21話
「お姉さん!」
「おや、久しぶりだね」
驚かされている。
約束通りアンケ家の兄弟達と会うことになった。
ノアが嬉しそうに、これで堂々と家に来れるな誘ってよかったぜと言っていたが、当人のルーカスはなかなか緊張しているようだった。
そして、まあ大きな屋敷の外で待ちきれないとばかりに待っていた兄弟達の中に見知った顔を見た。
あの時の少女だ。
「君はルーカスの妹だったか」
「うん!」
話の調子から少女は、私がルーカスと関わりがあったことをやや察していたらしい。だからといって、あの出会いはあくまで偶然ではあるが。
そして兄弟達は私を怖がることなく、何故か手を繋ごうと躍起だっている。
彼の屋敷の庭を散歩するだけなのに、私の両手は大量だ。歩きづらいが嫌ではない。
両耳も騒がしいが心地がいい。不思議なものだ。
「そいや大佐から聞いたか?」
「あぁ」
凱旋の後、大佐は奴らを引きずり下ろした。影で開戦を扇動しようとした事を軸に。
これだけ遠征に時間をかけたのは奴らを引きずり下ろす事が目的でもあったらしい。
地盤固めに時間を要していたのなら分かる。
なにせ、あの程度の小競り合いであれば、ミランがあんなに時間をかけるわけがない。裏に何かあると思ったらこれだ。
結局、私はミランに借りができた。大きな借りだ。
私自身が復讐をする事を止めたとはいえ、結果的にミランがそれを成し得てくれたのなら、私の願いは全て叶っている。
今頃奴らは静かな場所で監視されながら余生をすごしているだろう。
そして私は日常を謳歌している。今度ミランには酒でも奢るか。
「アリーナ?」
私が何も言わないのを心配したのか、後ろでノアと一緒に歩くルーカスが声をかけてくる。
「なんだ」
「大丈夫ですか」
「大丈夫だよ、思いはとうに無い」
「そう、でしたか」
自分でも驚く程、はっきりと応える事が出来た。良かった、私は前に進んでいる。
はっきり復讐という思いを断ち切れている。それが一番大事なところだ。
なにより今の優先事項が、私の後ろを歩く彼ただ一人ということが大きな変化だろう。
それを伝えたら彼はどんな顔をするかな。
正直に喜ぶか、はては赤面するか。しかし、今伝える言葉は違うか。
「ルーカス」
「はい」
「有難う」
「……ええ」
少し疑問を抱いていたが、彼に伝える言葉はこれが正しい。
彼が花束を持って私の元に来なかったらこの未来はなかったのだから。
「お姉さん、お兄のどこが好きなの?」
「こ、こら、そういうことを聞くんじゃない」
「はは、そうだね」
何から話そうか。
「それよりも、君たちは私の事が怖くないのかな?」
両手からなんでだの怖くないだの色々な声が飛び交う。
「お兄はずっとお姉さんのこと話してたから、私達みんな知ってるよ?」
「だからぜんぜんこわくない!」
「そうか」
「こ、こら、それは」
「ルーカスはそんなに私のことを話していたのか?」
「……え、ええ」
気まずそうに視線を逸らす。
隣のノアが、無自覚に話してたからこれ以上きいてくれるなと苦笑する。
「無自覚」
「お兄はお姉さんのこと好きすぎなんだよ」
「こら!」
さっきからこらしか言ってないが、彼女の名前はこらではない。しかし彼があまりにも動揺してるから指摘するのはよしておこう。
「お姉さん、お兄のこと本当に好き?」
「はは、どうした急に」
「格好つかないなーって」
後ろでぐっと呻く声が聞こえた。彼は彼で思うところがあるらしい。
何を気にしているのだろうか。
「私はきちんとルーカスが好きだよ」
「本当?」
「あぁ。ルーカスは私を救ってくれたからね」
「うん?」
「ずっと私に向き合ってくれてたんだ。そのひたむきさと純粋な素直さは目を見張る」
「へえ!」
またしても背後で唸っていたが、先程とはいくらか違ったようだ。
後ろを見やれば、耳まで赤くして片手で口元を抑えた彼が唸る声を抑えている。
呆れた様子で隣のノアが首を横に振った。
放っておけと言われた気がして、何も言わず兄弟たちに向き直った。
なにより本当の一番は、彼のおかげで私は愛を思い出したのだという事だ。
後で直接伝えてみよう。
今よりも望む反応と返答を得られる気がするから。
完結しました。最後までご覧頂きありがとうございます!
サブテーマは、私に素直クールを書くことが出来るか、でした。




