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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生三学期編

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その想いの向かう先2


 次の日。


 着々とバレンタインが近づいている。


 周りの女の子たちは裏で策謀しているらしかった。


 そう統夜に教えてもらった。


 前から思ってたけど統夜は何処からそんな情報を得ているのだろうか?


 疑問に思うも、


「天啓」


 とすまし顔で統夜は言った。


 誤魔化されていることはわかるんだけど、


「じゃあ何だ?」


 と問われれば口を閉ざすしかないわけで。


 本当になぁ。


 何だろね?


 そんなこんなで今日も華黒を連れて登校。


 華黒に引っ付いているのは水月。


 その背後でルシールと黛が百合百合している。


 というのは僕の現実逃避で、二人は雑誌を見ながら会談していた。


 曰く、


「手作りチョコレートとは如何に」


 というテーゼだ。


 毒にも薬にもならない。


 いや、チョコは薬になるか。


 ともあれ、


「やれやれ」


 僕は嘆息した。


「兄さん?」


「何?」


「溜め息をすると幸福が逃げますよ?」


「つまり溜め息をついた分だけ華黒が僕から逃げるって事?」


「いつでも傍にいます」


「なら問題ないね」


「むぅ」


 不満気な華黒だった。


 黒真珠のような瞳には拗ねた感情が湛えられている。


「ところで」


 これは僕。


「バレンタインの計画はもう立った?」


「まぁ一応」


「でっか」


「兄さんはまた今年も色んな人からチョコを貰うんですか?」


「蔑ろにはできないしね」


「蔑ろにしてほしいです……」


「そんなこと……」


 と、そこまで言って僕の呼気は止まった。


 一瞬だけね。


「…………」


 華黒が憂いの表情でこちらを見やっていたからだ。


 いつもの毅然とした華黒には無い表情だ。


 というか本来の華黒のソレと云えるだろう。


 少なくとも現時点において華黒は僕を必要とする。


 それも絶対的に。


 僕の移り気が華黒には不安を与えるのだろう。


 が、


「大丈夫だよ」


 とは言えなかった。


 僕に引っ付いている華黒に引っ付いている水月の目が笑っていなかったから。


 そうこうして難儀なクインテットは校門を潜る。


 昇降口で分かれて内履きに履き替えると、


「みゃ!」


 と水月の悲鳴が聞こえた。


「…………」


「…………」


 僕と華黒は目を見合わせる。


 そして下級生のスペースにひょこっと顔を出す。


「どしたの?」


 最短で聞く僕に、


「あうう……」


 と泣きそうになる水月。


 何があったんだろう……?


「ええと、お姉さん」


 とこれは黛。


「………………あう……」


 とルシーるルシール。


「うわぁ。ええ……?」


 どうやら水月は混乱しているらしい。


 代わりに黛が答える。


「水月が懸想文を貰ってしまいました」


「でっか」


 さほど珍しいこととも言えない。


 鏡花水月は美少女だ。


 バレンタインの前にアタックする男子が現れても不思議ではないだろう。


「どうしましょう?」


「と言われてもね……」


 僕は人差し指で頬を掻く。


「俺は華黒先輩が好きです」


「なら断れば?」


 他に言い様もない。


「華黒先輩……」


「何でしょう?」


「ついてきてはくれませんか」


「私が……ですか……?」


「はい」


「そんなこと……」


 と言って華黒は水月の瞳を見る。


 怯える小動物にも似た瞳。


 しばし思案した後、


「兄さんが付き合うなら付き合いましょう」


 それが最低ラインらしかった。


「僕はいいけどね」


 つまりそういうことだった。


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