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第13話 ギルド・マスター

「ギルド・マスターだ!!」


冒険者達の中から恐れるような声が聞こえた。

その声をきっかけに、1階にいるほぼ全員が吹き抜けから見下ろすその紫髪の大男を見上げる。

皆、冷や汗をかき始める。


2階の男の眼光は鋭く光り、明確な怒りを滾らせているようだった。


だが、レンは不思議に思っていた。

ギルドマスターと呼ばれたその男は厚い化粧していて、鍛え抜かれた肉体にド派手なドレスを纏っていた。


そんな怪しげな雰囲気の男の正面にいたサリーとノエルはそそくさと退こうとする。


「待って。そこに居なさいな」


静かだが、短く強い声だった。

サリーは男をキッと睨んで立ち止まり、ノエルの手を握った。


ギルドマスターと呼ばれた紫髪の男は手すりに腕を乗せ、紫色の目蓋を開いて1階の状況を観察する。

何とも言えない間が1階の空気を凍りつかせていた。


「ギ、ギルマス……これは……」


弁解をしようとしたのは、ガッドの仲間の一人。

しかし、その言葉は途中で途切れる。

男の体が突然、吹き飛ばされたからだ。


ガシャン!!!!! と窓を突き破り、男は建物の外へ投げ出された。


「黙ってなさいな。お話を聞きたいのはアンタじゃないわ……」


挙げた片手を下ろしながら、ギルドマスターは続ける。


「ガッド……これはどういうことかしら?」

「ギ、ギルマス……すまねぇ。つい頭に血が昇っちまって……」


ガッドは頭を上げて懇願するように言ったが、ギルドマスターはそれを冷たい視線で返す。


「武器は使用しない。それが決闘のルールだったはずよ? 頭に血が昇ったからなんて理由でアンタは剣を取ったと?」

「は、反省してる! もうしない! だから、除名だけは勘弁してくれ!」


レンはそれを聞いてギルドマスターを見上げ、言った。


「それは僕からもお願いしたいな。理由はどうあれ、元は僕が起こしたトラブルだ。こちらにも非はある」


ドゴン!!!

轟音をたて、レンの足元に穴が空き、床の破片が顔にかかった。


「今はガッドと話しをしているの。貴方は黙っててちょうだい」

「…………!!」


レンは思わず口をつぐんだ。


攻撃の気が全く見えなかった。

ましてや、何の魔法なのかも不明。

だた突然、床が下から爆散した。


そんな、いつ襲ってくるかも分からない攻撃に、レンは内臓が縮むような恐怖を感じた。


「さてと、ガッドちゃん。私はね、別に決闘した事やら〜〜床を破壊した事を、怒っているのではないの。

私が言いたいのはね、決闘の場において、最も遵守しなければいけない法を破ったって事なのよぉ……。分かるかしら??」


脂汗を流しながら、ガッドは激しく瞬きをしている。

ギルドマスターは建物の全員に聞こえるように声を荒げた。


「アンタ達も聞きなさい!!! このギルドには2つルールがある!! 武器を取らない事ぉ!! 人を殺さない事よ!!

