51、夕暮れの街
オーナーを含め男たちを縛り付けたあと、私たちの足は警備隊へと向かった。
私たちの通報に対し、警備隊はすぐさま動いてくれた。
賭博場から違法な高金利の借用書や恐喝、人身売買などの証拠が出てきて、彼らは残らずお縄となった。
賭博場での詐欺行為はハーロルトが証言した。
ハーロルトは彼らの側で働いていたものの、それは彼自身の意思ではなかったこと、それから直接悪事に関わることはなかったことが証明されると、逮捕されることは幸いにも免れた。
まだ幼い時分に売られたことや背中の虐待の痕から、彼自身が逆に被害者であると判断され、後押しされた結果でもあった。ハーロルト自身は捕まることを覚悟していたようだったけど。
もちろん、私とエーリックがふたりして彼を弁護したことや彼の身元を保証したことは言うまでもない。
ヒューティア伯爵の名の下、責任持って預かることを伝え、後日改めて詳しく話す形で、ハーロルトは無事私たちと一緒に解放された。
――そして今は家への帰路の途中。
オレンジ色に染まった道路に三人の影が細く長く伸びている。
あと少しで完全に太陽が沈んでしまうだろう。
世界が暖かみのある色に包まれ、こうして並んで歩いていると、さっきまで殺伐とした空気の中にいたなんて信じられない。
通りには仕事終わりの職人がのんびり歩く姿や遊び終わった子供たちが駆けていく姿が見える。みんな家へ帰ろうとしている。大切なひとが待っている世界へと。
それは、私たちも例外じゃない。
私はエーリックとハーロルトに家まで送られていく途中。
帰る家のなかったハーロルトにも家ができた。ハーロルトはこれからヒューティア家にお世話になるそうだ。提案したのはもちろんエーリック。
伯爵が果たして受け入れてくれるか心配したけど、ふたりの様子からその心配は杞憂だったみたい。伯爵の人柄が伺える。まあ、人気者のエーリックの父親だもんね。人が良さそう。
わだかまりが解けたふたりの間にはもう阻むものはないから、ハーロルトもその提案に素直に受け入れた。
伯爵邸は、今日からふたりにとって、大切な親友がいつもいる場所にもなったのだ。
三人の影がつかず離れず歩いていると、真ん中の影が急に笑い出した。
間を挟んでいた私とハーロルトはぎょっとして、横を振り向く。
エーリックが顔を上に向けて、「ふははは」と空気が抜けたような笑いをだしていた。
私たちが不審な目を向ける中、一通り笑い終えたエーリックが涙で滲んだ目をこすった。
「あー、そっれにしてもおっかしい」
笑いが収まらないのか、口元だけはまだ笑みを刻んだままだ。
なに? どうしたの。何か変なものでも食べたの?
「何がそんなにおかしいんだ。大丈夫か?」
ハーロルトがすかさず突っ込む。
「だって、カレン面白すぎ」
え!? 私!? 思わず目を剥く。
「ハーロにビンタしたのにもびっくりだったのに、その後も敵の手噛んじゃうし、挙げ句に髪飾りで攻撃なんて、誰も思いつかないよ」
「あ、あの時は必死だったのよっ!」
普通の貴族の令嬢がとる行動とはお世話にも言えなくて、肩身の狭さを感じて焦る。
ああ、恥ずかしいわ。悪女に憑依したせいで、行動も突飛になってしまうのかしら。心よりも先に体が先に動いちゃうし。どの行動も悪女に相応しい、凶暴さね。自分の体が呪わしいわ。これじゃあ、普通の貴族の令嬢になるには夢のまた夢ね。
「ちょっと元気があって優しいだけの女の子かと思ってたら、全然斜め上だった」
エーリックがこらえきれないように、空に向って「あーやばい……」と呟く。
やばい女認定されてしまったわ。うう、悲しい。
ハーロルトもエーリック越しに顔を覗かせると、にやりと笑った。
「確かに。あのビンタは貴族の淑やかな令嬢がだすもんじゃなかったな」
「あーまだひりひりする」と、わざとらしく頬を擦る。
ふたりして、私をいじめるの?! どーせ私は凶暴な悪女よ!
「これ以上、『好き』にさせないでよ」
エーリックが空に向かってぽつりと嘆く。
え? 好きにしたですって。確かにあなたの大事な親友にビンタ食らわせちゃったけど、これ以上はしないわよ。好き放題振る舞わないように注意するわ。目指せ、断罪回避だもの。
反省を口にしようとしたところで、私の家にちょうど着いてしまった。
「じゃあね、カレン。また明日、学校で」
「じゃあな。この礼はまた改めてするよ」
お礼参り!? ビンタのし返しをしようっての!?
い、い、いらないわ。首を降って拒絶する前に、ふたりが手を降って私の元から去っていく。
あーあ、言いそびれちゃった。
「さよなら、また明日ね!!」
でも、今日は機嫌がいいから、まあいっか。
私はふたりの背に向けて、声を張る。
エーリックの肩に手を回すハーロルトの姿が見える。冗談を言ったのか、ふたりの肩が揺れた。
ゲームで見られなかった、最高の結末を今、見てるから。
ゲームではこのイベントで、エーリックに騎士になる夢があらたに加わり、さらに志が強固になるわけですが、親友を失ったことに対して暗い影を落とさなかったわけではありません。ひたすら「俺は騎士になるんだ! うおー!」みたいな感じだと、ただの熱血な男になってしまいますからね。
時々は振り返り、彼を救えなかったことを虚しく思ったり、また騎士としての自分のあり方を問い直したりしました。そのたびにヒロインが慰め、「彼の遺志を継がなきゃ」と励まします。それで、「32.好きなタイプ③」の台詞に繋がります。
カレンの場合はまったく違う道筋をたどったので、あの台詞に結びつかないかなと思って、このような説明を付け足しました。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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