波の下に隠れて
チンッ!
……
ガシャンッ!
……
ドドドッ! …… バンッ!
……
「どうだ……人間よ!」
何だよ、これ!? ここ、どこだ!? 目の前に、二人の男。一人は水の下で倒れてる。もう一人は、ニヤニヤしながら女の人を抱えてる。でも、そいつ、なんか変だ。耳の近くに……魚のヒレ!?
「てめえ……最強の男……無意味だ……数には勝てねえ!」
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ゲホゲホ! 「まだ……終わってねえ……俺は……まだ立てる……こんな簡単に……負けねえ……!」
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「さあ、低俗な人間よ、凡人の目でよーく見やがれ。お前の努力、全部無駄だ!」
「いやあああ!!!」
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「さて、最強の名を持つ男よ、今度はどうする? お前の大事なもの……今は俺のものだ……!」
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この光景、何だよ!? こいつら、誰だ!? 体、めっちゃ重え、動かねえ。
………………
「俺たちみたいな過ちを犯すな……さもないと……失うぞ……!」
失う? 何を失うんだ? 過ちって何だ? お前ら、誰だよ!? 叫ぼうとしたけど、声、全然出ねえ。
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ガタガタ……ガタガタ……ガタガタ……
「レイナ、早くこのガキをチェックしろ!」
「分かった、どいて! 私が診るよ。」
「レイナ、こいつが本当に能力適合者だって確信あんのか?」
「コウカからの報告と記録映像によると、こいつ、フォロックスに完全適合してて、副作用も出てねえ。」
「でもよ、こいつの体、弱すぎだろ。こんな状態、他の適合者と全然違うじゃねえか?」
「リクオ、君の心配は分かるよ。でも、こいつ、人類史上最強の血統持ってるんだ。普通の人間と同じように覚醒するなんて、保証できねえよ。」
二人の言い争いの真っ最中、俺の目、ボヤッと開く。昏睡からやっと抜け出す。頭ん中、まだバラバラの映像がチラつく。目の前、見慣れた医務室。んで、言い争ってる二人の姿。
「クロガネさん、それに川崎先生!?」
「お、目ぇ覚めたか、ガキ?」
「戸上さん、こんにちは。今、体の調子はどう?」
「多分……大丈夫っす。でも、体、めっちゃ痛えです。」 俺、体起こそうとしたけど、ドサッとベッドに倒れちまう。
「ゆっくり休め、戸上さん。初めての覚醒で、あんなキツい戦いに突っ込んだんだからな。」
「じゃ、リクオ、説明は任せたよ。私、別の仕事があるから。」
「相変わらず冷てえな、レイナ。愛弟子がやっと目ぇ覚ましたのに、もう仕事かよ?」
「君がいるから安心して行けるんだよ。じゃ、先に行くね。」 川崎先生、すぐ部屋を出てく。
「クロガネさん、ここどこっすか?」
「見りゃ分かるだろ、医務室だ。つーか、お前の学校の医務室だよ!」
「クロガネさん、俺、どれくらい気絶してた? シノミ……シノミはどうなった? 蓮も、石川さんも、周りの人も!」
「ガキ、落ち着けって!」
「星間さん、彼女はどうなった? 俺と同じであの戦いに巻き込まれたんだろ?」
「それにケイ! 石川さんが、ケイはみんなと一緒に先に避難したって言ってたのに、なんでみんなここにいるんだ!?」
「んで、最近出てきたアイツら! あいつら、何!? なんで……俺たちを攻撃してくる!?」
「ガキ、質問の嵐だな。けど、今、全部は教えられねえ。でも、答えられる範囲で話してやる。」 クロガネさん、頭掻きながら、椅子を俺のベッドの横に持ってきてドカッと座る。
「まず、お前の友達の話からだ。みんなくそ無事だ。お前の無茶な行動のおかげだな。レイナもチェック済みだから、安心しろ。お前の気絶? まぁ、1週間くらいだな。」
「1週間……」 俺、ちょっと顔を下げる。その1週間、何が起きたんだ?
