静時の流れ
暗闇に覆われた部屋の中央で
周囲を無数の数字が取り囲み
テーブルの上で激しく輝くランプの光…
…
同じ円卓を囲んで
十二人の人間が座っている
目の前には分厚い書類の束
そして全員の視線が、ただ一人の影に向けられている…
…
「まず、隊長の皆様に感謝の言葉を申し上げます…」
剣道は周囲を見回しながら視線を巡らせる
「逼迫した状況の中、全員が全力で尽力してくださいました…」
「そして、先ほどの攻撃をことごとく阻止することに成功しました。」
…
「そして、支援部門の皆様にも感謝を…」
剣道は顔を向け、手を一つのグループに向ける
「どんなに急を要する状況でも、迅速にサポートしてくださいました。」
「それによって、被害を最小限に抑えることができました。」
…………
腕を組んで見つめる一人の男
部屋中に輝く禿頭
目の前に置かれた「2」の数字が入った帽子…
…
「剣道!」
男が睨みつける
「俺たちをここに集めたのは、そんな空っぽな礼の言葉を言うためじゃねえだろ?」
…
「もちろんですよ、綾野。」
剣道は軽く頷き、左手を横に伸ばす
「今から私の秘書に、現在の全状況を説明させます。」
……
コツ…コツ…
一つの影がゆっくり近づいてくる
手にしっかりと握られた手帳…
…
「皆様、こんにちは!」
女性は軽く頭を下げる
「皆様の貴重なお時間をこれ以上無駄にしないよう…」
「私、秘書の波島美和が、総司令に代わりまして…」
「引き続き説明をさせていただきます。」
……
ピッ!
一人ひとりの前に青いスクリーンが現れる
無数の赤い点が散らばった地図と共に…
…
「ご覧の通りです…」
波島は軽く手を地図に向ける
「去る8月7日…」
「我が国の太平洋に面した全域が…」
「琉球から始まり、東海岸全域にわたって…」
「攻撃を受けました…」
…
「しかし、最悪なのは…」
波島は目を軽く閉じ、濃い赤い点に手を向ける
「我々は沖縄との通信を完全に失いました。」
……
トン!
テーブルの右端から…
屈強な体格の男…
胸に「3」の数字が刻まれ…
拳を強くテーブルに叩きつける…
…
「なんでこんなことになったんだ?」
男は波島を振り返る
…
「はっきりとは分かりません。」
波島は軽く首を振る
「しかし、敵が現れる前に、沖縄および偵察艦との連絡が途絶えていました。」
………
ギリ…
「まさかまた中国の連中じゃねえだろうな…」
男は歯を食いしばる
…
すっ…
「そんなことはありません!」
剣道は両手を組み、軽く顎を乗せる
…
「どういう意味だ?」
男は目を吊り上げて剣道を見る
……
「我が国だけではありません…」
剣道は地図を軽く縮小させる
…
地図は今や球体になり…
無数の赤い点が広がる…
……
「見ろよ、俺たちだけじゃねえだろ?」
綾野が軽く球体を回す
…
「その通りです。」
剣道は軽く頷く
「我が国以外にも…」
「南シナ海を除く、海に面したほぼ全ての国が…」
「今と同じ状況に陥っています。」
…
「分かったか?」
剣道は男に向き直る
「いつも性急に考えるのは良くないですよ…」
「東条さん…」
…
「…」
東条は体を少し引く
………
そっ…
一人の少女が軽く手を挙げる
紫黒の長い髪…
肩に「6」の数字が刻まれた制服…
…
「このような状況であれば…」
少女は剣道を見る
「全世界監視システムが即座に異常を検知するはずでは?」
…
「それに、多くの場所で…」
少女は両手を横に広げる
「常時哨戒艦が巡回し、海上には直接測定機器も設置されています…」
…
「ではなぜ…」
少女は目を細める
「我々は攻撃を事前に察知できなかったのですか?」
……
「それこそ、次に議論する内容です。」
剣道は波島を見る
「続けてください。」
……
スクリーンが切り替わる…
今度は衛星の軌道が表示され…
回転が停止している…
…
「これは全世界で記録された異常です。」
波島はスクリーンを指す
「原因は不明ですが…」
…
「しかし、全世界監視システム『セラフィム』は…」
波島は衛星を見つめる
「事件発生日から今日まで…」
「海上でのいかなる動きも一切記録していません。」
…
「地上監視システムも…」
波島はスクリーンを軽くスワイプ
「あるいは偵察部隊からの通信も…」
「すべて突然途絶えました。」
…
「これがシステムの故障なのか…」
少女は部屋全体を見回し目を細める
「それとも誰かが意図的に仕組んだ陰謀なのか…?」
…
「現時点では結論を出すに足る情報がありません。」
波島は少女に目を細めて返す
「今、憶測を重ねるのは非常に危険です…」
「神崎隊長。」
………
「でも…」
綾野は剣道を振り返る
「それだけじゃ、あの連中を隠し通せるわけがないだろ…」
