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待ち合わせ場所に行くと既に深山が立っていた。だが、彼だけではなかった。
「神田君?」
「おはよう。小野寺さん」
艶やかな黒髪の癖がなく短い。淡い灰色の瞳に色白の肌。
端正な顔立ちをして、こちらににこやかに笑いかけてくる。
彼は私と同級生で大学の中で有名人だ。
名前は神田凪。
しかし、彼はゼミ生ではない。なのに何故、ここに彼がいるのだろう。
そんな涙の考えていることが分かったように神田はくすっと笑う。
「深山教授に頼まれたんだ。人手が足りないようだから」
「ああ、成程」
納得してしまった。
その後に続々とゼミ生たちが集まってきて神田を見て、女子たちがきゃきゃと黄色の声を上げていた。
借りた小型バスに全員が乗って『姫塚村』に辿り着く。
山や森に囲われた小さな村。
しかし、その周りに立つ五つの塚に中央には祠があって、異様に見えてしまう。
『巫女塚伝説』の通りだ。
「……………」
「小野寺さん?どうかした?」
隣の席に座っていた神田が声を掛けてくる。
何故かいつの間にか座っていたのだ。
おかげで女子たちからの嫉妬深い視線が直撃していて背中が痛い。
「あ、いや、その。伝説通りに塚とか祠があって、えっと」
「……………もしかして、怖い?」
ぎくっと肩を鳴らしてしまった。
そう、民俗学に興味があって研究しようとしていたのだが、この伝説の事を知れば知るほど恐ろしいと近付いてはいけないとそう感じてしまった。
何故、そう感じ取ってしまったのかは自分でも分からない。
どう言葉に言い表せればいいか分からずに無言になった涙を見ていた神田だったが、後ろの席に座っていたゼミ生の女子が声を掛けてきた。
「ねえ、神田君!今夜さ、部屋で飲み会するんだけど一緒にどう?」
「楽しいよ!」
神田が目当てで声を掛けてくる子たちは涙には声を掛けてくることは無い。
そんな彼女が気になりつつも神田はごめんねと断った。
「実は教授と話をする予定があって」
「ええ?じゃあ、教授にも声かけるから来てよ!」
と話を続ける彼らをチラッと見た後に涙は持ってきた文庫本を読み始めた。
村に着いた一同は周囲を見回した。
辺りに広がるのは田んぼと花畑、散らばるように家が建っているが娯楽を過ごせる建物は何もない。
「マジで田舎だー」
「コンビニ無いってマジでないわー」
ひそひそと話をするゼミ生たちとは違い、涙はぼんやりと見つめていた。
そんな一同に近付いてくる老人と男性。
「ようこそ、姫塚村へ。村長の野田寿太郎と申します」
にこにこと人がよさそうな笑みを浮かべて歓迎をしてくれる。
深山が挨拶をする。
「深山千歳です。今回は研究に協力くださり、ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもありません。おおと、忘れるところでした。隣にいるのは親戚の本戸琉太です。何分、私は足腰が弱くなっていて、村長として代理をしている者です。もし、何かありましたら彼にお尋ねください」
「よろしくお願いします」
ダークブラウンの髪は襟足の方が少し長く、赤褐色の瞳で端正な顔をしている。
長身で深山と神田と同等に顔が整っている。
その為、涙以外のゼミの女子生徒たちが顔を赤らめて彼を凝視している。
「ここが皆さんのお宿となる『幸の湯』です。伝説に関する書物が保管されているのはここから真っ直ぐ行って右に曲がったところに図書館にあります」
電気は通っておりますので機材等は使えますよと説明してくれた本戸に礼を言う深山。
とりあえず、自分の荷物を降ろして部屋割りを確認する。
あれ、一人部屋だ。
他の子たちは二人部屋だったり三人部屋になっている。
まあ、正直一人部屋の方がありがたい。
がやがやとまだ騒いでいる中で深山が声を掛ける。
「では、皆さん。荷物を置いたら入り口に集まってください。機材等を運びますから」
はーいと返事をした一同が宿の中に入っていく。
宿には妙齢の女性が一人いて、いらっしゃいませと頭を下げてくる。
ここの女将のようだ。
部屋の鍵を次々に渡していく。
「小野寺涙様は『燕子花』の部屋でございますね」
鍵はいたって普通の鍵だが青紫色の飾り紐が一緒になっていた。
「小野寺さんの部屋は特別なようだね」
「えっ?」
ふと神田に声を掛けられる。
彼が自分の部屋の鍵を見せると飾り紐もなくただ部屋の番号か書き込まれた小さな木の板が一緒に着けられていた。




