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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
191/298

『そして文化祭』2


 で、つまらない教室の見張りからも解放されて僕と華黒は文化祭を見て回った。


 当然のごとく腕を組んで。


 今日は学校も開放され生徒の父兄も参加している。


 そんな彼らは当然ながら僕や華黒を知らないわけで、


「……っ!」


 すれ違うたびギョッとされるのはどうにかならないものか。


 中には華黒を見て鼻の下を伸ばす男もおり、僕は少しばかり不機嫌になる。


「華黒……」


「何でしょう?」


「華黒は僕に惚れてるよね?」


「ゾッコンですが?」


「ん。ならいいんだ」


「何を……ああ……」


 自問自答する華黒。


 聡い子だこと。


「大丈夫ですよ。私が兄さん以外に心を許すことはありえませんから」


「その言葉は微妙だ」


「諸手を挙げて万歳じゃないのですか?」


「慕情については僕に向けても別にいいから、他者にも心を開いてほしくて僕は華黒に連れ添っているんだよ?」


「他者は……恐いです」


 だろうね。


 華黒の人間嫌いは徹底している。


 例外が僕とルシールくらいのものだろう。


 ちなみにルシールに関しては要熟考といったところで……立場や環境が変われば即座に牙をむく。


 少なくともその危険性は把握していなければならない。


 僕以外に心を許さないことは僕一人に愛情を注ぐことと同義だ。


「えへへぇ」


 華黒は至福だとばかりに相好を崩す。


「何さ?」


「いえいえ?」


 ニヤニヤ笑いは収まらない。


「兄さんが私への下心に嫉妬してくださるのが嬉しくて……」


 でしょうね。


「…………」


 憮然とする僕だった。


「ああ、やっぱり私には兄さんしかいません」


「だからソレが微妙だって……」


 何回言えばわかる。


 いや、わからないのが華黒の歪みなんだけど。


 重々承知したうえで、


「何とかならないか」


 と思うものの、


「何ともならないか」


 とも思う。


 どうしたものかな……本当に。


「兄さん兄さん」


「はいはい。華黒の兄さんだよ?」


「プラネタリウムですって。入りませんか?」


「そりゃ構わないけどさ」


 二年生の教室だ。


 金銭を払って中に入る。


 当然中は真っ暗。


 中は夏の星座を再現しているらしかった。


 天の川。


 さそり座。


 夏の大三角形。


 こと座に白鳥座にわし座。


 よく作りこまれたプラネタリウムだった。


 おどおどとした学生による星座の説明を受けながら、僕と華黒はブルーシートに寝転んで星座を見た。


「兄さんは星が好きですもの……ね」


 それが華黒の言葉だった。


 うん……まぁね。


 否定するほどの事でもない。


 僕は星が好きだ。


「天動説が主流にならないかなぁ」


 なんて思ったりもする。


 数十年から数千年の時を経て……地球へと届く光の一つ一つにドラマがある気がして仕方がないのだ。


 そう言えば去年の七夕祭りではルシールに織姫と彦星と催涙雨の話をしたっけ。


 ロマンあふれる話だ。


 少なくとも僕にとっては。


 それからボーっとプラネタリウムを眺めて一刻。


 上映が終わって外に出る。


「うーん」


 と背伸びをする僕。


 プラネタリウムを見るために床に寝転がっていたから節々が。


 まぁカーペットを用意しろなんて主催者側に言えないからしょうがないけど。


 さて、


「これからどうしよう」


 と僕が言葉を発するより先に、


「ねえ~君~」


 と馴れ馴れしい声が華黒にかかった。


 一瞬で負のオーラを発したのはさすがだけど、しかして鈍感なネズミには気づいてもらえないのも事実。


 南無。


「可愛いねえ。名前なんて言うの? 番号は? メルアドは? そこの女男より俺と一緒の方が楽しめるって絶対」


 汚物を擦り付けるように下卑た言葉をかける男に、華黒は僕の腕を引いてその場を立ち去ろうとした。


 懸命だ。


 しかし男はそんな華黒の態度に対して、


「お高くとまってんじゃねーぞ!」


 罵倒を吐きながら華黒の肩を掴む。


 華黒が敵意剥き出しにして凶行に及ぶより早く、別の人間の手によってナンパ男は撃退された。


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