『偽恋真恋』3
引きつった笑みを浮かべた華黒と……爽やかかつ遠慮のない笑みを浮かべた黛と……二人に見送られて僕とルシールは外出した。
華黒と黛は二人して夕食の準備をするらしい。
ちなみに今日の夕食はうどん。
麺を作るところから始めるようだ。
まぁ香り高い引っ越し蕎麦を打った黛が一緒だからゲテモノは出てこないだろうけど。
華黒としても何もしない時間なぞ作れば僕のことで気が気じゃなくなるだろうから、やれることがあるというのは幸福だろう。
少なくとも精神的には。
梅雨も近づいているけど今日は晴れ。
絶好のデート日和だ。
ルシールにちょっかいをかける……ええと、川崎くんと合流する場所は近場のショッピングモール百貨繚乱だった。
黛曰く合流は一時半。
場所はアミューズメントコーナーの入り口。
時間ピッタリに僕とルシールは顔を出した。
「百墨さん……!」
待っていたのは一人の男の子。
茶色に染めた髪。
耳にピアス。
服はパンクかぶれだ。
件の川崎くんなのだろう。
ちょっと大人を目指して背伸びしている雰囲気を持った男の子だった。
それからルシールと手を繋いでいる僕を見て、僕とルシールを交互に見て、顔をしかめる川崎くん。
切れる瞳が不機嫌に歪む。
さもあろう。
僕とルシールとがペアルックなのだから。
仮にも惚れている相手が他の人間と恋仲に見えるなら不機嫌になるのも無理なからぬ。
僕とて華黒が他の人間に靡いたらショックを受けること請け合いだ。
まぁ有り得ないけどね。
信頼というか感傷というか。
ともあれ、
「あなたが百墨さんの恋人ですか……」
怒りを押し殺したような声で川崎くんが問うてくる。
「ども」
僕はルシールと繋いでいる手とは反対のソレで手の平を見せる。
「待たせたみたいだね」
「先ほど来たところです」
うーん。
ベタだ。
「百墨真白……で合ってますか?」
「そうだね」
気負いなく僕。
「では百墨先輩」
「なぁに?」
「百墨さんと別れてください」
「嫌」
キッパリとした断言に川崎くんは沈黙した。
イヤリングが光る。
ギロリと川崎くんが僕を睨みつけた。
それは口にこそしないものの、殺すぞという意がとれた。
「で?」
僕の反撃。
「結局のところどうすればいいのさ? 僕とルシールのラブラブっぷりを君に見せつければいいのかな?」
「あんたなんかに百墨さんはふさわしくない……! 勝負しろ百墨先輩……!」
「何を以て?」
「俺の方が百墨さんに相応しいと証明できることで……だ」
僕は人差し指で頬を掻く。
「まぁいいけどさ」
そんなこんなで僕とルシールと川崎くんは百貨繚乱を歩き回るのだった。
川崎くんはルシールにクレープを奢ったり、アイスを奢ったり、たこ焼きを奢ったりと贅を尽くす。
僕はそれを横目で見ているのみだ。
いや、だって……ねぇ?
僕に何をしろと……と言う他ないのだ。
それから百貨繚乱のアミューズメントコーナーで遊びたおした。
ルシールのプレイ料金は川崎くんが全額負担。
ボーリング、カラオケ、ビリヤード、ゲームセンター……あらかたのコーナーは回ったんじゃないかと思ふ……。
そしてその全てにおいて川崎くんの結果は僕の結果を上回った。
器用だなぁ。
そう思わざるを得ない。
すくなくとも川崎くんが自分自慢を出来るほどに自負に満ちていることは理解できた。
そうして夕方がやってくる。
あらかた遊びまわった後に川崎くんが宣言した。
「どうです百墨さん? 百墨先輩より俺の方があらゆる面で上回っていますよ?」
「………………うん」
相も変わらずおずおずとルシール。
「こんな十把一絡げより俺を選びますよね?」
「………………ううん。……駄目」
やはりおずおずとルシール。
「何故だ!」
「………………真白お兄ちゃんの方が……格好いいから」
照れるね。
僕は鼻頭をかいた。
「今日のコイツは結局百墨さんのために何もしてないじゃないか! 俺と付き合った方が絶対得だって!」
「………………それは私が決めること」
心なしか強く言ってギュッと僕の腕に抱きつくと、ルシールは僕の腕を引っ張って体勢を崩させ、それから僕の頬にキスをした。
それから頬を紅潮させるルシール。
照れるくらいならするな……と言いたかったけど、そういえば今日の僕はルシールの恋人だったっけ。
「………………それにお兄ちゃんは何もしてないわけじゃないよ? ……私の傍にいてくれる。……私の隣に立ってくれる。……それだけで私は幸せ」
「そんな……!」
南無八幡大菩薩。
哀れ川崎くん。




