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第37話 嫉心の炎

「兄さん、いったい何があったんだ?」


俺は心からそう問いかけた。


「昔の兄さんは、こんなんじゃなかったはずだろ?」


「黙れ!!」


ヨンはギリギリと歯を鳴らしながら怒鳴った。


よろよろと立ち上がるその姿は異様だった。


腕はだらりと垂れ、顔は伏せられ、乱れた前髪の隙間からギラついた目だけが覗いている。


「俺のことを知ったふうに話すな!! お前なんか、俺の何も知らねぇ!!」


「じゃあ教えてくれよ。俺は聞くつもりがある」


そう言うと、ヨンは吐き捨てるように笑った。


「教えてどうする? どうせ俺を笑うんだろ!?」


言い終わるより早く、ヨンは突進してきた。


拳が顔と胸を狙って飛んでくる。


俺は身体をひねり、軌道を逸らし、後方へ下がる。


「どうして話してくれないんだ?」


避けながら問い続ける。


「悩んでるなら、俺が――」


「お前が原因なんだよ!!」


怒号とともに、ヨンは拳を振り回す。


「お前が憎い!! 全部憎い!!


俺はずっと一緒にいたのに!

ずっとあいつと遊んでたのに!


美瑩は最初から最後まで、お前しか見てなかった!!」


その叫びは、喉が裂けそうなほどの嫉妬に満ちていた。


「……つまり、メイインが俺を好きだから、俺を憎んでるのか?」


「黙れぇぇぇ!!」


ヨンは叫ぶ。


「あいつは俺のものにする!! お前を叩き潰して、俺のほうが上だって証明してやる!!」


……本気かよ。


だが、理由が分かった以上、俺にも譲れないものがあった。


――メイインは、俺のものだ。


彼女は俺を選んだ。


誰にも渡さない。


俺は深く息を吸った。


……終わらせる。


ヨンが再び踏み込んできた。


狙いは鳩尾。


俺は横に滑り、拳を空振らせる。


そのまま腕を掴み、身体をひねる。


勢いを利用して――投げる。


ヨンの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。


だが、受け身は取った。


すぐに立ち上がろうとする。


――その瞬間。


俺の蹴りが顎を捉えた。


乾いた音が響く。


ヨンの身体がのけぞり、そのまま崩れ落ちた。


白目を剥き、完全に意識を失っている。


……終わった。


そう思った。


俺は息を吐き、立ち尽くした。


胸が激しく脈打つ。


恐怖と興奮と、そして――


悲しみ。


どうしてこんなことになったんだ。


そのとき――


「……まだだ」


低い声。


ヨンが、立ち上がった。


ふらつきながら、それでも立っている。


血を滲ませ、足を震わせながら。


それでも、目は死んでいなかった。


「まだ……終わってねぇ」


ジンスーが眉をひそめる。


だが、やがて後ろに下がった。


「……試合続行だ」


……正気か?


俺は歯を食いしばった。


「どうして……諦めないんだ?」


問いかける。


「認めてやるよ。お前のほうが上だって。それでいいだろ」


だが、ヨンは首を振る。


「違う……」


その目が、狂気を帯びる。


「俺を見させるんだ……あいつに……」


嫌な予感がした。


ヨンが、懐に手を入れる。


「――おい、それ……!」


ジンスーが叫ぶ。


「飲むな!!」


だが――遅かった。


ヨンは丸薬を口に放り込み、飲み込んだ。


瞬間。


全身の血管が浮き上がる。


肌が赤く染まり、目が血の色に変わる。


「この試合は終了だ!! 勝者――」


ジンスーが叫ぶ。


だが、ヨンは止まらない。


地面を蹴った。


――速い。


今までとは別次元の速度。


避けられない。


そう悟った瞬間、身体が勝手に動いた。


腕を交差してガード。


だが――


「がっ……!!」


衝撃。


骨が砕ける感覚。


そのまま蹴りが胸に突き刺さり――


俺の身体が吹き飛んだ。


地面に叩きつけられる。


息ができない。


肺が動かない。


「……っ、は……っ……」


視界が揺れる。


黒く染まっていく。


誰かが叫んでいる。


誰かが駆け寄ってくる。


……見えない。


……聞こえない。


ただ――


ひとりだけ。


その姿だけは、はっきりと見えた。


メイイン……


暗闇が、すべてを飲み込んだ。

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