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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第八章・嘆きの叫びと歓喜の響き
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8-9・賛歌


 外の海が異様に綺麗な理由が分かる。

 外の死体は全てここに呼ばれ吸収されているのだ。赤い世界では天使たるスキアーすらも死体の一つとして動作を止めて同化すらしていない。

 死体は集められている。


 ニアは包帯を巻いた人型のスキアーの死体のところまでなんとか泳いでいき、その手を掴むと包帯を(ほど)き始める。

 思った通り、彼の中身は灰色の岩人形のようだった。

 だがすぐに体は膨張し、ただの(かたまり)になる。

 ニアは、神殿でしていたように両手を合わせタラッサに祈った。


(バシレイオス様、タラッサテオス様、どうか力を貸してください)


 ニアは祈り、上を見上げる。

 魂の片割れが自分に向かって泳いでくるのが見えた。


(ゼノ)


 兄は間近まで泳ぎ、手にしていた聖銛(せいせん)――白い二又銛(ふたまたもり)――を差し出した。ニアは頷く。

 それはスキアーが二人を気絶させた時のものだった。


 ニアは神殿でしていたように、神に対する礼を取り(こうべ)を垂れた。

 嘆きの地を生成可能としたのは二人の歌ではなく、手にしている銛と引き継いだ神の血だとニアは確信している。

 天使の姿は一つではないし、人型とすら決まってはいない。ニアとゼノの血には、神が少しだけ宿っている。この銛が、眠れる神の血そのものを呼び起こした結果だった。


 そうでなければ、ニアたちにあれほどの死体を作る力はない。

 有る意味でキリルの言う通りなのだろうと思う。

 まさしく力は、使う者の意志による。


 ニアは増幅装置でもある銛を見つめる。

 ゼノがもう片方の手を差し出してくる。ニアは兄を見て、その手を取った。もう片方の手を銛にかける。

 甘美なまでの全能感がニアに去来(きょらい)する。

 ゼノは手にしていた銛先を二人の下にある灰色の塊になってしまったスキアーに突き立てた。


 二人は見つめ合い、共に灰色の(スキアー)――アンゲロスを見て歌い始めた。

 歌はタラッサテオスを(たた)えるものだ。


「 お前は知っているか

  遥か(いにしえ)よりの海の長を 

  それは大いなる海を支配せしもの 

  見たこともないほどの広大さで我らを守りたもう

  あぁタラッサテオス

  なんと優しき主

  褒め(たた)えよ

  海の長を 」


 ニアの高音とゼノの低音が辺りに響き渡る。

 海の中と言えど、関係なかった。

 二人が歌を吐き出したと同時に白い光が二人を包み、赤い水は消えた。


(そう、ここは海じゃない……ここは、奈落に通じる扉。海を取り戻さないといけない。……スキアー、あなたが灰色の神(パイオン)に仕えているのは分かってるけど、でも……あなたの力も、貸してね……)


 ニアは天使に向かって祈りにも似た思いを向ける。

 視線の先には灰色の塊。


「 時に(たけ)き荒ぶる御心(みこころ)

  全てを飲み込み海の底へと沈める

  加護なき者は生き絶え

  死の(とこ)となる」


 灰色の神は、眠りに付くべきだ。


(ここは、灰色の神の世界じゃなくなったから……じゃあどこが居場所かって言われたら、あたしにはわからない。でも、他の神の世界を侵略して良いことにはならないよ)


「 あぁタラッサテオス

  なんと恐ろしき主

  褒め称えよ

  海の長を 」


(いつか、……いつか、あなたの居場所を見つけるから……。今は、眠って……)


 ニアは歌う。

 ゼノも歌う。


「 だが我らは神のしもべ

  海の子よ

  海の長はいつしも深い愛で我らを包み

  我らを導かん 」


 二人を包む光は天使に守られた領域だ。

 そして歌ううちに光は赤い空間にヒビのように走り駆け抜ける。ヒビの入った場所からは海水が落ちてくる。

 ニアとゼノの歌が周辺海域へと広がる。

 外から海の者たちの声も聞こえてくる。


「 あぁタラッサテオス

  なんとすばらしいのだろう

  褒め称えよ

  海の長を 」


(みんな歌ってる……。鯨もイルカも歌って……あなたたちも、海の子だから……)


 外と中で共振作用が起きる。赤い世界がビリビリと震え始めた。

 ニアの耳にタラッサのうねりが届く。海水は赤い世界へと次々に進入し、下から青を埋めていく。


「 我らが主

  我らが魂を守りし主

  我らはタラッサテオスの子  」


 タラッサは灰色の神のアンゲロスにとっては敵であり、忌避(きひ)すべき物である。光に守られた空間に進入するタラッサ。

 スキアーは溶け、ニアたちにも海水が届く。

 水は、足先を、膝を、腰を覆っていく。

 胸を過ぎ、肩に到達し、首へと――そして口に侵入してくる。

 それでもニアもゼノも声を出し続ける。


「 なんと優しく恐ろしき主

  海の波のように

  海に(そび)える山のように

  ひとの身には捉えられぬ御心 」


 二人とも自分が何をしているのか充分に分かっていた。だが歌は次から次へと手にした増幅装置によって引き出されていく。今やニアたちの意志では止めることができなくなっていた。


「 海に住まう生きとし生けるものを

  愛し見守り諫めたもう……

  大いな……っ 」


 海水は容赦なく喉に侵入していく。


(くるし……っ、き、キリ……っ)


「ガ……ハッ……」


 もう歌うこともできない。


(あと、ちょっ……なのに、……何も見え……)


 体が浮遊する感覚。

 誰かの腕を感じた。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 21:50 予定】

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