第81話 第六の槍
魔法学園の中庭では、多くの生徒達が恐怖で立ち竦んでいた。
彼らが見るのは優雅に歩く黒衣の魔女。そして放たれる禍々しい魔力だ。
静粛でありながら、ドス黒い殺気に満ち溢れた魔力。
そんなものを間近で見て、畏怖しない魔法使いなどこの世界では数えるほどしか居ない。
凍りついたように固まる生徒達を他所に、魔女は視界に礼拝堂を捉えていた。
だが、彼女の目前に影が一つ。
それに気が付き、魔女の足はひたりと止まる。
「……なんじゃ貴様、逃げ出さんのか?」
魔女の前に現れたのは、魔杖に乗って宙を漂うサリーだった。
「逃がす気なんかないくせに、よく言うわ」
サリーは魔女の感知範囲の広さは既に織り込み済み。
たとえ認識阻害をかけたところで、術式の存在がバレてしまっている。
ザグラムを出る前に看破されるだろう。
そう、もはや逃げ道は前にしかないのだ。
「アンタをぶっ倒してザグラムを出る。それが私たちの退路よ」
「ほう。お主に出来るのか? あの程度の実力で本気のワシ倒せると?」
「お生憎様、私だって礼拝堂では様子見程度よ。本番はこれから」
魔女と学士の視線が交わり、電光が走る。
そうして、両者の魔力が制空権を形作った。
まるで剣士が立ち合う際に互いの剣を合わせるが如く、ゆっくりと、確実に、双方の魔力領域が広がっていく。
まさに一触即発を形容したこの光景。
中庭で竦んだままの生徒達は、たった一つの行動を選び取った。
「逃げろ!!!」
誰かが叫びを上げる。
そしてそれを合図に、生徒達は一目散に駆け出した。
次第に辺りから音が消えていく。
二人の女に言葉はなく、ただ互いの魔力領域だけが滲んでいく。
やがて、領域が重なった。
刹那、サリーが動く。
魔力を最大開放。
同時に五つの攻撃術式を起動させ、魔女を囲むように発動した。
対するアズドラも冷静に対応。
サリーの起動した術式が雷、火、水、風、土の属性魔法と見てとると、得意のシャボン型の防護術式を起動。
全てを飲み込むように、一瞬で無効化した。
「まさか五つ同時とはのう。だが、出力を分散し過ぎじゃ。そんな魔法など、あまりに惰弱!」
続け様にアズドラは反撃を行おうと術式を起動する。
だがその時、魔女の足元が意図しない歪な輝きを放った。
「五つじゃないわよ」
そっと言い放ったサリーの声と共に、アズドラの眼前へ黄色く輝く拳が伸びる。
「ーーな」
その魔法は、サリーの得意とする”巨人の腕”だが、人間大の大きさだ。
そして拳の造形は、レンのものによく似ている。
人間大に凝縮された圧倒的なパワーが、見事に魔女の顔面を撃ち抜いた。
それは、術式五つ同時発動という偉業に隠れた不意の一撃。
本来あり得なかった第六の槍は、あまりに重く、あまりに苛烈。
魔女アズドラを一撃でダウンさせるには十分すぎた。
「お、おのれ……!!」
地面に手足を踏ん張り立ち上がろうとするが、上手く力が入らず呻く。
そんな魔女の醜態を前に、サリーの怒りに燃えたまま言い放つ。
「これが仇討ち①。さて、こっからも私の番よ!」
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