に退く。
「知るか。」
「信じるかどうかはお前次第だ。」
「だが、俺はお前に信用されない方が好きだ。」
「その方が話しやすい。」
…
唇が軽く震え、映像が絶えず頭の中を駆け巡る。
最初から、なぜ自分は気づかなかったのか。
最初の日から、すべてが異常なほど速く進んだ。
本来本の中にしかないはずのものが次々と外に出てきた。
そして、もしかしたら……
「もしそうなら……」
「俺の世界は……今存在しているものは……」
「あまりにも……」
「多すぎるんじゃないか?」
…
ミライが白い煙を軽く両側に引き、何かを自分の方へ引きずり出そうとする。
「だいたいその通りだ。」
「本来、お前の世界はフォロックスだけが唯一の特徴で、」
「技術が少し進んでいる程度のはずだった。」
「だが、ご覧の通り、」
°
言い終わるや否や、ミライが一つの球体を引き出す。最初は他の球体と同じく枝が絶えず分岐していたが、
ある地点から、すべての枝が突然一本の直線にまとまり、
外側から伸びてきた奇妙な糸が、すべての枝に巻きつき、それらを一本の方向へと無理やり押し戻していた。
周囲にはいくつかの小さな枝が飛び出そうとするが、すぐにすべてがその一本の直線に曲げ戻される。
しかし先端の大きな枝は、少し進んではすぐに砕け散る。
「お前の世界は、そうではない。」
「理由はわからないが、他の世界が枝を伸ばし、その枝をお前の世界に固く巻きつけている。」
「そして、すべてはお前が生まれる前から始まっている。」
…
体が硬直し、目の前のものから目を離せず、頭がほとんど空白になる。
「俺が生まれる前から?」
「それなら……なぜ……」
…
その竜の頭が突然前へと這い進み、最初に固く縛られた地点へ牙を向けた。
「ちょっと推測してみよう。」
「その糸が我々の世界に介入したのは……」
「あの金属が初めて現れた時点だ。」
「外来の存在を当たり前のものとして世界に認めさせるには、完璧なタイミングだった。」
…
ミライが軽く頷く。
「間違いない。」
「そして最悪なのは……」
「その時すでに世界は認めてしまった。」
「今さら元に戻して、修正することもできない。」
…
目を二人の間で巡らせ、起きていることを理解しようとする。
「待て……二人とも……」
「結局……何の話をしてるんだ……」
…
グルルル……
竜の牙が突然さらに大きく開き、目が細められ、皺の多い顔がはっきりと現れる。
「当たり前だろ?」
「人魚どもだ。」