…
「その日現れた怪獣だって…」
綾野は目を細める
「どんな探知からも逃れられるような種類じゃねえぞ。」
………
シュッ…
スクリーンが切り替わり…
今、画面に映るのは…
…
黒い空を裂く激しい雷雨の中…
怪獣たちの姿…
…
「それこそが、今最も重要な問題です。」
剣道は軽く頷く
「人魚族の攻撃だけではなく…」
…
「今回、怪獣も出現しました。」
「しかも、どれも簡単には対処できない種類です。」
…
「ご存知の通り…」
波島はスクリーンに手を向ける
「今回、怪獣は人魚族の攻撃地点すべてに出現しました。」
「そして各個体の脅威レベルは、すべてHighクラス以上です。」
……
「今回の件で…」
剣道は周囲を見回す
「人的・物的損失が非常に大きくなりました…」
「7機のイージスすべてが深刻な損傷を…」
「多くの都市も機能停止に…」
…
「ですから…」
剣道はスーツ姿の男に視線を向ける
「このタイミングで、貴社の支援をお願いしたいのです…」
「修復だけでなく…」
「イージスの改良、そして現在の供給チェーンの確保も…」
…
「本気か?」
男は目を細めて剣道を見る
「金は安くねえぞ。」
…
「逼迫した状況ですから…」
剣道は男に向かって手を差し出す
「敵か怪獣がいつ現れるか分からない…」
「だからこそ、手を貸してほしいんです、松崎さん。」
…
ぱしっ…
「分かったよ。」
松崎は軽く微笑む
「値段は問題じゃねえ。」
「ただ、紙の上での権利をしっかり確保してくれりゃいい。」
………
「剣道…」
口を覆った男が振り返る
「それだけなら、報告書を書くだけで済むだろ。」
「わざわざ顔を合わせる必要はねえ。」
…
「もちろん、まだもう一つありますよ、竜馬さん。」
剣道は軽く微笑む
………
「皆さんもご存知の通り…」
剣道は周囲を見回す
「先の戦闘で、我々はあまりにも多くのものを失いました…」
「負傷者が無数に、そして帰らぬ人も…」
「隊長クラスと一部の能力者以外は、ほぼ全員が影響を受けています…」
…
「そこで…」
剣道は波島を見る
「熟慮の末、我々はある解決策に決定しました。」
………
ピッ…
「ご覧ください。」
波島は画面を切り替える
……
「これ…」
竜馬が目を見開く
「まさか本気か、剣道?」
綾野が目を細める
…
ふふ…
「面白いわね?」
神崎が軽く微笑む
…
ははは!
「ついにこの手に出たかよ?」
東条が顔を上げて笑う
……
「ご覧の通り…」
波島はテーブル全体を見回す
「この新訓練システムによって…」
「戦場に立つ兵士たちの戦闘能力を確実に確保できます。」
「また、人件費の無駄な支出も削減でき…」
「今後の発生コストも抑えられます。」
…
どん…
「剣道!」
綾野がテーブルを叩き、目を吊り上げる
「軍隊ってのは集団の力だ。たくさんの人間が団結してこそ強えんだよ。」
「こんなことしたら、どこに力が出るんだ?」
…
「だからこそ、この方法が必要なんです。」
剣道は綾野を真っ直ぐ見据える
「10人の強い人間が団結して戦う方が…」
「100人の弱い人間がバラバラに戦うより、よほどマシです。」
……
「でも、このやり方じゃ…」
竜馬は剣道を振り返る
「才能を見逃す可能性が高くねえか?」
…
「目の前を見てください!」
剣道は目の前の書類の山を指す
「新兵も現役兵も、全員のリストがここにあります。」
「隊長の皆さんは自由に観察・選別・評価・選択してください。」
……
ぱら…ぱら…
今、全員の視線が…
一枚一枚の紙に向かい…
手が次々と動く…
…
す…
「隊長の皆さん、どうか時間をかけて評価してください…」
剣道はテーブルに手を置く
「それぞれのチームに、最適な人材を選んでいただければ。」
…………………………………………
こつ…こつ…
部屋のドアが大きく開き…
静かに人影が去っていく…
……
「本当にいいのか?」
陸王が剣道に近づく
…
「もちろんです。」
剣道は静かに頷く
「今はすべてが必要なんです。」
…
「そういう意味じゃねえよ。」
陸王は眉を寄せ、腕を組む
「総司令じゃなくて、人としてのお前を聞いている。」
…
「お前、本当にあの子をそんな目に遭わせる気か?」
陸王は顔を上げる
…
「大丈夫です。」
剣道は静かに目を閉じる
「どうせ、ハルは自分でそう選んだんですから。」
…
「それに君も知っているでしょう…」
剣道は陸王を振り返る
「歯車が回り始めたら、もう止められない。」
…
ばりばり…
「毎回毎回そうだ…」
陸王は頭をかく
「今度こそ、あいつが残した通りになることを祈るしかねえな。」
…
「我々にできるのは、待つことと、従うことだけです。」
剣道は軽く頭を下げる
…….
