37、帰宅
地下組織の潜伏場所を突き止めたどころか、殲滅させてしまった一連の騒動は瞬く間に、王都中に知れ渡った。
被害にあっていた人々はもちろんのこと、王都中の人間がその知らせに驚き、悦びの声をあげて沸き立った。
正義の鉄槌を下したのは誰なのか、緊迫感溢れる争いの様子や、これまで犯してきた犯罪の悪辣な証拠など、子細にわたって人々は知りたがった。
現場に詰めかけた野次馬たちの多くが、特別目を引く見目麗しい二人の存在に気づいた。現場のなかで明らかにふたりは浮いていた。そのふたりが警備隊に囲まれ、堂々とした素振りで受け答えをしている様子に、人々はすぐさま、悪者退治を成し遂げたのがこの二人の若人だと確信した。
そうと知られれば、あとは早かった。
野次馬根性丸出しの人々によって、イリアスとフェリクスの名は瞬く間に広まった。
敵陣に乗りこんだ二人の若人の活躍ぶりを面白おかしく、あるいは尾ひれがついて、人々の口の端にのぼり始める。
いずれの噂も二人の若人の勇敢さを褒め称えるのには変わりなかった。
そんなふたりが人々に熱狂的に褒めそやされている中、私はというと、お父様から大目玉を食らった。
品位も恥もへったくれもない野次馬たちの目が注視する、乱闘騒ぎがあった危険な場所に貴族の令嬢がいるなんて言語道断。
『ただちに連れて帰る』と息巻くお父様の手によって、事件のあらましを説明するために残ったイリアスとフェリクスを置いて、私はアンナとともに回収された。
「一ヶ月の外出禁止ですって」
家に戻った私は自分の部屋で不満を漏らした。
「それくらいで済んだんですから、いいじゃないですか。普通に学校は行けるんですから」
アンナが慰めの言葉をくれる。
「それより聞いてください。悪者のアジトを殲滅したふたりの噂が、すごい勢いで広まってるんですよ。明日の朝には王都中で知らない者はいないんじゃないでしょうか。ふたりだけでやっつけちゃうなんて、本当すごいですよね」
「へえ、そうなんだ」
私が叱られている間に得た情報をアンナが教えてくれたおかげで、私は今の状況を知ることができたのである。
「私は怒られて、ふたりは褒め称えられるなんて、ちょっと不公平じゃない?」
私は唇をとがらして、アンナを見る。
悪の巣窟に乗り込んだのは私も同じなんだけど。
でも、まさかこんな騒ぎになるとは思わなかった。
私はただ幼いアルバートを攫った連中が許せなかっただけ。
こんなに大事になるなら、利用する手もあったかもしれないわね。
私も彼らとともにいたから、仲間よね?
これを期にカレンの評判も鰻登りに良くなって、将来濡衣を着せられる未来を防げたかもしれない。
「仕方ないじゃないですか。貴族の令嬢があんなところにいたなんて知られたら、どんな噂がたつかしれません。旦那様はカレン様の名誉を守るために連れ出したんですよ。それにカレン様が悪者たちと闘ったわけではないじゃないですか」
「……それもそうね」
思い返してみれば、私がしたことといえば、悲鳴をあげただけ。
むしろ助けられるという足手まとい感。
実際、悪党を倒したのは、イリアスとフェリクスだ。
悪党の根城を見つけたのも、ゲームのおかげだし。
アンナの言い分にぐうの音も出ない。
普通の令嬢になるにはまだまだ道のりは遠そうね。
私は窓の景色を見ながら、ひとり、頬杖をついて嘆息した。
家を出たときは朝だったのに、外は既に夕闇に染まっていた。
一波乱によって巻き起こった人々の喧騒を包んで、町が暮れようとしていた。




