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第82話 諦め


 魔女アズドラは戦慄していた。

 憤然とこちらを睨む魔法学士の圧倒的な才能に。


 六つもの術式同時発動という異常。

 一体どんな理論で行使したのか、王国一の魔法使いと称される魔女にさえ、考えもつかない。


 「は、はははは!! やはり貴様だけは格別だな!! サリー!!」

 

 狂ったようにケタケタと笑うが、その口からは鮮血が飛び散った。

 対するサリーの瞳は冷徹そのもの。

 魔女の戯言を無視して、新たな術式を起動する。


 そうしてサリーの背後に展開した魔法陣。

 そこから伸びる無数の腕、鎖、炎が、魔女へと迫った。


 『クーパー(空へ)!!』


 魔女は呪文と共に天へ高く飛び上がり、サリーの魔法は空ぶった。


 躱されと気が付き、空へ逃れた魔女を、サリーは見上げた。

 そして魔杖へさらなる魔力を込め、彼女も天高く舞い上がった。


 逃れるように飛び回る魔女。

 それを追い縋るサリー。

 二つの影は、幾重にも魔法の攻防を重ねながら空を駆けた。

 

 サリーは時に巧みに受け、柔軟に反撃する。

 アズドラは時に剛気な痛撃でもってサリーを追い詰め、魔力量で圧倒する。


 この時地上に居た人々は認識した。

 空を駆ける二つの軌跡を。

 花火のような轟音が次々と上がり、戦場と化した天空を怯えた瞳で見上げた。


 両者譲らぬ攻防戦は続き、一向に終わりが見えない。

 魔力も体力も限界というものがある。

 もはやこの高度な魔法戦は、我慢比べの様相を呈していた。


 しかし、膠着状態はそう長くは続かない。


 「サリー! そろそろお終いにしようか!!」


 魔女の言葉の後、大量の魔力が渦を巻く。

 その様子を見て、サリーは理解した。


 ーー最大火力が来る、と。


 「そう簡単に、打たせるか!!」


 焦りながらも撃ち放った魔弾。

 それは見事に魔女の体を撃ち抜いた。

 

 しかし、その詠唱は止められない。


 『太陽の儀式!!!!』


 魔女が呪文を唱えると、突如として巨大な火球が現れる。

 熱く燃えたぎるそれは、まさに太陽のように輝き、ザグラム全体を照らし出す。


 「はははははははは!! このまま焼け死ね、馬鹿弟子!!!」


 その声の後、二つ目の太陽は放たれた。


 迫る凶悪な陽射しを前に、サリーの頭脳はある結論を導き出す。


 「ああ、これ無理だわ」


 自分も”太陽の儀式”を発動すれば相殺できるが、そのための魔力は乏しい。

 避けようとしても、この間合いでは避けようが無い。

 全速力で飛んだとしても、確実に太陽の端に捉えられる。


 ましてや、掠っただけで絶命必死の威力をこの魔法は備えている。


 打つ手なし。

 どう転んでも、死。

 

 そんな危機を前に、サリーの思考は実に冷静だ。

 と言うより、もはや諦めの領域に入り込んでいる。


 「ここまでか……ごめん、ルイス。アンタの仇取りたかったけど、ダメみたい」


 呟き、そっと目を瞑ると、ルイスの笑顔が思い浮かぶ。

 走馬灯が、彼女の思考を現実から切り離し、次々と思い出を氾濫させた。


 生まれ育った家、魔法学園での日々、研究の果て、魔王討伐の旅路、レンやスミス、アルドとノエルと囲んだ焚き火。

 そして、ルイスの死を知ったあの夜……。


ご拝読ありがとうございます!


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創作の力となりますので、何卒お願いします!!

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