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74、お菓子の箱

今日は孤児院に行く日。

身支度を整えたところで、アンナが部屋にやってきた。


「カレン様、イリアス様がお越しになっています」


「イリアスが? 今日はそんな予定あったかしら?」


「ええ、そうですよね。月に一度会う日はまだ先ですし。今日はカレン様は孤児院に行く日でご予定がありますとお伝えしたんですが、それも既にご存知のようで――」


「じゃあなんで来たのかしら」


「さあ。カレン様が出てくるまで、馬車の前でお待ちになると仰っていました」


「わかったわ。ちょうど今出るところだったから、良かったわ」


テーブルにのったバスケットを手に取ると、アンナを振り返った。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃいませ」


アンナが綺麗なお辞儀を返してくれる。

部屋を出て階段を降りるときに、天井に近い窓から青空が見えた。

すごいいい天気。夏も近いわね。

イリアスとは良好な関係を築けているし、色々あるとはいえ、私の未来もこの青空と一緒で、きっと明るいに違いないわ! 

人間、ポジティブが大事よ、うんうん。


「イリアスっ!」


気分よく軽い足取りで屋敷を出て、馬車の前にいるイリアスに私は駆け寄る。


「どうしたんですか、今日? 約束してましたっけ」


「いや。今日、孤児院に行く日だろ? なら、俺も一緒に行こうと思って」


「いいんですか?」


私は目を丸くする。私みたいな暇人ならともかく、天下のペルトサーク家の跡取りがわざわざ休日を使って付き合ってくれるなんて。


「……もちろん邪魔なら、遠慮するが」


私は慌てて首を振る。


「邪魔だなんて、そんな! ――嬉しいです! ぜひ、一緒に行きましょう!」


私が笑顔で返すと、イリアスも顔を綻ばせた。


「ああ」


うわ。爽やかな青空と相まって、すごく絵になるわ。


「じゃ、じゃあ、馬車を用意してますから、こっちに――」


「いや――」


馬車のある方へ先導しようとしたところで、引き止められた。


「今日は、俺の馬車で行かないか」


イリアスがちょっと顔を赤くして、視線をずらして言う。どうしたのかしら。イリアスらしくないわね。


「別にかまいませんけど……」


「そうか。なら乗ってくれ」


イリアスが目の前の馬車の扉を開けて、エスコートしてくれる。続いてイリアスも乗り込み席に着くと――


「どうしたんですか、この荷物」


目を丸くした。馬車の床はもちろん、イリアスが座った座椅子の両脇にも天井近く箱がうず高く積まれている。箱はみな綺麗なリボンがかけられていたり、包装紙で丁寧に包まれている。一目で、商品として扱われていたものだとわかる。ちなみに私側には何一つ置かれていない。


「孤児院にもっていくやつだ」


「孤児院……」


その時、箱から漂う甘い微香が私の鼻をくすぐった。


「……もしかして、これお菓子ですか」


「よくわかったな。街で買ってきたんだ」


「こんなにたくさんですか!?」


いくらペルトサーク家に腐るほど財があるからといって、これは買い過ぎじゃないだろうか。

王都から菓子を全部買い占める気?


「こんなにたくさん、いくら子供たちでも食べきれませんよ」


私が呆れながら、嘆息すると、何故か私の言葉にイリアスがぴくりと反応した。


「そう思うか?」


「ええ」


「なら、そのお前のお菓子――」


イリアスが私の膝に置かれたバスケットにちらりと視線をやる。中には孤児院の子供たちのために作ったクッキーが入ってる。


「ええ。今日は仕方ないから持って帰ります」


私のお菓子より、職人がちゃんと作ったお菓子のほうが凝ってるし、子供たちも喜ぶだろう。それに私のお菓子は毎回食べてるもんね。

それにしても、このお菓子の包装紙、何種類もあるようだけど、一体何軒洋菓子店を回ってきたのかしら。積み上げられた箱を検分していると――


「俺がもらってもいいか」


「え?」


ぽつりとこぼされた言葉に驚いて顔をあげると、何故か顔を赤くさせたイリアスが見てくる。


「無駄になったなら、俺が責任もって貰ってやると言ってるんだ」


「いいですよ、そんな。私の作ったやつなんて、イリアスの口に合うかどうか。私が帰ってから自分で食べます」


「それだと、俺がわざわざ菓子を買ってきた意味がないだろ――あっ」


「え?」


同時に声をあげて、顔を見合わせると、イリアスが顔を赤くさせて睨んでくる。私はぽかんと見やる。いや、これは怒ってるんじゃなくて、照れてる?

