『七夕祭り』5
時刻は午後六時。
場所は共通棟の中庭。
そこにはステージが用意されていた。
本来のイベントはミスコン用であるらしい。
ただミスコンの前座として手芸部主催のファッションショーを執り行うというのが毎年の通例とのことであった。
ちなみにかしまし娘は既に酒奉寺印の衣装に着替え終わっており、舞台裏でのんびりしていた。
一番手……華黒。
ミラノ風のパリッとした実直なスーツ。
関節の部分を除けば皺一つない作りである。
オックスフォードグレイがクラシックとモードの狭間を演出。
僕の贈ったシュシュが後頭部にて髪を収束させポニーテールを作っていた。
出来る女。
そんな印象だ。
大学生でも通用しそうな雰囲気を持っている。
体のラインがスーツにも出ていて、とても淫靡な印象。
まともな男なら一撃だろう。
僕は違うけど。
二番手……ルシール。
不思議の国のアリスの……アリスの衣装にリボンをふんだんに取り入れたファンタジーな服装である。
水色と白色とが氾濫している。
それがまたおどおどしているルシールによく似合っている。
昴先輩の手によって後頭部にも大きなリボンをつけている。
元が金髪碧眼の美少女だ。
見事という他なかった。
ルシール自身はルシーるばかりだ。
知ったこっちゃないけど。
三番手……黛。
真っ白なテニスウェア。
手にはラケット。
見事なテニスプレイヤーだった。
控えめに見て刺激的。
黛自身が美少女だというだけで付加価値が乗るのだけど……スコートが短いのも刺激的な要素ではある。
無論スコートはスコートなので翻ってもどうということもないのだろうけど黛の美貌を前にどれだけの男性が理性を保てるか。
僕は例外だけど。
「兄さん……どうでしょう?」
「………………真白お兄ちゃん……どう?」
「どうですお姉さん?」
そんなかしまし娘の問いに、
「似合ってるよ」
と気休めを口にする。
ちょっと自己嫌悪。
「それにしてもあの酒奉寺昴はやはり酒奉寺昴でしたね」
「おや」
華黒が昴先輩を褒めるのは珍しい。
無理もない。
採寸もせず……型紙も作らず……華黒のボディラインにピッタリと沿うスーツを縫い上げてしまったのだ。
どれほどの離れ業がそれを可能とするのか。
想像することさえ不可能というものだ。
「………………私にピッタリ……すごいね……酒奉寺先輩は」
ドレスを着たルシールも感慨深げに言う。
「ルシール可愛い!」
黛はドレスを着たルシールに抱きついた。
当人はテニスウェアのまま。
「なんだかなぁ。黛さんとしてはこのままルシールをお持ち帰りしたいのですが……駄目でしょうか?」
「各々の衣装は持って帰って構わないよ。創り終わったモノはモノだ。創作とは過程にこそその神髄がある。似合っていて尚且つ着てくれただけで私の出番は終わったも同然だ」
ニヤニヤと笑いながら昴先輩。
その言葉が真実だと表情が語っていた。
乙女を着飾ることに情熱を注ぐ。
それだけでいいのだろう。
乙女を観察して、着せたい衣装を思い浮かべる。
それが昴先輩のテーゼなのだから。
その上で自身のモノにするのがレゾンデートルなんだろうけど、華黒もルシールも黛もそこまで深くは付き合わない。
特に華黒の反発心は強力だろう。
華黒が甘んじて昴先輩の縫った服を着ているのは自身を僕にアピールするために他ならないのだから。
だから僕はポンと華黒の頭に手の平を乗っける。
「似合ってるよ華黒」
そんなお世辞に、
「えへへぇ」
と、はにかむ。
華黒は可愛いなぁ。
「お姉さん!」
「あいあい?」
「ルシールも可愛いですよ!」
ですよねー。
「………………あう……お兄ちゃんも……可愛いと……思ってくれる?」
「うん。まぁね」
おべんちゃら。
いや、可愛いのは事実だけどさ。
「そろそろ出番だよ」
そんな昴先輩の声が響く。
そして華黒とルシールと黛は衆人環視の前にその晴れ姿を晒すのだった。
華黒は堂々と。
ルシールはおどおどと。
黛は飄々と。
それぞれがファッションショーの花道を歩く。
評価は概ね肯定的だった。
可愛いという評価とパシャリというカメラのシャッター音が場を支配する。
ファッションショーは成功だろう。
少なくともかしまし娘に限って言えば。