はぁ……
「じゃ、本題に入るか。」
「まず、聞きてえ。海と土の協定、知ってるか? Accord of Sea and Soilってやつ。」
「はい、川崎先生が授業でチラッと話してました。20年前の協定で、海の希少鉱物の採掘や過剰な漁業に関する禁止事項が含まれてるって。」
「さすがレイナの生徒、基本はバッチリだな。けど、それはお前ら世代に知ってて欲しい表の情報だけだ。」
「本当は、海と土の協定ってのは、俺たち人類と海に住む魚人族との間で、領有権や特定鉱物の採掘禁止に関するデカい協定だ。」
「魚人族……って、伝説だけの存在……じゃねえんですか?」
「理論上はな。けど、海の全てを俺たちが把握できてるわけじゃねえ。今の技術でも、海洋の10%しか完全には測れてねえんだ。」
「しかも、魚人族はめっちゃ深い海に住んでる。人間がほぼアクセス不可能な環境だ。」
「じゃ、なんで俺たちを攻撃してくる? つか、もしそんな深海に住んでるなら、出会うこと自体、ほぼ無理じゃねえですか?」
「鋭いな、ガキ。答えは、実はお前が思うよりシンプルだ。」 クロガネさん、前に見たあのガントレットをドンと出す。
「ガントレット? なんでガントレットが答えなんすか?」
「バカ、これ自体じゃねえ。こいつを作った素材、フォロックスだよ。」
「フォロックス?」
「簡単に言うと、自然放射能を放つ金属だ。俺たちみたいな有機生命体に遺伝子変形をガンガン引き起こす。けど、この金属、海底7000メートル以上の深さでしか見つかんねえ。」
「もっと分かりやすく言うと、この金属が魚人族の遺伝子を変形させて、海面の圧力変化を気にせず俺たちと接触できるようにした。でも、光は彼らの天敵だ。陸に上がるのは、めっちゃキツい。」
「じゃ、あの日の鎧の奴らは……」
「その通り、ガキ。人間が潜水装備で海に潜るのと同じで、アイツら、陸用の防護スーツ作って上がってきたんだ。」
「でも、クロガネさん、まだ分かんねえ。なんで……アイツら……俺たちを攻撃してくるんだ?」
「さっき言ったろ。フォロックスだ。アイツらにとって、こいつはめっちゃ価値がある。だから、地上の人間がガンガン採掘してるの、我慢できねえんだ。」
「しかも、魚人族ってのはめっちゃ執念深い種族だ。俺たちが海から撤退して採掘やめても、陸だろうが攻撃してくる。」
「じゃ、軍の武器でアイツらを全部ぶっ潰せばいいんじゃねえですか? 武器ならいくらでもあるだろ。」
「そこがお前の甘さだ、春くん。考えてみろ。深海の圧力に耐えられる種族が、どんな特徴持ってると思う?」
「めっちゃ強いってこと?」
「強いだけじゃねえ。普通の弾なんか余裕で耐える。戦闘力もバッチリ、特に水の中じゃな。」
「じゃ、どうやって戦うんですか?」
「これで、当然だろ!」 クロガネさん、またガントレットをガバッと持ち上げる。
「それ、放射能のある金属でできたんじゃ……?」
「フォロックスは確かに毒だ。人間の遺伝子を変形させて、怪物化させたり、急速老化させたりする。けど、極わずかな人間、この金属に触れても最大限のポテンシャルを引き出せる奴らがいる。」
「そんなこと……あり得るんですか?」
「そりゃ疑うよな。じゃ、簡単にイメージさせてやる。センチネル行動って、猿の話、知ってるか?」
「それは……」
「簡単に言うと、猿の群れには、他の奴より寝ない、早く起きる、完全に逆の生活リズムで見張りや守りをする奴がいる。」
「俺たち人間も霊長類の末裔だ。んで、俺たち、1日の大半を寝て過ごす。だから、昔から人間の社会には、みんなと逆の生活して全員を守る奴らが出てきた。」
「自然界でも、そういう猿は環境の変化に他の奴より適応力が高いって記録されてる。」
「クロガネさんの言いたいのは、人間にも猿みたいな奴がいて、そいつらが適応力持ってるってことですか?」
「その通り。んで、俺たちはそいつらをウォッチャーと呼ぶ。フォロックス製の武器に適合して、副作用なしで戦える奴らだ。」
「で、春くん、お前のあの体験、それが一番の証拠だ。けど、魚人族の武器を初回で使って覚醒したケースは、俺、聞いたことねえぞ!」
「誇れよ、ガキ。フォロックス適合者、世界中でめっちゃレアなんだから!」
俺、顔下げて、考え込む。情報がドバドバ頭に流れ込んでくる。希少金属、魚人族、協定……多すぎだ。
「だから、春くん。俺たちと一緒に戦おうぜ! シーフード共の侵略を、一緒にぶっ潰そう!」
手、ジトッと汗かく。息、だんだん乱れる。唇、ギュッと噛みしめる。この情報、多すぎだ……俺が? 守る? 普通の学生の俺が?
グチャグチャな思考の真っ最中、急にピカッと頭で閃く質問。
「ちょっと待って、クロガネさん。ウォッチャーがそんなレアなら、魚人族に数の差で負けるの……当たり前じゃねえですか?」
「やっと気づいたな。確かに、戦える人間の数はめっちゃ少ない。けど、俺たち人間、弱点はいつも知恵でカバーしてきた。火を作って獣を防ぎ、剣や槍で狩りし、銃で攻撃力を上げてきた。で、こいつらを作って、この戦線を支える。」
「入ってこい。そこに立ってるの、知ってるぞ。」
言葉が終わると、ドアがガチャッと開く。忘れられねえ見慣れた女の子の影が、ゆっくり入ってくる。
「戸上様、またお会いできて光栄です。」
「改めて自己紹介させていただきます。ハイドロファランクスNo.09、コードネーム星間コウカ。もう一度、お仕えすることを光栄に思います。」
もう一度……その言葉、頭ん中でビンビン響く。俺、こいつといつ会ったんだ!?




