帰りを待つ家
キキッ…
沈みゆく陽の下……
馴染みの街並みが目の前に現れ……
徐々に人影が消えていく道……
…
ガチャ.
「やっと着いた!」レンが車から飛び出す
…
「シノミ……」俺はシノミを見る
「…」シノミの目が窓の方を向いたまま閉じている
…
「仕方ないよな……」俺は微笑み、そっと近づく
…
俺の両手がシノミを軽く支え……
体を密着させ、起こさないように……
ゆっくり足を下ろし、車から降りる……
……
「十神様!」コウカが俺を見る
「どうしたの?」俺は振り返る
…
「これを三日月さんに渡してくれない?」コウカが袋を俺に差し出す
「もちろん!」俺は手を伸ばして受け取ろうとする
…
「俺がやるよ!」レンが割り込んでくる
「両手塞がってるのに何持つんだよ!」
…
「でも……」俺はレンを見る
…
はぁ……
「欲張りすぎだよハル!」レンが腰に手を当て
「別行動するわけじゃないんだから!」
……
「おじさんもだよ!」レンの目がおじさんに向く
…
ピクッ!
「わ…わ…わしはまだ用事が……」おじさんが顔を逸らす
…
「もういいから!」レンがおじさんに近づく
「腕があんなんなってるのに何が忙しいの?」レンがギプスの腕を指す
…
「それに俺も助けたんだから!」レンが目を細めておじさんを見る
…
「だがわしは……」おじさんが周囲を見回す
…
「家に帰りなさい、兵士!」早山先生がおじさんを見る
「残りは俺たちに任せて!」
…
「はい……」おじさんの肩が落ち、顔を下げる
……
「十神様……」コウカが俺を見て微笑む
「この時間は本当に楽しかった。」
「これで最後よ。」
…
「コウカ…でも…どうして……」俺はコウカを見る
「どうして……」
…
「これからはもうこんな簡単なものじゃない!」コウカが軽く首を振る
「君を巻き込みたくないの。」
…
「特に…私が…まだ確信が持てないうちは……」コウカが軽く囁く
…
…
「じゃあ、コウカ……」俺はコウカを見る
「この名前…聞いたことある?」
「ノクティス……」
…
「ノクティス…」コウカの目が大きく見開かれ、体が固まる
「君…その名前を…どこで……」
…
「あ、いや……」俺は慌てて首を振る
「ただ…ふと…耳に入っただけで……」
…
「頭に浮かんだだけのくだらない言葉だよ。」俺は唇を歪めて微笑む
…
「そう?」コウカが軽く囁き、唇に笑みを浮かべる
……
「早山さん……」コウカが早山を見る
「明日、東京まで一緒に乗ってくれない?」
…
「それは……」早山先生が首を傾ける
「すみません、俺は……」早山先生が周囲を見る
…
「…」早山先生の視線が俺に向く
…
「あ、いや……」早山先生が軽く微笑む
「悪くないな!」
…
「じゃあ……」コウカが軽く微笑む
「明日の朝7時、ここで待ってるわ!」
…
「了解。」早山先生が軽く背を向ける
…
「それじゃ……」コウカが俺を振り返る
「みんな、さようなら……」コウカが軽く頭を下げる
………………………………………………………………………………………………………………
ぺた……ぺた……
沈む夕陽の光の下……
街灯が徐々に灯り始める……
….
「ねえハル……」レンが俺を振り返る
「そんなに抱えて、疲れない?」
…
「全然。」俺は軽く首を振る
「むしろ逆だよ!」
…
ほぉ〜
「そう?」レンが目を細めて俺を見る
「俺は誰かが女の子を抱きたくて倒れたのを覚えてるけど!」
…
「からかうなよ!」俺は顔をしかめてレンを見る
「あれはもうずっと前だろ!」
…
「それに…ツメコさんとシノミを比べたら……」俺は軽く唇を動かす
…
「あの子たち今何してるかな?」レンが手を頭の後ろに組む
…
「分からない……」俺は軽く首を振る
「でも早山先生がいるなら、大丈夫だと思うよ!」
……
タッタッタッ……
遠くから足音が響く……
小さな影が俺たちに向かってくる……
……
「そういえば……」レンが額に手を当てる
「早山先生、ここに来たの何でだっけ?」
…
「君が知ってると思ってたよ?」俺は首を傾けて見る
…
「お前ら……」おじさんが俺たちに近づく
「一体…いつまで行くんだ……」おじさんの視線が逸れる
…...
ダッ!
「兄ちゃん!!!」ケイの影が俺に飛びつく
「おかえり!」
…
ドン!
