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36、突撃

!注意!


戦闘シーンがあります。

苦手な方はご注意ください。


いつも読んで頂き、ありがとうございます!

次の日、待ち合わせ場所に行くと、フェリクスだけでなく、イリアスも立っていた。


「イリアス様も来たんですね!」


「ああ。ちょうど手紙を受け取った時、隣にいたからな。手紙の内容を見たら、来ないわけにはいかない」


「そうなんですね。協力者が多い分には力強いですし、助かります。ありがとうございます」


「そんな挨拶はあとでいいから。それより、手紙に書いてあった内容は本当なんだろうな?」


フェリクスが少しの時間も惜しいとばかり私とイリアスの間に分け入った。

アルバートがいなくなってから、五日目。その間の心労と焦りは想像に固くない。

フェリクスの面相はいささか険しく、少しやつれて見えた。


「ええ。本当です。アルバート様はあの建物の中にいます」


私は他の建物の壁に隠れながら、昨日見つけた地下組織の建物に目をやる。


「一体どうやって見つけたんだ。もし君の言ったことが嘘だったら、俺は君を許さない。俺にくだらない希望をもたせたこと、貴重な時間を費やさせたこと。今は一瞬だって、無駄な時間を過ごしている暇はないんだっ」


普段のお調子者の彼は鳴りを潜め、真剣な表情で詰め寄る。その鬼気迫る勢いに、言葉の裏を返せば、もし噓だったらどうなるかわからないという怒りが漂ってくる。それだけ彼の精神は追い詰められている。

私は攻略対象者の圧に思わずごくりと喉を鳴らす。


「と、とにかく今は私を信じてください。言われた通り、武器は持ってきましたか」


「――ああ。持ってきた」


フェリクスが腰に差した剣をぐいと握ってみせた。イリアスも見れば、同じく剣を差している。

乗り込むのは地下組織のアジト。腕に覚えがある破落戸がどれほど潜んでいるかわからない。

ゲームでもフェリクスは敵から奪った剣で応戦していた。多勢に無勢だが、そこは攻略対象者。何人も敵を倒していた。途中から、騒ぎを聞きつけた警備隊のおかげで助けが入るのだが、さすがに全員を相手にするのは無理だったろう。

けれど今回はイリアスもいる。二人ならけっこう持ちこたえられるかもしれない。


「本当に入るんですか? カレン様」


ここまで付いてきたアンナが心持たなそうに私の腕にしがみつく。


「大丈夫よ。ふたりがついてるし」


私はアンナの不安を吹き飛ばすために、わざと明るい声を出す。


「アンナは私があの建物にはいったら、すぐ警備隊を呼びに行って」


そして、最後の仕上げに警備隊。完璧な配置である。あとは上手くいくように祈るだけ。


「はい。ならず者にカレン様があの建物の中へ攫われていったって、叫べばいいんですよね。ああ! それにしても、本当に大丈夫なんですよね? カレン様に何かあったら、旦那様に殺されます!!」


アンナが神様に祈るように手を合わせる。

今日家から出たときに、アンナには一番最初に計画を明かしていた。アンナは震え上がったけど、ここまで来たら、もう覚悟を決めてもらうしかない。アンナがいてこそ、この計画は完璧に成し遂げられるのだ。


