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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生三学期編

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302/313

バレンタイン当日1


「に・い・さ・ん?」


 歌うような声が聞こえてくる。


「もう少し寝かせて……」


 僕がベッドの暖かさに微睡んでいると、


「ふふ。こっちは正直ですね。妹に興奮してくれるなんてさすがは兄さんです。兄の鏡です。せっかくの特別な日なのですから妹として恋人として兄さんのバナナにチョコをかけてチョコバナナ……」


「てやっ」


 それ以上聞いていられず僕はとっさに起き上がると華黒の頭に唐竹割り。


「もう。華黒の変態……」


「兄さんに言われるとゾクゾクしちゃいますね」


 華黒は妖艶に笑った。


 最近、君は方向性を見失ってないかい?


「で、何?」


 小芝居のせいで完全に目が覚めた。


 まさかこれを狙って……ありえませんねわかります。


「朝食です」


「でっか」


 パジャマの上からどてらを羽織ってダイニングに顔を出す。


 同時に、


「っ?」


 濃厚なチョコの香りが漂ってきた。


 見ればダイニングテーブルの上にはドロドロにとけたチョコの滝と、色とりどりのフルーツ。


 苺、林檎、葡萄、マンゴー、パイン……エトセトラエトセトラ。


 どう見てもチョコフォンデュだった。


「あー……そう云えば……」


 今日は二月十四日。


 バレンタインだったね。


 ちなみに僕がいつもの席に着くと、


「はい。兄さん」


 華黒がホットチョコレートを淹れてくれた。


 砂糖少なめのほろ苦いチョコ飲料。


「で、朝からチョコフォンデュという暴挙を犯したのは?」


「黛さんです」


 黛が挙手した。


「どうせ学校や放課後はお姉さんも大変でしょうから仕掛けるなら朝が適当だと思って準備しました」


 さいでっか。


「というわけで今日の朝食は黛さんのバレチョコです」


「よく華黒が許したね?」


「まぁ精一杯妥協しましたけどね」


 どうしても僕が他の女子からチョコを貰うということが気に食わないらしく、葛藤が透けて見えた。


「ほら。ルシールさん。今の内渡さないと機を逸しますよ?」


 黛が発破をかける。


「………………あう……真白お兄ちゃん……どうぞ……」


 可愛らしくラッピングされたチョコを僕に差し出してくるルシール。


 チョコクッキーだった。


「ルシールの手作り?」


「………………うん……黛ちゃん……監修……」


「嬉しいよ。ありがと。大事に食べさせてもらうよ」


 ルシール好みに微笑んで見せる。


「………………あう……」


 とルシーるルシール。


 可愛いなぁ可愛いなぁ。


 どうしようこの愛しさ。


 華黒の逆鱗に触れてでも抱きしめたい。


 流血沙汰は御免だからしないけどさ。


 さてチョコフォンデュを朝食にして黛にお礼を言うと、


「いえいえ。愛しいお姉さんのためですから」


 謙虚に見えて華黒の逆鱗に触れるか否かの火中天津甘栗拳を繰り出してくる。


 死にたいのかな黛は?


 剣呑な光を宿す華黒の光が次の言葉でさらに深淵深くなる。


「はい。俺と鏡花からの本命チョコです」


 水月が僕と華黒に紙箱を渡してくる。


「中は何?」


「オペラです」


 たしかチョコケーキの一種だったね。


「ありがと」


「ありがとうございます」


「華黒先輩に喜んでもらうのが一番です。鏡花は真白先輩に喜んでもらえれば幸い、と」


「喜んでいるよ。ちょっと鏡花に変わって?」


「はぁ……構いませんが」


 水月の瞳から自負が消えて臆病が取って代わる。


「いい子いい子」


 僕はそんな鏡花の頭を撫でた。


「………………う……あ……」


 鏡花は赤面してポーッと熱に浮いた瞳で僕を見やる。


 その様がとても可愛い。


 曰く、僕と時間を共有しているときだけ鏡花はストレス障害から逃れられるらしい。


 想い人を想うことで苦痛が取り除かれるならこれ以上は無い。


 何より女の子の憂いが僕の苦痛だ。


「兄さん……?」


「野暮天言わないの」


「むぅ」


 華黒は何処までも不満そうだ。


「大事に食べさせてもらうから。ありがとう鏡花」


「………………うん……」


 コクリと頷く鏡花。


 もう耳まで真っ赤だった。


 愛い奴愛い奴。


「で? いつまで俺の頭を撫でるつもりですか?」


 鏡花の現界限界時間だったのだろう。


 水月にいつの間にか切り替わっていた。


「華黒先輩」


「はい」


「大好きです」


「そうですか」


 あまりにもあっさりと華黒は言い切った。


 まぁそうなるよね。


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