俺の足が後ろに下がり、歯を食いしばる……
両手が高く上がり、シノミを抱え上げる……
背中を前に突き出す……
…
ぎゅっ…
「どこ行ってたのよ?」ケイが俺の胸に顔を押しつける
「心配したんだから!」
…
「怖い目に遭って……」ケイが体に頭をすりつける
…
ぐぐっ……
「分かった…分かったよ……」俺は必死に頭を上げ、目を閉じる
「だから…ゆっくり…離してくれ……」
「じゃないと…みんな……」
……
ん……
シノミの目がゆっくり開く……
体が俺から離れ……
…
「ここ…どこ……」シノミが目をこする
…
「何が…起きてるの……」シノミの視線が俺に向く
……
「シノミ…待って…今は…違う…」俺は目を細めてシノミを見る
…
はっ……!
「ハ…ハ…ハル!」シノミが体をよじる
「どうして…どうして君が…君が……」
「近すぎ……」
……
ドンッ!
俺の体が道に倒れる……
ケイが腹の上に……
シノミが胸にまたがる……
…
「ハル、大丈夫!?」シノミが目を大きく見開いて俺を見る
「兄ちゃん……」ケイが近づく
…
ずき……
「だ…大丈夫……」俺は二人を見上げる
「ちょっとだけ……」
…
「ごめんね……」ケイが体を縮め、手を絡める
「私が…聞かなくて…だから……」
…
「大丈夫だよ……」俺はケイに手を伸ばす
「俺のせいだから……」
…
「大事なのは…お前は大丈夫か?」俺は目を開けてケイを見る
…
ふる…ふる…
「大丈夫……」ケイが軽く首を振り、微笑む
「兄ちゃんが弱っちい枕になってくれたもん!」
…
「この妹は……」俺は頭を道に落とす
「えへへ……」ケイが頭に手を当て、軽く微笑む
…
「シノミはどう?」俺は頭をシノミに向ける
「大丈夫?」
…
もじ…もじ…
「ハル……」シノミが軽く指を絡める
「本当は…拒否してるわけじゃないよ……」
「でも…まだ学校あるし……」
…
「それに…急すぎて……」シノミの顔が下を向き、頬が赤くなる
「私…準備ができてなくて……」
…
「あ、いや…そういう意味じゃなくて……」俺の両手が慌てて振る
「あの時君が寝てたから……」
「だから俺が……」
…………………………………….
へぇ〜
「見てよ誰かさん……」レンが腰に手を当て、俺を見る
「もう女の子の腕の中に沈んでる!」
…
「違うって!」俺は頭を上げて見る
「手伝ってくれよ!」
…
すっ…
「ごめん!」レンが軽く袋を上げる
「でも手が塞がってるんだよ!」
…
「終わったら追いついてね!」レンが背を向け、軽く手を振る
…
「レン! ちょっと! 戻ってきて!」俺は必死にレンを見る
…………
「あのガキをあんなにしておいていいのか?」おじさんがレンを振り返る
…
「大丈夫だよ!」レンが軽く微笑む
「あいつはあそこでいいんだ!」
…
「それより……」レンが前を向く
「今度こそ逃げないでくれよ、おじさん!」
…
「分かってる……」おじさんが軽く頷く
……
馴染みの家の影が徐々に現れる……
二つの影がドアの前に立っている……
一つの影がそっと近づく……
…
カツッ…カツッ…
杖をついた影……
白い包帯が足首を巻き……
ゆっくりとレンに向かって進む……
…
「おお、見ろ誰だ!」レンが軽く微笑む
「こんな日が来るなんて思わなかった!」
…
「黙れ!」ネネが眉を寄せ、頭を下げる
「まるで私がやりたくてやってるみたいに言うな!」
…
「知らないよ!」レンが顎に手を当てる
「似合ってるじゃん!」
…
ギュッ…
「何て言った!?」ネネが杖を強く握る
「もう一回言ってみろ!」
…
「何も言ってない!」レンが軽く顔を逸らす
…
「ただ……」レンの唇が軽く動く
「獅子も傷つくとこうなるんだなって。」
…
ガツッ!... ガツッ!...
「そこにいろ!」ネネがレンに飛びかかる
「見せてやるわ……」
「傷ついた獅子が何できるか!」
…
「ネネ…待って…ゆっくり……」レンが両手を前に出し、慌てて首を振る
「冗談だって…冗談……」
……
「こんなことで……」ネネがレンに近づく
…
ズルッ…
杖がずれて……
ネネが前に倒れる……
…
「……俺が…許して…やる……」ネネの目が大きく見開かれる
…
ガシッ!
「ほらな……」レンがネネを支える
「言っただろ……」
「あの状態でまだ無理するなんて!」
…
「ネネ?」レンが首を傾けて見る
…
くくく……
「…」ネネがレンの胸に顔を埋める
「ネネ様…?」レンの目が歪む
…
ギュッ!