イリアスが咳払いをした。


「ほら」


私のほうに手を伸ばす。


「寄こせ」


眼の前に広げた手と再度の催促に私はおずおずとバスケットを差し出す。


「……ど、どうぞ」


「ん」


返事はそっけないのに、受け取る時の顔は何故か嬉しそうで――。

自らの膝へとゆっくりとバスケットを置く。まるで壊れ物を扱うみたいに。

それから孤児院に着くまでの間、抱えたバスケットに頬杖をつきながら窓の外を満足気に微笑んで見るイリアスの横顔から、何故か目が離せない私なのだった。

 





そうして、孤児院に着くと――


「こんにちは!」


「こんにちは、カレン様。ようこそおいでくださいました。それに今日はイリアス様まで」


入口で院長が出迎えてくれた。

先日の孤児院訪問の際にイリアスの顔も覚えたようだ。


「姉ちゃん!」


「お姉ちゃん!」


早速子供たちが駆け寄ってくる。


「こんにちは。ふふ、今日はみんなに宝の山を持ってきたわよ」


「宝の山?」


首をかしげる子供たちに、私は馬車の中に手をつっこむとガサゴソと取出す。


「じゃーん!! お菓子よ!」


綺麗な包装紙に包まれた箱が何箱も積まれて、私の腕のなかにあるのを見て、子供たちが歓声をあげた。


「わあ、すごい!」


「綺麗!!」


「まだあるわよ」


次から次へと出てくるお菓子の箱に子供たちが群がってくる。ペルトサーク家のイリアスが買ったからには、到底庶民が手が出せるような金額ではないはずだ。見たこともない高級菓子の山に、これまでにないほど子供たちの顔が高揚している。


「さあ、みんな、このお菓子はみんな、このお兄さんが買ってくれたの。お礼を言って!」


「「「ありがとうございます!!!」」」


一斉に下げられた小さな頭を見て、イリアスが目元を和ませた。


「どういたしまして」


「さあ、運ぶのを手伝って。馬車の中にもまだ宝があるわよ」


私が馬車のなかから出したひとつを女の子に手渡すと、女の子が言った。


「竜みたい」


「え?」


「この馬車って竜?」


その言葉で先日読んだ絵本の内容が思い出された。


「そうね、あの時も竜のお腹の中から、宝物が出てきたわね」


子供の発想って、本当面白い。


「じゃあお姉ちゃんは竜に閉じ込められていたお姫様?」


「え?」


女の子がイリアスにも目を向ける。


「お兄ちゃんは王子様?」 


な、何言うのかしら。無邪気な子供の発想はときにして、戸惑うことも多い。


「え、ええ、そうね」


ためらって返事に困っていると、するりとイリアスが入ってきた。


「ああ。お姫様を宝の山と一緒に救い出したんだ」


イリアスが青い宝石のような目で私を見つめてくる。


「『我が姫、どうか私にあなたを守らせてください』」


ええ?! あの絵本の台詞、聞いてたの!?

驚いて、声を出せずにいると、イリアスが私の手をとり、顔を軽く伏せると、ちゅっとキスを送った。

途端に女の子たちの間から歓声がわき起こる。

私はそれどころじゃない。顔を真っ赤にさせて固まっていると、イリアスが上目遣いに見上げてきて、ふっと笑った。

――ドカンっ。脳みそが破裂したくらいの衝撃。


「な、な、な――」


イリアスが涼しい顔で、すっと手を離した。

子供たちのためにやったことでしょうけど、それにしてもやりすぎでは?!

攻略対象者はお芝居にだって、本気を出してくるのだと、身を持って体感した私なのだった。

固まってしまった私をおいて、イリアスがどこ吹く風で院長と話し始めた。


「本当にありがとうございます。こんなにたくさん。なんとお礼を言ったら良いか――」


「いえ。かえってご迷惑にならないといいのですが。なるべく日持ちをするものを選んだつもりです」


「まあ、ご配慮痛み入ります。でも、育ち盛りの子供たちの食欲を侮っていけませんわ。彼らに好き勝手させたら、こんな量あっと言う間に平らげてしまいます」 

 

「それを聞いて、安心しました」


和やかに建物の中に入っていくふたり。


「お姉ちゃんも行こう」


「あ、ええ、そうね」


女の子に手を引っ張られ、現実世界に舞い戻った私は慌ててふたりのあとに続いたのだった。





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