2-3・身売りと接吻
またも沈黙が降りる中、今度はキリルが口を開く。
「我らにもこの娘にも叛意はありません。これは事故です」
ミルティアデスはまだ黙っていた。彼はやがて、笑いを含んだ声をあげる。
「なんと面白い。勇猛を馳せる大テルマの軍船すら、鯨の庭では形無しというわけだ。我らは鯨の進行を妨げただけで、危うく海の藻屑となる所だったわけか。これは愉快!」
事実、彼は笑っている。
(でも……愉快愉快って言う割に全っ然、愉快そうじゃないんですけどーっ。むしろ怒ってるっ、めちゃくちゃ怒ってるっ)
「どーしよ、キリル。怒ってるよ」
小声でキリルに話しかけると、彼も声を潜めて返してきた。
「当然だろう。それよりもいつから気安く俺の名を呼ぶ仲になった。様をつけろ、嘘つき巫女」
「あたしはあなたの部下じゃないもん」
ツンと澄ますニアにミルティアデスの声が響く。
「詫びに、その娘を貰おう」
「へ?」
「は?」
ニアとキリルは間の抜けた顔で遙か上にいる男を見る。当然顔色は逆光になって見えない。
「……な、何? え? どーいう意味? ってか詫び云々言われちゃってるよっ?」
「うるさい黙れ」
「黙ってられるわけないでしょっ! 現在身売りの危機なのよっ」
悲鳴じみた声をあげるニアを押しのけ、またキリルが前に出る。
「ミルティアデス殿っ、その義は許して頂きたい! この者は私の妻でございます」
「は、はぁ……っっ?」
抗議の声をあげかけたニアは最後まで言うことができなかった。
キリルに腕を引っ張られたかと思ったら、やたら顔が近づき、そのまま唇を塞がれ、悲鳴は彼の口内に飲み込まれた。
熱い唇の意味する所にやっと思い至ったニアは相手を突き放そうともがくが、キリルはニアの両手を掴んでいて、上手くいかない。更にキリルはニアの腰に手を回し、がっちりと動きを封じ、口付けを続けた。
その間、五秒。
ニアには一、二時間が経過したように思う。
やっと唇が離れた時、ニアは開放感と怒りで混乱し、ショック状態に陥っていた。
ぐったりとしたニアをキリルは優しく抱きしめ、自分の肩にニアの顎を乗せる。
「いらんことを言うな。身売りを阻止してやるから黙ってろ」
「……っっ!」
とてもキスの後とは思えない言葉を吐いたキリルは、ニアを支えたまま悲劇の王子様を気取る。
「ミルティアデス殿は公明正大な支配者であると聞いています。妻の事はお許しください。身重の身です」
しばらくニアたちを見下ろしていたミルティアデスは、ふいに笑い出した。
「ハーハハハッ、俺は人の妻を浚うような愚行は犯さんっ、安心しろ。だから貴様ら二人、俺の元に来い!」
キリルは固まる。ニアはすでにショックで固まっているから問題はなかった。
「……よく意味が……分からないのですが?」
キリルが真意を問いただすと、ミルティアデスは支配者らしく言い切った。
「なぁに、簡単な話だ。鯨を意のままに操る不思議な女に興味がある。だが、それが人のものなら横取りはせん。その持ち主ごと貰っていくまでだ」
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【次話公開 → 本日 23:45 予定】
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