第49話 穏やかな目覚め
朝。窓辺から差し込む光。
白く清潔なベッドの中で、レンはすうすう寝息を立てていた。
日差しがレンの目蓋に落ち、うっすらと意識が戻る。
(……妙に枕が硬いなぁ……)
思わず枕に手をやる。
やけにゴツゴツしている。それに枕にしては左に長い。枕と言うよりも、まるで人間の腕のような感覚。
不思議に思い、レンは寝ながら左向きになった。
そして、それと目があった。
「あら♡ 起きたのね、ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」
レンは目を覚ました。
「うわああああああああああ!!」
「きゃああああ!!」
絶叫が木造の部屋にこだまする。
レンの叫び声に驚いて、看病していたノエルが花瓶を落とした。
ーーガッシャーン!!
「あわわわ……!!! す、すみません!!」
「あれ!? ノエル……!? 今エミーが……あれ!?」
レンのベッドにはエミーなど寝ていない。
その事に一瞬ホッとしたレンだが、すぐに頭を抱えた。
というより、一刻も早く今見た悪夢を忘れようと必死に念じた。
「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ……!」
「れ、レン様!? どうされたのですか……!?」
そんな姿を見て、ノエルは床に落ちた花瓶どころではない。
レンの情緒に不安になった。
「うっるさいわね!!! 静かにしてよ!! 寝れないじゃない!!」
ノエルは隣のベッドに寝ていたサリーに泣きついた。
「あ、ああ〜〜サリー様、助けて下さい! レン様が変なのです……!」
「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ……ああもう! なんで忘れないんだ!! 記憶喪失だろ! 頑張れよ僕!!!!!」
「……ほっとけば治るわよ。じゃ、おやすみ」
「サリーさま!?」
◇
その後、レンは時間をかけて落ち着きを取り戻した。
今はノエルに入れてもらった紅茶を疲れた表情で啜っている。
「レン様とサリー様がここに運ばれから2日は経っています」
ノエルのそんなセリフに、レンは思わず紅茶を吹き出す。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ゴフッ!ゴホ……! ごめん……大丈夫。もうそんなに経ってるのか……そうだ! スライムの被害に遭った人たちは? ブリゲート神父は?」
「ええ、ご安心下さい。神父様も商会の方々も無事に見つかっています。神父様など、今も西市場の復興のために働いています。シスター達も炊き出しで現場の皆様を支援しています」
「そっか〜〜! よかった〜〜!」
「レン様。神父様もシスター達も、ああして元気に働けているのも貴方があのスライムを倒して下さったお陰です。本当にありがとうございます!」
「ううん。僕はずっとあのスライムの中だったから。お礼を言うなら、兵士と冒険者達だよ。それに、サリーやノエル、アルドにスミスが居なかったら僕だってどうなっていたか……こちらこそ、本当にありがとう!」
それは、ノエルにも負けない心からの感謝の気持ちだった。レンはしっかりと頭を下げてノエルへ示す。
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも戸惑うような表情を見せる。
「そんな! レン様が頭を下げるような事では……! あの怪物を倒したのも貴方ではないですか!?」
「うん、結果的にはね。それでも、僕だけで倒せたなんて微塵も思ってないよ。あの巨体から、みんながシスター達と僕を助けて、サリーと冒険者達は住民を守りながら闘って、それでようやく、僕でも倒せるだけの大きさになった……確かそうだよね? サリー?」
「……あによ、知ってたのね。その通りよ」
「ね? 僕だって、流石にあの巨体を相手には出来なかったよ。みんなの奮闘があってこそ、でしょ?」
レンはニコリと、笑みを見せる。とてもさっぱりとした笑顔だった。
一方、ノエルは相変わらず目を見開いて驚きを崩さなかった。
「……どうしたのノエル?」
「……いえ、すみません。今回の事件で、一番の功労者であるレン様が武功も武勇も語られないのがすごく意外で……驚いてしまいました……」
「そういうヤツよ。キザなだけだから気にしなくていいわよ」
「サリー、せめて謙虚って言ってよ! でも、ちゃんと本心だよ。ノエル」
レンはノエルと視線を合わせる。
「助けてくれて、ありがとう」
「……! は、はい!」
◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎
大変恐縮ではございますが〜
少しでも本作を気に入ってくださった方
面白いと思った方
評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです
作者の日々の励みにもなりますので
お手数ではございますが
どうか、よろしくお願い申し上げます。




