『薫子の懸想文』4
さてさて、ゲームセンターで一通り遊んだ後でリンカーンに乗って統夜の家……酒奉寺屋敷へ。
和のテイストをふんだんに盛り込んだ屋敷。
静謐と調和のパレード。
「息をもさせぬ」
といっているかのような完璧さだ。
ただまぁ、
「本音を言えば……」
相も変わらずやのつくご職業の家みたい。
なんというか……圧迫感がある。
良く言えば「凄み」だろうか。
ブルジョアジー。
そして僕と統夜は屋敷に入ると大数の使用人に出迎えられた。
練習でもしたのだろうか、
「お帰りなさいませ統夜様」
と一糸乱れず言葉を重ね合わせて大勢の使用人がこれまた同時に頭を下げる。
プレッシャー。
「統夜」
「なんだ?」
「毎回こんな歓迎受けて疲れない」
「慣れだ」
慣れか。
「止めろっつってもするんだからこっちが折れるしかないだろ?」
そりゃご愁傷様。
「統夜様、真白様、お荷物をお持ちいたします」
一歩僕たちの前に進み出た使用人がそう言った。
「おう」
統夜は遠慮なく預ける。
僕はと言えば、
「遠慮します」
丁寧に断った。
「悪いですし」
とは言わなかった。
それは隙を見せるも同然だったから。
使用人はそれについてはあっさりと引き下がり、それから別の言葉を紡ぐ。
「統夜様、真白様、お飲み物はいかがいたしましょう?」
「至れり尽くせりだね」
苦笑してしまう。
「俺の功績じゃねえけどな」
統夜も苦笑した。
「真白は何か飲みたいものはあるか?」
「何でもいいよ」
「了解」
頷いて、
「じゃあ緑茶を二人分。茶菓子はいらん」
端的に使用人に命令して統夜は僕を自身の部屋へと招いた。
酒奉寺家にお邪魔するのは久しぶりだけど統夜の部屋に入るのは初めてだ。
「……ふむ」
何か意図あってのことだろうか?
十分単位で歩かねば制覇できない巨大な屋敷ではあったけど統夜の部屋へは一分ほどで着いた。
「玄関から近いね」
と言う僕に、
「こんなことに時間を取られたくないからな」
統夜はさくりと答える。
頷ける話ではあった。
それから統夜の部屋を初めて見てちょっと驚く僕。
和室のようなモノを想像していたのだけど、全く違ったのだ。
扉を開ければ別世界。
具体的に言えばアレだ……一人暮らしの大学生が借りるアパートの一室。
床は畳ではなく板張りでカーペットが敷いてあり……壁はのっぺらな白……明かりも西洋のソレ。
和のテイストを取り込んだ屋敷からは想像もできない異空間だった。
デスクにはパソコンが。
洋風の巨大な本棚には漫画がびっしりと。
そしてベッドがあり、ティーテーブルがあり、テーブルに接するように座布団が敷かれている。
「統夜、パソコンなんてするんだ」
ちなみに僕はパソコンに明るくない。
華黒の部屋にはノートパソコンがあるけど、僕には関わりのないことだ。
たまに刺激的というかうんざりするような代物を華黒がネット通販で買うことを除けば無害な一コンテンツだ。
辞書代わりに借りることもないではないけど。
「ネットゲームを少し……な」
また統夜は苦笑する。
「ネットゲーム?」
「ああ」
肯定して、
「もしかしてネットゲームを知らないのか?」
それくらいは知っている。
「ネットで他のプレイヤーと一緒にプレイするゲームでしょ?」
テーブルの座布団に座りながら僕。
鞄は床に置く。
「もしかして華黒ちゃんもネトゲするのか?」
「知らないよ」
ハンズアップ。
降参だ。
「まぁ有り得んか」
「…………」
何ゆえ言い切れる?
僕がそう問うと、
「真白に対して偏執的に執着する人間が他の人間の輪に加わろうとするのが有り得ないってだけだ」
「…………」
「違うか?」
「ごもっとも」
他に言い様もない。
「…………」
「…………」
しばし沈黙の妖精が場を支配する。




