【大】
「アコ5250、お前に婚約破棄を宣言する」
【王都大遊宴】において、彼――レオン2274は、毅然と婚約破棄を告げた。
「理由は単純明快、お前の【社交階位】は近頃のところ、永遠を思うほどに停滞している。――何か申し開きはあるか?」
「可哀想に」「婚約者に置いていかれたのね」「才能がなかったのでしょう」――ヒソヒソと、嘲笑交じりに交わされる声の中、アコ5250はまったく感情を昂らせない声で答えた。
「申し開くことは何もございません故、異存もございません。婚約破棄の件、承知いたしましたわ」
アコ5250の答えに、レオン2274はフンと鼻息を吐き出した。
「せいぜい、社交界の底で、落ちぶれていることだ。【社交階位】は14位まで昇った私は、この先も上へと歩み続ける」
そうして、レオン2274は余裕の背を見せて、アコ5250の前から去っていった。
――――しかし運命の女神というものがいるのなら、彼女はどうやら、愉悦というものを何より愛しているようだった。
再び【王都大遊宴】への参加を表明したアコ5250の、初戦の相手こそが、【社交階位】は14位、元婚約者のレオン2274であったのだから。
◇
「クソ、最近、調子を崩している……。近状の二連敗は不運というしかなかった」
レオン2274は苛々と爪を噛みながら、屋敷の廊下を歩んでいた。
不機嫌を隠そうとしない2274に、後ろにつく執事が遠慮がちな声を向ける。
「旦那様、遊宴宣使の遣い様がもうすでに到着しておられます」
「分かっている! 二度も三度も、確認せずともよい、無能めッ!」
悪態をついて、2274は大広間の扉を、使用人の仕事も待たずに自ら開け放った。
――そこには、【王都大遊宴】の紋章が刻まれた頭巾で顔を隠した、遊宴宣使の三名が、起立したまま2274を待っていた。
ゲームの内容や日程、次なる対戦相手を告げる使者である。
2274の到着を認めると、先頭に立つ一人が恭しく礼して、懐から一枚の封筒――【王都大遊宴】の印が刻まれた封書を取り出して、それを2274へ差し向けた。
「レオン2274様、ご機嫌麗しゅう……。【王都大遊宴】からの封書を持参して参りました、どうぞ、中身をお確かめくださいませ」
2274はフンと鼻息を漏らして、規則に則り、遊宴宣使の前でそれを改めた。
2274の表情が凍る。
「次なる対戦相手――――【アコ5250】!? なんだと!? ――おい、この内容には不備があるのではないか……?」
思わず、屋敷の使用人たちが一斉に青ざめる発言を吐いたが、遊宴宣使は柔和に微笑んでそれに応えた。
「いいえ、【王都大遊宴】の通知には、いかなる不備もございません。次なる対戦相手は間違いなく、封書されている、そのお方です」
2274はしばしただ佇み、僅か震え始め、そして――――やがて、高らかな笑声を、屋敷の天井へ飛ばすようにして上げ始めた。
「――――アコ5250だと!? ――面白い、やっとツキが回ってきたかっ! 次の【王都大遊宴】は、一勝が約束されたようなものだ。おい、祝杯の用意を今からしておけ! ハハハハ、やっとツキが回ってきたなァ!」
2274は、そうしているうちいつの間にか目の前から姿を消していた遊宴宣使にも構わず、タガの外れたような上機嫌で笑い続けていた。




