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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生三学期編
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天敵論5


 滞りなく授業が終わり、ホームルームも終わる。


「じゃあ気を付けて帰りなさい」


 という担任の教師の声を聴いて僕は帰宅の準備をした。


「兄さん。帰りましょう」


「だね」


「仲睦まじく帰りましょう」


「周りの反感買ってどうするのさ」


「気にするなんて兄さんらしくもない」


「華黒に冷たい目線を向けられるのも、ね」


 統夜に聞いた話では僕は一年生から少なからず支持されているらしい。


 この支持と云うのがどこまでのことを指しているのかわからなかったけど、聞くのが怖かったため問うてはいない。


「お姉さーん。お姉様ー。かーえりーましょー」


 こんなことを言うのはナチュラルハイテンション黛さんに他ならない。


 廊下側のクラスの扉からヒョコヒョコと手をふっている。


「華黒先輩」


 物怖じせずに教室に入ってきたのは水月。


 この子も恐い者知らずだな。


「デートしましょう」


 ざわっ。


 あっけらかんと言った水月の一言にクラスメイト達が射すくめられた。


 表現が的確かどうかはともあれ。


「兄さんが良いなら良いですよ?」


「どうです真白先輩?」


「別に構いやしないけどさ。そういう健気なところは可愛いね」


 変化は劇的だった。


「………………あ……う……」


 ボンと一瞬で顔を真っ赤にする水月。


 頭のてっぺんからプシューと湯気を立ち上らせる。


「………………あ……う……」


 そして艶っぽい光を瞳に湛えて、


「………………ん……」


 無防備だった僕の唇を唇で奪った。


「な……っ!」


 華黒の絶句。


「………………あうう……!」


 ルシールの言失。


「おやまぁ」


 黛の平常運転。


 そしてクラスでどよめきと云う名のビッグバンが炸裂した。


「キャー!」


 とミーハーが騒ぐ。


「また真白か! また真白なのか!」


 と嫉妬に騒ぐ男子ども。


「女の敵ね」


「害虫」


「淫獣」


 蔑視してくる女子ども。


 もはや瀬野二における僕の評価は最底辺を振り切れてマイナスに突入した。


 そりゃ華黒とルシールと黛と水月とともにイチャコラやってたらそうなるよね。


 華黒と云う本命がいながら、まだ誰も唾をつけていないはずの水月までもが僕に好意を寄せているとなれば爆殺されてもおかしくない。


「なーっ!?」


 と驚いているのは水月も同じだ。


 顔を真っ赤にして、


「あわわ……! あわわ……!」


 と狼狽える。


「水月さん?」


「何でしょう?」


「何で華黒が好きなのに僕にキスするの?」


「だからアレは俺じゃなくて鏡花のせいで……!」


「鏡花?」


「俺じゃない俺です!」


「意味わかんないんだけど」


 いくら僕とてこうまでキスされれば意識せざるを得ないんだけど。


 というか華黒が怖い。


 そこに一人動揺していない生徒が僕らに近づいてきて、ポンと僕の肩に手を乗せた。


 統夜だ。


「はーいはい。そこまで。事情話すからとりあえず帰ろうぜ?」


 そんな提案。


 いきなりのキスでぐちゃぐちゃしていた脳内ホムンクルスの暴走が少しだけ鳴りを潜める。


 カルテジアン劇場が沸騰から冷める。


「統夜は知っているの?」


「まぁ概ねの事情はな」


 そして統夜は水月を見て、


「な?」


 と皮肉気に言う。


 そんなわけで今回はセクステットでの帰宅と相成った。


 僕とカルテットの少女たちと統夜。


 珍しい六人組だ。


 基本的に統夜が僕に話しかけてくるのは僕が一人の時だからなぁ。


 ともあれ学校から逃げるように下校。


 近場の喫茶店にて六人掛けのテーブルの席に着く。


 僕と統夜はコーヒー。


 カルテットはそれぞれの紅茶を。


 ジャズの流れる雰囲気の良い喫茶店だ。


 木目が至る所に奔り、和洋折衷と相成っている。


 手作り感を重視しているのだろう。


 メニューも流麗な手書きだし、テーブルも巨大な樹を輪切りにしたような木製のソレ。


 コーヒーも苦みが強くすっきりとしていて脳に活力を与えてくれる。


 冷静になると頭を抱えてしまう。


「明日から僕は学校でどうすればいいんだ……!」


 切実な問題だ。


 泣きたい。


「法が無ければ殺しているところですのに」


 華黒も華黒で切実な問題らしい。


「さて、話していいか?」


 コーヒーを飲んだ後、統夜はそう口火を切った。


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