「大丈夫。きっと一時間後には笑って会えるわよ」


「その間に寿命が縮まないといいですが。一時間後、私の寿命が残っているといいですね。ハハハ」


アンナが乾いた笑いを返す。眼つきが座りはじめているところを見ると、ヤケクソ気味になっているのかも。


「まさか、ひとりで行くつもりじゃないだろうな」


私の台詞を聞き咎めたイリアスが、ずいと身を乗り出してきた。なんだか背負ってる空気が怖いんだけど。


「ええ。そのつもりです」


まだこの二人には計画を話していなかったわね。私が建物に入り、無事内部に潜入したら、悲鳴をあげる。悲鳴を聞いたら、ふたりが乗り込むという戦法。

お父様は証拠がなければとおっしゃったから、私がその証拠になればいいのよ。

うら若き乙女の悲鳴を聞けば、誰だって放ってはおかない。助けが入らなければ、一体何のための警備隊。

そして中に入ってしまえば、こちらのもの。

中にはきっと阿漕な商売の証拠がじゃんじゃんあるはずよ。 

あとは偶然を装って、アルバートを見つければいいってわけ。


「駄目だ。ひとりでは行かせられない。危険すぎる」


「ひとりじゃなきゃ入れません。女の私だから、油断して中に入れてくれます。剣を帯びたふたりがついてきたら、絶対中には入れてもらえませんよ」


「だったら、ほかの方法を――」


「これが一番手っ取り早くて、後腐れありません。おふたりは偶然ここを通りかかり、悲鳴をあげた私を助けに来ただけなんですから。――ね、イリアス様」


私がイリアスの顔を覗き込むと、イリアスはぐっと堪えるように眉を寄せた。

私が悪女でも、見た目はか弱い乙女には変わりない。これから行く場所は決して安全とは言えない。むしろ危険な場所。

悪女まで心配してくれるイリアスは本当に正義感が強い。


「私を信じてください。イリアス様もアルバート様を助けたいですよね。私も危険だと思ったら、すぐ悲鳴をあげますから」


思いを込めて真っ直ぐな視線で見つめれば、イリアスはようやく諦めたようにため息をついた。


「わかった。ただし、悲鳴があってもなくても、五分後には押し入るからな」


「わかりました」


私はフェリクスにくるりと向き直った。


「それではフェリクス様、あとを頼みます」


フェリクスは私をじっと見て何か言いたそうな顔をしたものの、結局出たのは嘆息だけだった。


「ああ。気をつけて」


「はい、行ってきます」


私はスカートを翻し、建物のほうに向かった。

二人の視線が背中に突き刺さる。

一歩進むごとに緊張して足が震える。

大丈夫。私にはできる。

私は建物の正面にくると、扉を叩いた。


「はいよ」


髭を生やした男が扉を開けて、中から顔を出した。

私を物珍しげに頭から爪先まで見ると、にたりと笑った。


「若いお嬢さんがこんなところに何の用だい? 来る場所を間違えてるだろう」


「いいえ。間違えてないわ。――ボスに会わせて」


「なんだって?」


聞き間違いと思ったのか、男は耳をこちらに傾けた。


「あなたたちのボスに会わせてと言ったの。最近、手にいれた『光の聖人』に関して話したいことがあると伝えて」


男が顔色を変えた。扉を大きく広げる。


「はいんな」


「ええ、失礼するわ」


私は男のあとをついていく。古びた板張りの床が、かすかにきいっとなった。

中は思ったより普通だった。ただいくつも通り過ぎた扉のない部屋の中には男たちが何人もいて、こちらを見て下卑た笑いを浮かべたり、口笛を吹いたりする。

一階はどうやら男たちの溜まり場らしい。

私は三階に案内された。上に位置する人間だけあって、この部屋にはちゃんとドアがあった。

男がドアをノックする。


(かしら)ぁ、なんか頭に会いたいって女が来てます。入れてよろしいんで?」


「入れ」


中から返事があって、男がドアを開ける。

男は私を部屋に押し込むと、自分もなかに入ってきた。

三階の部屋は見たことがあった。黒光りする見るからに重そうな机がまず視界にとまる。その後ろに引かれたカーテン。さらにその奥にカーテンが引かれてあって、そこにアルバートがいるはずだ。