ガッドちゃんが剣を取った時、何で誰も止めなかったの!!!」


叱責を受け、冒険者は一様に俯き、青ざめる。


「今回の件はガッドだけじゃはないわ。ここに居る全員に責任がある事よ。よって、ガッドは1ヶ月のクエスト禁止

そしてここに居る者全員、1ヶ月間報酬の30%を学術機関に寄付してもらおうかしら。アンタらの酒代が子供達のために使われるのよ。

名誉に思いなさいな」


それを聞いて、数人の冒険者達は声を上げて文句を言った。

ガッドはもとより、観戦していただけの自分には非がないと、不満たらたらである。


「黙れ!!!! 50%にされたいか!!!!」


野太い、完全な男の声だった。

効果は覿面だったようで、その一言で不満の声はピタリと止んだ。



場が収まりつつあるのを感じ、レンはそろそろと、そこから立ち去ろうとしたが、2階から声がかかる。


「そこのフードの君ぃ。こっちに来てくれる? お嬢さん方も一緒よぉ?」


サリーとノエルも2階の手すりから顔を見せた。

どんな時でも堂々としているサリーが珍しく不安げな表情をしていたため、レンは自体の深刻さを察する。


「分かりました。今上がります」


レンはそう言って、2階へ続く階段へ足を向けた。


割れた窓ガラスから風が流れ、レンの頬に当たった。

それはどうにも、不穏な風にしか感じなかった。





「お久しぶりねぇ、サリー!」

「ええ。ご無沙汰」


ぶっきらぼうに応えるサリー。


ギルドマスターの執務室に通された3人。

レンとノエルは、対面のソファに腰掛けた男を前に呆然とした。


「え? サリーのことを知っているの?」

「何言ってんのヨォ、マブダチよ私たち」

「違うわ。顔見知りよ」


即座に否定するサリーにギルドマスターは「ひど〜〜い」などと頬を膨らませる。

その仕草や言葉遣い、衣装は完全に女性のそれである。


ただ、鍛え抜かれた筋肉が隠し切れておらず、彼(彼女?)が話す度に、レンの脳はパニックを起こしそうになる。

ノエルの方はというと、完全にパニック状態である。


頭に? マークを浮かべる二人に、ギルドマスターは座り直し、テーブル越しに手を差し出した。


「改めまして、私はエミー・リンクス。ここのギルドマスター兼、グランドパブの経営者。そして、生粋のオ・カ・マ♡ よろしくね♡」

「よ、よろしく……」

「よりょしくおにぇがいしましゅ」


レンとノエルは手を握って短い挨拶を交わす。

ノエルは未知との遭遇に、まだテンパっているようだ。


とりあえず、自己紹介をしようとレンが口を開く


「僕は……」

「元勇者のレンさんでしょ♡」

「えっ……」

「!!」


サリーがソファから立ち上がり、杖を構える。

エミーは横目にそれを見ながら、薄い笑みを作る。



「何のつもり??」

「や〜〜ね! この私が気が付かない訳ないでしょ♡」

「そう……。なら仕方ないわね」


杖の先に光が集まり、魔法陣がサリーの周囲に展開される。

だが、それ以上魔力が練られることはなかった。

レンが二人の間に立ち、サリーを制したからである。


「待って待って! サリー! 落ち着いてよ!」

「邪魔しないでよ。正体がバレたんならこうするしかないでしょうが」

「いいや! 確かにこの人は変かもしれないけど、軍に突き出す気ならこんなにゆっくりしてる訳ないだろ!」


そう言われ、サリーは魔力をゆっくり落とす。

そして強張った表情はそのままでエミーに聞いた。


「……エミー、どういうつもり?」


紅茶の入ったカップをテーブルに置き、エミーはため息をついて答えた。


「まーったく! 相変わらず喧嘩っ早いんだから! 言ったでしょ? 私たちはお友達なんだからそんな物騒なことする訳ないでしょ。

久々に見かけたから話がしたかっただけよ。まあ、アタシの誘い方も悪かったけどね♡」

「…………分かったわ。取り敢えずはレンに免じて信用してあげる」


サリーは杖の底で床をドンと叩く。

すると、エミーの周囲に十数個の魔法陣がも現れ、消滅していった。

あの一瞬でどれだけ魔法を使おうとしていたのだろうか……。


レンはすっかり肝が冷えた思いだった。

だが、当のエミーは、自身の目の前で消滅していく魔法陣を見ながらお茶を一口啜っている。


「あらやだ、恐いわね〜〜! お嬢ちゃんもあんな風になっちゃだめヨォ?」


苛つくサリーとは対照的に、エミーは飄々としながらノエルに微笑みかけた。


ノエルもレンも、もはや苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

ご拝読ありがとうございます。


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