「そうだ。」
剣道の目が鋭くなる
「あの時君が会った連中…」
「間違いない。」
…
ぐっ…
「つまり、奴がここまで追いついてきたってことか?」
陸王は拳を強く握る
…
「そして今度こそ、逃がしません。」
剣道は出口を睨む
………………………………………………………………………………………………………………
ぽた…ぽた…
湿った岩壁の間…
闇がすべてを包み…
月光が細い隙間からわずかに差し込む…
…
ざり…ざり…
二つの影が並んで立つ
一人は黒い衣をきつく巻き
もう一人は顔の皮が剥がれ落ちた女…
道の先の光を見つめて…
……
「いつまでその仮面被ってるつもりだ?」
黒衣の男が振り返る
「もう偽装、ボロボロじゃねえか。」
…
「ほっといてよ!」
顔の皮が剥がれた女が笑う
「久々に美人ちゃんのフリできるんだから。」
「ちょっとくらい楽しませてくれてもいいじゃん?」
……
しゃり…しゃり…
道の突き当たり…
無数の影が周りを囲み…
中央に太った男が座り…
手に長い鎖を引き…
すぐ横で枷に繋がれた女が沈んでいる…
…
「遅えじゃねえか?」
太った男が声を上げる
…
「すみません、ボス…」
仮面の男が笑う
「ちょっと予定外のことが起きちゃって…」
…
「どうでもいい。」
太った男は顎を上げ、手を差し出す
「早くよこせ!」
…
さっ…
「焦らないでよ、ボス。」
仮面の男は写真をゆっくり取り出す
「逃げられるもんじゃねえんだから。」
………
すっ…
太った男の手元の写真…
緑髪の少女が、紅蓮の炎の中に立つ姿…
……
じゅる…
太った男の目が見開き…
唇が歪み、息が煙のように…
よだれが口の端から長く垂れる…
…
「おお、見ろよこいつ…」
太った男が舌なめずり
「随分と大きくなったじゃねえか…?」
……
ぶる…ぶる…
鎖が震え…
繋がれた少女の目が見開き…
体が後ずさる…
…
「どうして…」
少女の唇が震える
………
くいっ…くいっ…
洞窟の天井から…
月光の下に小さな光点…
…
レンズが静かに調整される
…………………………………………………………..
遠くの部屋…
書類が山積み…
スクリーンが激しく光る…
…
ピッ…
スクリーンが突然消え…
手がファイルに伸びる…
…
ひら…ひら…
物がゆっくり落ちる…
…
ギリ…ギリ…
闇の部屋の中心から…
触手が闇を裂いて飛び出す…
少女の目は写真から離れない…
…
くふ…くふふ…
指が唇に触れ…
頰が赤く染まり…
笑みがどんどん広がる…
…
「見つけた…」
…………
…ジ…ジジ…
監視カメラのランプが赤に変わり…
触手に囲まれた少女を捉え…
写真には、はっきりとハルの顔が映っている…
……………………………………………………………………………………………………………….
ウィィ…ウィィ…
空っぽの空間…
浮遊する岩の破片…
衛星の光が激しく輝き…
レーザーが地上を照らす…
…
「今度こそ、負けねえ。」
「今度こそ、誰も失わねえ。」
…
「今度こそ、二度とウラヌスなんて起こさせねえ。」
………………………………………………………
ズァァ…
青空を貫き…
嵐の中心へ…
緑の光が空間を切り裂く…
…
ブオオオ…ガアアアッ!
巨大な獣が天を仰ぐ
…………………………
キィン…
深海を貫通…
光線がすべてを切り裂く…
…
軍勢を越え、陸地へ…
深淵の闇へ…
決して許されざる場所へ…
…
ピッ…
赤い光が夜を切り裂く




