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超妹理論  作者: 揚羽常時
二年生編
153/298

『薫子の懸想文』6


「ただいま華黒」


「お帰りなさい兄さん」


「はい。お土産。猫又のぬいぐるみ」


「うわ……うわわ……うわぁぁぁぁ……私にですか?」


 動揺しすぎだろう。


「無論のこと華黒に。とはいっても僕は不器用だから統夜にねだってクレーンゲームで取ってもらったモノなんだけどね」


「過程はいいんです! 兄さんが私のためを思ってプレゼントを贈ってくださることが何よりの幸福です」


 そりゃ幸い。


「お腹すいちゃった。ご飯出来てる?」


「今日は明太子パスタなので兄さんが帰ってきてからパスタを湯がこうかと思いまして下準備しかしておりません。お茶をお出ししますのでしばしお待ちください」


「うんうん」


 頷く僕。


「華黒は良いお嫁さんになれるね」


「年齢的にも問題ありません」


「後は十八歳以上の男性を見繕うだけだね」


「怒りますよ?」


「華黒が? 僕に? 卑下してないのに?」


「む……」


 呻く華黒。


 勝った。


 珍しいことである。


 とまれかくまれ僕は私室で部屋着に着替えるとダイニングで華黒の淹れてくれた茶を飲みながら読書をする。


 その間に華黒はパスタを湯がき明太子とバターを絡ませる。


 構造そのものは単純にして明朗。


 ルシールでもなければまず失敗はしない料理ではある。


 当然完璧超人華黒の超人パワーを以てすれば容易い料理である。


 そして僕と華黒は、


「いただきます」


 と言って夕食を開始するのだった。


 華黒は、僕のいない間は黛と一緒にルシールに包丁の使い方を教えていたらしい。


 微笑ましい光景だ。


 かしまし娘は仲が良くて結構なことである。


「兄さんは?」


 話題は僕の放課後のソレになった。


「統夜さんとゲームセンターに行ったのですよね?」


「それはそうだけど……あ……」


 すっかり忘れていたことを思い出した。


「?」


 クネリと首を傾げる華黒。


「あー……華黒さん……」


「何を余所余所しく……」


「冷静に聞いてほしいんだけど……」


「内容によります」


 ですよねー。


「ラブレター……もらっちゃった……」


「…………」


「てへ」


「……そうですか」


 何かを押し殺したような声で華黒は言葉を吐いた。


「怒らないの?」


「もし兄さんがそのラブレターに応える気があるのなら怒るでしょうし取り乱すでしょうし拉致監禁して目口を閉ざして手枷足枷をして私だけの兄さんに仕立て上げるのは吝かではありませんが……」


 うーん。


 実にカグロニズム。


「兄さんの恋人は私です。二股をかける甲斐性が兄さんにあるとは思えませんし」


 信頼……と呼んでいいのかな?


「ルシールについては?」


「三時のおやつです」


 キッパリと。


「それで? どんなラブレターなんです」


「ん」


 僕は息を吐いて薫子(仮名)の懸想文を華黒に渡す。


 華黒はしげしげと読んで、


「なんだ……」


 と感想と言うには足りない言を紡いだ。


「怒らないの?」


「薫子さんのソレは懸想文と言うには積極性が足りていませんよ。こんなもの……警戒する必要もありません……」


 うーん。


 華黒も少しは大人になったなぁ……。


 お兄ちゃんとして感慨深い。


「ただ……」


「ただ?」


「この手紙を見るに薫子さんは兄さんにベタ惚れしていますね」


「ふむ」


「きっと持て余すほどの膨大な量の慕情を解消するために兄さんをオカズにしている可能性が大きいです」


「…………」


「それだけが不満と言えば不満でしょうか。兄さんをオカズにしていいのは世界で私だけなのですから……」


「…………」


 沈黙する他ない僕だった。


 さっきまでの感動を返せ。


 やっぱり華黒は華黒だった。


 それにね華黒……そういうのは同族嫌悪って言うんだよ?


 もはや反論する気力もなく僕はアグリとパスタを食べる。


「兄さん」


「……なに?」


 もはや華黒の言に疲れ切っている僕は反論する気力もない。


「また薫子さんから懸想文をもらったらキチンと私に報告してください」


「そりゃ構わないけどさ……」


 華黒検閲官仮説。


 幸あれかし薫子さん。


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