天敵論6
「何故水月は兄さんにキスをするのです?」
「キスしたのは水月じゃない……だろ?」
統夜は水月に視線をやる。
「はい。俺ではありません」
「では誰です?」
「鏡花です」
そう水月は告白する。
「鏡花?」
これは統夜と水月以外の全員。
「まぁそれはともあれ」
統夜はコーヒーカップを受け皿に置くと、話を切り替えた。
「真白?」
あいあい。
「DIDって症状を知ってるか?」
「ディソシエイティブ・アイデンティティ・ディスオーダーの略だよね」
すらすらと諳んじてみせる。
一応精神系の病気に関しては勉強している。
僕も患者だからね。
「さすが」
「素人に毛の生えたような知識だよ」
本で読んだ程度だ。
自慢するこってもない。
「でぃそし……?」
黛が首を傾げた。
「ディソシエイティブ・アイデンティティ・ディスオーダー」
繰り返す僕。
「何ですかそれは?」
「統夜。お願い」
「日本語で言うところの解離性同一性障害。俗にいう多重人格障害だよ」
「多重人格って……」
「………………あう……」
黛とルシールの二人はあまり理解できないらしかった。
「一つの体に二つ以上の人格が形成される症状を指すんだ。千夜寺の中には鏡花と水月の二つの人格が宿っている。二重人格だな」
「本当っすか?」
黛が水月に水を向ける。
「本当」
「ということは……」
とこれは華黒。
「兄さんにキスをしたのは水月ではなく鏡花の方だったと?」
「はい」
理論的帰結ではある。
まぁたしかにそれなら説明がつく。
あら?
そうすると……、
「もしかして」
嫌な予感。
虫の報せ。
「多分……だな」
統夜もぼんやりと肯定した。
「………………どういう……こと……?」
ルシールはいまいちついてきてないなぁ。
「つまり」
と統夜。
「鏡花が真白に、水月が華黒に、それぞれ一目惚れしたんだろ」
そゆことなのだった。
「………………あう……」
理解してルシーるルシール。
うーん。
抱きしめたい。
「兄さん?」
「冗談はともあれ……」
僕は話の筋を本道に戻す。
「なんていうか。ややこしいね」
鏡花は僕こと真白に一目惚れ。
水月は妹こと華黒に一目惚れ。
で、僕と華黒は相思相愛。
三角関係と云うか四角関係と云うか。
いや、鏡花と水月は繋がっていないからコの字関係が適切か。
「そういうわけで鏡花が真白先輩にベタ惚れなのでこれからも粗相をしでかすと思います」
そんなサラリと言われても……。
「水月が抑えることは出来ないのですか?」
華黒が問う。
「無理です。体の所有権は鏡花にありますから」
鏡花が基本人格なんだ……。
「鏡花は真白先輩を想っているときだけ病気の苦しみから救われると言っていました。おそらく事実なのでしょう」
「病気?」
「それについては……今は言えません」
「統夜?」
「なんだ」
「昴先輩は手を出さなかったの?」
鏡花水月は美少女だ。
十分昴先輩の範疇だと思うんだけど。
「ああ、鏡花の方が姉貴の天敵だからな」
ん?
「天敵?」
「天敵」
「どういう意味で?」
「それは……まぁ鏡花が病気について伏せるというのならここで言うことでもないな」
済ましたようにそう言ってコーヒーを飲む。
「鏡花が申し訳ありません」
「気にしてないよ」
何でもないように言って見せる。
というか確かにソレについては何も感じようがない。
「水月と鏡花は華黒と真白をどうするつもりなのか?」
それだけは後ろ髪を引っ張られるようなしがらみだったけど。
まぁ毎度のことではあるんですけどね~。




