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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第四章・捕縛に尋問、そして真実
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4-1・尋問の時間


 キリルも含め、誰もが今見たものを信じられず、ただただ海を眺める。

 脅威は去ったと言えど、まだ謎は多く残されている。まして目の前には波を自在に操っているとしか見えない青年が、ニアを抱くキリルとともに波の塔の上に立っているのだ。

 ニアが呻く。

 開いた目に映るのはキリルごしに見える自分によく似た男だった。目を開けたのを見計らったように相手は冷たげな目でニアを見遣る。


「……おにい、ちゃん……」


 その瞬間、波は陥没(かんぼつ)しキリルとニアは海に落とされた。さすがに気管に海水が侵入し、ニアは()き込む。隣ではキリルが同じように咳き込んでいた。

 兄はキタラを弾く手を止めていない。ニアは今更ながらに、海がよく知るものであることに気付き、目を(しばた)かせた。


「青い……」


 思わず口にする。波が瞬く間にニアとキリルを抱くと、船の甲板に向かって叩き付ける。

 水の膜が二人の体を守り、甲板に乗ることに成功したニアは、波の塔に立つ兄を見た。


「貸し、一つだよ」


 兄は音楽的と言っても良いほどに美しい声で言い、ニコリとして波とともに海に沈んでいく。途中、彼はキリルをチラリと見た。その眼光は冷たく鋭い。

 音楽は鳴り止み、元の赤い海がそこには残された。

 海を見つめるニアは次の瞬間、縄を掛けられ捕縛されていた。


「……いったい何?」


 ニアは愕然(がくぜん)として呟く。キリルはため息をついた。彼の顔にはありありと『だから言っただろう』と書いてある。ニアは悔しさに彼の顔から目を逸らした。


 ネロは縛った二人を連れて、ミルティアデスの船室へと連れていった。そこにはデニスがいたが、肝心のミルティアデスはいない。

 船の主たる彼は、大騒ぎとなった船内を収め、被害状況の確認に回っているという。デニスの話で、次第に状況が分かってきた。

 ネロはあの騒ぎの中、キリルの船に移動しデニスを人質に取り、操舵を奪ったらしい。そして、現在キリルの船は完全にミルティアデスの支配下にあり、ニア、キリル、デニスの三人は縛られて、彼を待つことを強要されていた。


「だから、言ったろう! 目立つ行動は慎めとっ」


 キリルの怒鳴りはすでにこの部屋に入ってから四度目になる。ニアは言い返した。


「だって! あのままじゃ、みんな死んでたかもしれないじゃないっ」

「だからと言ってあの音痴(おんち)な歌は何だっ」

「お、音痴っ! 人が気にしてる事を! ひどいっ、あたしはただ、自分にできることって精一杯やっただけなのにっ」

「それが余計だったと言うんだ! お前は気付かなかったのかっ? お前の音痴な音で気を失った者も多数いたんだぞ? 危うく操舵(そうだ)不能になるところだった!」

「そっ……、そんなのは……その! 見てなかったけどっ、だからって、あのままじゃもっと酷いことになってたかもなんだよっ?」

「ほう?」


 急に割り込んできた声に、ニアはピタリと口を閉ざす。声はドアから聞こえ、振り返るとそこにはミルティアデスが立っていた。


「どんなだ? 身重(みおも)の奥方殿」


 彼は悪戯(いたずら)が成功した子供のように楽しそうに笑っている。冷や汗が噴き出る。


「さぁて、窮屈(きゅうくつ)な思いをさせてすまないな。まさかそのお嬢さんに、あんな危険な能力が備わっているとは思わなくてな? 用心には用心をと縛らせて貰った」

「危険って……あれはそんな危険なものじゃ」

「人間にとっては充分に危険な武器だ」


 笑いを収めてミルティアデスは言う。ニアは唇を()んだ。

 本来は水中の会話に使うものなのだ。ニアとて、そういった使い方はしたくなかった。


「さぁ、説明してくれ。俺はお前が人であろうが、なかろうが、どちらでも構わん。だが、嘘は許さん。よって、一言でも嘘を言ったと俺が判断したら、そこの男を殺す」

「なっ……!」


 ミルティアデスの言葉にニアは声を上げる。ネロがデニスの首に素早くナイフを突き付けていた。



読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 21:30 予定】

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