ゲームでは希少で価値のあるものはボスの部屋に直接おかれているみたいだった。


「この女が頭に話があるそうで。何でも頭が最近手に入れた貴重な物のことで」


机の前に座っていた男がぴくりと反応する。

男の前には貴金属類が無造作にごろごろと転がっていた。それらもどうせ、ろくでもないルートから手に入れたに違いない。

検分していた宝石から目を離し、机の男が初めて顔をあげる。

うわあ。私は目を広げた。カレン・ドロノアもびっくりの悪党顔だわ。

四角い厳つい顔に、耳の横から顎の先まで生えた髭。大きく膨らんだ小鼻。日に焼けたざらついた肌。目つきの悪い三白眼。

ないと思ってたイケメンのデメリットが今、思いついたわ。

見慣れているおかげで、こういった顔から目を背けたくなることね。

でもどんなに怖くても、今は立ち向かわなきゃ。

私はきっと睨んだ。

ボスがじろりと私を見る。

あ、押されそう――。


「『俺が手に入れたもの』ねえ――。一体どれを指してるか、教えてくれねぇか。お嬢ちゃん」


私はびしっと指をさした。


「その向こうにいる『光の聖人』の彼よ!」


ゲームではアルバートは小さな檻に入れられていた。必要なときだけ、外に出されるという劣悪な環境。人を人とも思わぬ悪魔のような所業。

絶対許すまじ。

私は怒りを込めて、睨み据える。

ボスはしばらく無言だったものの、表情を変えず訊ねる。さすが海千山千悪事をこなしてきた地下組織のボスだ。多少のことには動じない。


「それで?」


「彼を返しに貰いに来たわ。今までの悪行を悔い改め、おとなしくお縄につきなさい!」


決まったわ。と思ったも束の間、ボスがクックックと笑いはじめた。


「全く、ここまでひとりで来て何を言うかと思えば。お嬢ちゃんは怖いもの知らずだな。そんなことを言って、無事に帰れると思っているのか?――おい」


私の後ろに立っていた男に目線をやる。

心得たとばかり、男が私の手首を掴み、ひねり上げた。

痛っ。どうやらここまでのようね。

もしかしたらゲームの悪女『カレン・ドロノア』の凄みに恐れをなして、おとなしくしてくれるかと思ったけど、儚い夢だったわ。

誰も傷付けずに終わったら良かったのに。

私ははあっとため息を吐いた。

その時、下の階から「誰だ、テメエ」とか「この野郎」とか聞こえてきた。合間に剣で打ち合う金属音も聴こえる。

もう五分経ったのね。

私は今度は、息を思い切り吸い始めた。


「きゃああああぁ―――」


イリアス、フェリクス、ここよー!!

助けに来てー!!

私は声を限りに叫んだ。


「このアマ、ひとりじゃなかったのか!」


私を掴んでいた男が叫ぶ。

残念でしたー。


「ふん。今に警備隊も来るわ。観念することね!」


「なんだと?!」


男は血相を変えるが、ボスは顔色を変えずに立ち上がった。悠然とした足取りでカーテンの向こうへと消えていく。

あ、そっちはアルバートがいる方向だわ。

まさか連れて逃げる気? それとも人質?

そうはさせるもんか。下の騒ぎに気を取られている男の不意をついて、足の裏で思い切り、脛を蹴ってやる。


「わぁっ!」


男の手から力が抜けた瞬間に、私は抜け出て、ボスのあとを追う。

けれどカーテンの手前で、再び男に捕まった。


「きゃあ」


男が私の髪を掴みあげる。

い、痛い!


