『そして文化祭』3
「酒奉寺……昴……!」
そう……酒奉寺昴先輩が現れたのだった。
統夜と同じ茶色いツンツンした癖っ毛。
自信と自望に満ち溢れた瞳。
男の顔近くの高さまで跳躍する足のバネ。
男に飛び膝蹴りをかます度胸。
「…………」
相も変わらずと言ったところだった。
無論、
「てめ……っ!」
男(以後チンピラと表記)は黙っちゃいなかった。
が……相手が悪い。
「女だからって容赦しねーぞコラァ!」
昴先輩に襲い掛かるチンピラだったけどいなされ躱され拳も蹴りも通用しない。
そうこうしている内に、
「止めなさい!」
風紀委員が飛んでくる。
学校全体を警邏中なのだから見つかるのも時間の問題だったろう。
風紀委員はこちらの騒動に近づき、
「お姉様!」
と昴先輩を呼んだ。
「やあ穂波くん」
チンピラの関節をギリギリときわめながら先輩は風紀委員を呼ぶ。
そのやりとりだけど風紀委員がハーレムの一員だとわかる。
「何があったんです?」
「この男がナンパ行為かつ暴力的恫喝を百墨華黒くんに行なっていたため、それを阻止したんだよ」
「ですか」
はい。
チンピラさん連行。
「俺は悪くねえ」
とか、
「先に手を出したのは向こうだ」
など、色々言い訳をしていたものの……相手が悪い。
風紀委員がハーレムである以上昴先輩の言葉が絶対だ。
聞く耳を持たないとはこのことだろう。
「愛の勝利だね」
連行されるチンピラの背中を見送りながら昴先輩はそう言った。
「…………」
ただの権力構造の癒着にしか思えないのは僕の思考が腐っているのだろうか?
そもそもどこに愛があったのかも不明だ。
昴先輩とハーレムの間には愛はあるだろうけど、暴行の件とは無関係。
僕と昴先輩には当然……華黒と昴先輩の間にもあるとは思えない。
無粋だから言わないけどさ。
ともあれ、
「助かりました」
僕は謝辞を述べた。
「なに。気にするな」
そりゃどうも。
「私と真白くんとの仲じゃないか」
前言撤回。
「フシャーッ!」
華黒は縄張りを犯された猫のように昴先輩を警戒していた。
ギュッとさらに強く僕の腕に抱きつく華黒の……その胸が強く押し付けられたけどそれは言わぬが花だろう。
言葉は時として力を持つ。
特に僕の言葉は華黒にとって重大な意味を持つ。
責任をもって言葉を選ばねばならないのは……もう言わなくてもわかるよね?
そんなわけで、
「フシューッ! グルル……!」
威嚇する華黒の頭を撫でて何とか宥める。
「さて……」
パンパンとチンピラを蹴った膝を払って、昴先輩が閑話休題。
「久しぶりだね真白くん、華黒くん。白坂家主催の避暑以来かな?」
「お久しぶりです」
素直に挨拶を返す僕にツーンとそっぽを向く華黒。
「華黒くんは何が不満なんだい?」
意味がわからないと昴先輩は言う。
どうせ悟っているくせに。
もっとも捻くれていることを僕が責める理屈は無い。
御相子だ。
「まさか私と兄さんのデートに首を突っ込むつもりじゃないでしょうね?」
警戒最大で問う華黒に、
「そうしたいのは山々だけどね」
昴先輩は肩をすくめる。
「瀬野二の子猫ちゃんを相手取らなきゃならないんだ。今回に限っては真白くんや華黒くんに構っている暇はないんだよ」
安心すればいいの?
それとも呆れればいいの?
呆れる方にしておこう。
「平常運転ですねぇ」
どこまでも率直な僕。
「可愛い子が私を慕っているんだ。報いるのが本道だろう?」
「では何も求めるものは無いと?」
「そうだねぇ」
しばし考えた後、
「三秒だけ華黒くんを抱擁させてくれ」
「構いませんよ」
「兄さん!」
「大丈夫。そんなことで華黒への愛が薄れる僕じゃないから」
「可愛い可愛い可愛い妹が別の誰かに抱擁されようとしているのですよ!」
「だからいいってば」
ギャーギャーと言い争う僕と華黒の隙をついて昴先輩が華黒に抱きつく。
「ひゃっ!」
乙女特有の困惑の声をあげて動揺する華黒。
「うん。私の贈った香水をつけてくれているね。光栄だよ」
そして昴先輩の抱擁が終わった。
「ひあ!」
同時に華黒が狼狽えた。
「ブラのホックを外すのはやめなさいといつも言ってるでしょう!」
どうやら抱擁と同時に華黒のブラジャーのホックを外したらしい。
呼吸するようにそんなことをする昴先輩だ。
らしいと言えばらしいんだけどね。