「もう逃げられないよ!」ネネがレンの手を強く握り、軽く顔を上げる
…
「命だけは……!」レンの目が空を向く
…………
ぺた……ぺた……
小さな背中が近づいてくる……
…
「小林兄さん……」翔也が首を傾ける
「お姉ちゃんたちは?」
「どうして兄さんだけ?」
…
すっ……
「ハル…のことか…?」レンが振り返って翔也を見る
「あいつは…後ろにいるよ……」
「田中さん…ケイちゃんも一緒に……」
…
「そう?」翔也が首を傾ける
「運がいいな……」翔也の目が軽く閉じる
……
ぽん……
「翔也くん……」レンが軽く翔也の頭に触れる
「もう一人…会うべき人がいるよ!」
…
「本当?」翔也の目が大きく見開かれる
「誰ですか?」
…
「え?」レンが周囲を見る
「さっきまでここにいたのにどこ行った!」
……
すっ……
「ちょっと待ってて……」レンがネネの手を軽く払う
……
「おじさん!」レンが周囲を見る
「また逃げたのか!」
…
そっ……
電柱の後ろから頭が覗く……
視線が周囲を軽く見回す……
…
「逃げるなって言っただろ!」レンが両手を振る
…
「…」おじさんが背中を隠す
…
「もうダメだな!」レンが翔也を見て、電柱を指差す
「俺が呼んでくるよ!」
……
ぎゅ……
「ここにいろ!」ネネがレンの襟を軽く引く
…
「ネネ! 今はそんな時じゃ!」レンが体をよじる
…
「ここにいろ!」ネネが軽く体を屈め、翔也を見る
「早く行って!」
……………………………
と…と……
小さな足音が道を進む……
目を丸くし、首を傾げ……
…
「お父さん!」翔也が明るく笑い、両手を握る
「お父さん帰ってきた! 帰ってきた! 帰ってきた!」
「今度は遊んでくれる?」
…
そっ……
「あ…いや…わしはただ……」おじさんが背を向ける
「通りすがりで…仕事がまだ……」
…
「そう……」翔也の両手が軽く下がる
「やっぱり…いつも通りか……」
…
「…」おじさんの視線が軽く翔也を見る
……
「お前まだ何待ってるの!」ネネが手を口に当て、電柱を見る
「あの子をいつまで待たせる気!」
……
さっ……
「わ…わしは冗談だよ!」おじさんが軽く振り返る
「ただ…息子を驚かせてやろうと……」
…
すっ……
「見てみろ……」おじさんが軽く背中の袋を指差す
「プレゼントも用意してあるんだぞ!」
…
「つまり……」翔也の目が大きく見開かれ、唇に笑みが浮かぶ
「今度こそ…お父さん帰ってきたの…?」
…
「今度こそ……」おじさんが微笑む
「もう行かないぞ!」
…
ぴょん…ぴょん…ぴょーん…
「やった!」翔也が連続で跳ぶ
「お父さん帰ってきた! 帰ってきた! 帰ってきた!」
………
と……と……
おじさんが電柱からゆっくり出てくる……
女性の影が徐々に近づく……
…
とて…とて…
「お母さん! 見て!」翔也が三日月さんに近づく
「お父さん帰ってきたよ!」
…
「…」おじさんの目が大きく見開かれる
…
「花…兄さん……」おじさんが三日月さんに手を伸ばす
「実は……」
…
…
「おかえりなさい!」花が軽く首を傾けて微笑む
「夏目……」
…
ぎゅっ…
「ただいま!」夏目が花を抱きしめる
……………………………………………………..........................................................................................
目の前の道の真ん中で……
翔也がまだ走り回る中……
さっきのおじさんが……
今、三日月さんと手をつないで……
…
ぺた……ぺた……
俺たちはゆっくり通り過ぎ……
家に向かう……
レンと石若さんが立って見ている……
…
「ねえ……」俺は手を口に当て、軽く体を屈める
「何か見逃した?」
…
にやっ…にやっ…
「遅すぎだよ、ハル!」レンが後ろを向く
「結構見逃したな!」
「残念だけど、俺はシェアしないよ!」
…
「どういうこと?」俺は首を傾ける
……
ダダダダッ!
後ろから音が響く……
埃が軽く舞い上がる……
……
「ネネちゃん……」シノミが石若さんを見る
「これって……」
…
「待って。」石若さんが微笑む
「あとで話すわ!」
……
「気になるだろハル?」レンが体を揺らす
「知りたい? 知りたいよね?」
…
「もう興ざめだよ。」俺は眉を寄せる
…
「ハルって本当に……」レンが軽く首を振る
「可哀想そうだから教えてやるよ!」
「実は……」
……
ドンッ!!
体が俺にぶつかる……
馴染みの感覚が一気に蘇る……
短い赤髪が目の前に現れる……
…
「久しぶり! 覚えてる?」少女が俺を見て微笑む
「ハル〜くん!」
…
「ツメコちゃん……」シノミが振り返る
「ここで何してるの?」
「みんなと一緒のはずじゃ……」
…
「あれ…どう言ったらいいかな…忘れてた……」ツメコさんが額に手を当てる
…
…
「そうだ!」ツメコさんが指を天に立て、笑みを浮かべる
「みんなを連れて帰るために来たの!」