「痛い目あいたくなけりゃあ、おとなしくしてろ!!」


男が腕を振り上げる。

私は目を瞑った。けれど、衝撃はやってこなかった。


「ぐふっ」


代わりに奇妙なくぐもった声が聞こえた。

目を開けると、男の手をイリアスが掴みあげていた。

下の階からはまだ金属音や男たちの怒声が聞こえている。どうやら、階段を駆け抜けて、真っ先に私のところに駆けつけてくれたみたい。


「イリアス様っ!」


「痛い目あいたいのはお前のほうだろう」


イリアスの目に底冷えするような光が宿り、男を凄む。一瞬で凍死しそうな極寒の寒さが肌をびりびり刺激する。


「いつまで、その汚い手で掴んでるつもりだ。離せ」


掴まれていた男の手首がみしりと音をたてた。


「ひぎゃああ」


男は情けない悲鳴をあげて、私の髪を離した。

イリアスが男をぱっと離して、私を抱きとめる。

その時、ちょうど剣を掲げたフェリクスが部屋にはいってきた。


「フェリクス様っ! あっちにアルバート様が!! 敵もいるわっ。行って!!」


私は自分の身も振り返らず、カーテンを指差す。

フェリクスは私の声を聞くと、剣をかまえて突進していく。

一枚目のカーテンを振り下ろしざま、切り裂く。

続いて二枚目も、何の躊躇いもなく横裂きにした。

果たして部屋の奥には小さな箱型の檻を前にしてボスがしゃがみこんでいた。


「アル!!」


「兄ちゃん!!」


鉄格子を掴んで、叫ぶ小さな男の子。周りには他にも珍しい鳥や禁猟の動物などが閉じ込められた檻が並んでいた。突然の騒ぎに動物たちがかしましく、鳴き声をあげたり、羽をばたつかせたりしている。

あんな小さな檻にアルバートを閉じ込めてたの?!

実際生で見ると、心が締め付けられるわ!

まじで鬼ね、あの男。

成敗してやりなさい! フェリクス!!

ボスは立ち上がると、腰に差した二つの短刀を抜いた。

普通の形ではなくて、湾曲した異国のような刀だ。


「持って逃げられるかと思ったが、思ったより早かったな。ちっ。使えねえ奴らだ」


「テメエ、覚悟は出来てるんだろうな。人の弟を攫い、挙げ句にモノみたいに扱いやがって」


フェリクスの背中から、怒気が噴き上がり、猛然と斬りかかっていく。ボスがフェリクスの剣を片手で受け止めた。ガチッと重い金属音が鳴り響く。フェリクスがさらに体重をかけて、じりじりと刃先がにじり寄った。

その間にイリアスが押し寄せてきた敵と扉の前で対峙する。白刃が煌めき、切っ先が敵へと向かっていく。流れるような剣の動き。滑らかなのに、その切っ先は驚くほど鋭く、繰り出された。


フェリクスを見やれば、ボスが空いた隙を狙って、フェリクスの横腹に、もう一つの短刀を撃ち込むのが見えた。

腹に届く前にフェリクスが剣を払って、後ろに飛び退く。

着地したと同時に間髪入れずにまたボスへと斬りかかった。

今度は力を拮抗させずに、続けて撃ち込んでいく。

カンッ、カンッ、カンッカン、カンッカンカンカン。

あまりに早い斬撃に金属音が鳴り止むことはない。

す、すごい。

私は呆然と見入ってしまう。

フェリクス、あんなに剣が扱えたのね。

目で追えないほどの鋭い突きの連続。

一方、イリアスの剣も宙を舞う。剣が鋭い輝きを放ち、まるで水の中の魚のように滑らかな動きで、次から次へと敵を斬り伏せていく。まるで赤子の手をひねるかのように、体力の消耗を感じさせない素早い動き。敵を一歩も部屋に入り込ませないという強い意志を背中から感じる。

