『七夕祭り』4
出店の出ている通りならともかくサークル棟の周りは大学生ばかりで萎縮してしまう。
「………………あう」
ルシールも気後れしていた。
ちなみに、
「結局何処に行けばいいんでしょう?」
「手芸部って看板かかげてる部屋を探せばいいのでは?」
華黒と黛は飄々としていた。
こういうところは尊敬に値する。
そうなろうとは一切思わないんだけどね。
ちなみに大学生の男性たちはチラチラとこっちを見て鼻の下を伸ばす。
有名税有名税。
サークル棟を周りながらやっとこさ手芸部の部室を見つけ、それから呼気一つ。
その扉にノックする。
「どうぞ」
この声は昴先輩だ。
「失礼します」
断ってから僕はかしまし娘を連れて中に入った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
時間が止まった。
「やあ真白くん。おや……何だいそのサングラスは? 君のルビーを溶かして染め上げたような綺麗な瞳が見られないじゃないか。それはいけないね」
昴先輩らしいと言えばらしいだろう。
言葉も言葉で。
行動も行動で。
言動も言動で。
「…………」
僕たちの時間は止まったままだ。
手芸部の部室には二人の女性がいた。
一人は当然昴先輩。
もう一人は知らぬ顔だけど手芸部の部員か何かなのだろう。
問題は……先輩が下着姿で、もう一人が裸に毛布を巻きつけているあられもない格好だということだ。
「何してるんですか? ていうか何してたんですか?」
「蝶と同じさ。花の蜜をすすっていただけだよ」
駄目だこの人。
会話が通じないにもほどがある。
「ともあれ歓迎するよ。真白くん。華黒くん。ルシールくん。黛くん」
サッとシャツとヴィンテージジーンズを身に纏ってハンガーラックを僕たちに示してみせる先輩だった。
さて、
「華黒くんにはこのスーツだね。ルシールくんにはこのドレス。黛くんにはこのテニスウェア。とりあえずそれぞれ着てみてくれ。乙女のサイズを見間違えるような失態を犯したつもりはないがぶっつけだからね」
そういうことになるのだった。
「よくもまぁ採寸もとらずに創れましたね。黛さん驚愕」
「乙女のサイズなぞ見てわかるだろう」
いや……そんな常識みたいに言われても……。
「型紙を製作するだけでも時間がとられそうなのに一か月足らずで三着も……」
「ん? 型紙なぞ作っていないよ。そんなことをしていたら間に合わないじゃないか」
これが本音なんだから始末が悪い。
どこまで器用なんだ……この人は。
「さあ着た着た」
先輩は華黒にオックスフォードグレイのスーツを、ルシールにはディズティニーのアリス風の白色と水色のドレスに大量のリボンをつけたソレを、黛には手作りの純白テニスウェアを、それぞれ手渡した。
とはいっても黛はともかく華黒とルシールは浴衣姿だ。
帯関係で多少時間をとられる。
そもそも着替えを行おうというのだ。
僕は黙って手芸部の部室から出るのだった。
数分後。
ガチャリと扉が開く。
現れたのは、
「はぁい」
手芸部の部員だった。
部室の隅で毛布を体に巻きつけているだけの……昴先輩の餌食になっていた女性。
ちなみに現在はちゃんと女性らしい服を着ている。
「あなたが真白くんね?」
「……そうですけど」
「えい」
と掛け声一つ……女子大生は僕のサングラスを奪った。
そして、
「ふむ……可愛い顔してるね。昴がお熱になるのもわかるわぁ」
不名誉な賞賛を送ってくれる。
「時が経てば劣化しますよ」
「それは女性も同じよ」
……そりゃそうですけど。
「大丈夫。安心して。別にあなたから昴を取ろうなんて考えてないから」
「大丈夫です。安心してください。昴先輩を確保しようなんて思ってませんから」
「あら……そうなの?」
「はい」
「ふーん? あんなに綺麗なのに……。まぁ真白くんが連れてきた女の子たちも皆可愛いものね。感覚がマヒしちゃってもしょうがないか」
うち一人は恋人なんですけどね。
言っても詮方無きことだろう。
「興味本位ですがどうして昴先輩と?」
「ん。熱烈に愛を囁いてくれるからね。こういうのもいいかなぁってテンションに任せちゃって……」
クスリと笑う女子大生だった。
お姉様の感想はわからんわ。
火遊びにしても女性同士なら責任の所在が明らかにならないから面倒がないとも云うんだけど……ね。
昴先輩についてアレコレ議論していると、
「もういいよ」
と中から昴先輩の声がかかった。
「さ、入りましょ? 真白くん」
ですね。