どちらも負けず劣らずの戦いぶり。

左右挟まれた私はあまりの気迫に呑まれそうだった。気づけば、自然と呼吸が浅くなり、緊迫感からか、まるで私の周りだけ、酸素が薄くなってしまったみたい。

その間にも戦いが繰り広げられていく。

やがてボスの体力が落ちはじめたのか、肩で息をし始めた。呼吸が乱れている。

フェリクスのほうはまだ大丈夫そう。

何せ二人の覇気は最初から違うのだ。

フェリクスは弟を攫った憎き(かたき)を相手にしている。

怒りは力を増幅させる。それは尽きることはない、永遠の如き家族への想い。

背負っているものが違う。


「うおおおぉ」


フェリクスが剣を振り上げた。

ボスはもう片手では持たないのか、頭上で両刀を使って受け止める。


「くっ」


ボスの顔が歪む。その瞬間、勝負あったと、私は何の根拠もなく悟った。

その啓示がまるで正しかったかのように、あとの動きはスローモーションのようにはっきり見えた。

フェリクスが剣を滑らせる。そして、流れるように腹めがけて、中腰のまま、剣を繰り出した。

受け止めようと振り下ろした短刀は間に合わなかった。


「ぐふっ」


ボスが血を吐いて、崩れ落ちる。


「アルッ!」


ボスの行く末などもう興味もないフェリクスが、檻めがけてしゃがみ込む。


「今だしてやるからな、待ってろ!」


素早く辺りを見渡しボスの腰にあった鍵の束に気づくと、手に取り順に試していく。

私はというと、あまりの闘いの凄さに体が固まってしまっていた。

髪の毛一筋乱さず、最後の敵を倒し終えたイリアスが私に近寄ってくる。


「怪我は?」


私ははっと気づいて、正気に戻る。


「だ、大丈夫。イリアス様のおかげでなんともありません」


「そうか。良かった」


イリアスがほっと息を吐く。


「でも、ちょっと掴まれた頭が痛いですけどね」


戦いが終わった緊張感がとけて、引っ張られた頭皮に手を当てながら、へへと笑う。


「どこだ?」


イリアスが私の頭に手を伸ばした。


「ここか? 髪は抜けてないみたいだな。あとでメイドに頼んで、冷やして貰えばいい」


まるで大切な物をあつかうようなふんわりとした手のひらの動きが頭を通して伝わってくる。それと同時に秀麗な顔を間近で見つめることになり、ドキリと心臓が跳ねた。

頭を撫でる顔つきが穏やかで、その優しい手付きと、普段の冷たさとのギャップが激しくて、私の脈が急に激しく打ち始めた。

 

「い、い、い、イリアス様……!?」


その時、笛の音が階下から響いた。

どうやら警備隊が到着したらしい。

イリアスがすっと離れて、ようやく私は息ができるようになった。

びっくりしたー。

あんな優しい眼差しのイリアスは初めてね。

こんな闘いのあとじゃあ、ドーパミンやらアドレナリンやらが噴出して、脳にいつもと違う作用をもたらして、人格に影響を及ぼしているに違いないわ。

私はうんうんと頷いていると、「カレン様あ〜」と呼ぶアンナの声が聞こえた。


「アンナー、私はここよー」


私は階下に向かって、叫ぶ。

イリアスは警備隊長らしき人に向かって、説明を始めている。


「カレンさん、ありがとう」


振り向くと、フェリクスが弟の肩を抱いて、立っていた。


「君のおかげで、アルが見つかった。―――ほら、アル、お礼を言うんだ」


「ありがとう!」


顔立ちはフェリクスに似ているものの、その色素は驚くほど薄い。

儚くて、あまりに美しい生き物。

窓から入る陽光にあたって、顔や腕が仄かに光っている。

これは天使が舞い降りたって言っても、信じちゃうよ。

私はアルバートの背に合わせて屈んだ。


「どういたしまして。怖かったでしょ。よく耐えたね。偉かったね」


「うん! でも、絶対兄ちゃんが救けてくれるって信じてたから、怖くなかったよ!」


アルバートが嬉しそうに破顔する。

嘘。絶対怖かったはず。その顔には涙の筋が残っている。

でも、強がりたいお年頃。そして、そばにいる兄に心配かけたくなくて言ってるんだよね。

私は思わず抱きしめた。


「強かったね。よく頑張った。君は強い男の子だ」


よしよし。ぎゅうっと抱きしめると、アルバートが泣き始めた。


「おい、アル、さっきも泣いただろ」


フェリクスがちょっと呆れて言う。

兄弟の対面の時を言ってるらしい。

はっ。せっかくの生スチルを見逃した。

悔しい〜。

でも、それはおくびにも出さず、フェリクスを見上げ、ウインクする。

黙って、泣かしてあげなさいよ。とっても怖かったんだから。

フェリクスが何故か、口に手をあて顔を背ける。

しまった。イケメンのウインクは格好良いけど、悪女のウインクは見るに耐えなかったのね。格好つけるんじゃなかった。吐き気を堪えてるせいか、顔が赤くなってる。うう。悲しい。

私は内心嘆きつつ、胸のなかにいる暖かな存在を泣き止むまで抱きしめたのだった。




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