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第45話 落下と飛翔



 「レンレンーー!!」


 空中。


 クレアと握り合った手を緩め、レンの落下が始まった。

 彼女の声はすぐさま遠くなり、代わりに地面が目前まで迫る。


 「人明流、円転受身……!」


 体を伸ばし、地表に足先が触れた瞬間、段階的に脱力を開始。

 接地は足の小指に始まり、膝、腰、背、肩の順。回転し次へ次へと落下の衝撃を流してゆく。


 やがて衝撃が腕まで達すると、掌から地面へと達する。

 レンの体を潰すはずだった落下のエネルギー。

 それは、彼の精密な身体操作により全く別のエネルギーへ転用される。


 「メラルに……何、すんだーー!!」


 流れた衝撃は腕を伝う。

 そうして、レンは叫びと共に地面を押し込んだ。自らを発射するために。

 無論標的は、騎士の男。


 「ごはっ……!!!」

 

 勢いよく弾んだレンは、自分が潰れる程の力が篭る、強烈な蹴りを打ち放つ

 騎士は反応することが出来ず、一撃を胴に受けた。

 そして後方へと投げ出されるように転がり込む。


 「……レ、ン……」


 フワフワと宙に浮かんだクレアは、ようやくその一言を絞り出した。


 レンが落下し、鎧の男を蹴り飛ばしてから僅か数秒しか経っていない。

 今彼女が目撃したものを全て理解するには、あまりにも僅かな時間だった。

 

 しかし、魔法使いであれば誰もが分かる事はある。

 どんな魔法を使っても、こんな芸当は出来ないし、落下の力を攻撃へ転用するなど発想すらしない。


 そうして暫く呆然と見下ろしていたクレアだったが、騎士がゆっくりと立ち上がるのを見てハッとした。


 「……あっ! リースちゃん!」

 

 メラルの後ろでへたり込んだリースを見ると、彼女も呆然としている。

 戸惑いと驚きが混ざり合った表情をレンの方へ顔を向けていた。


 クレアはすぐに、リースの元へと舞い降りた。

 彼女はクレアの姿を確認すると


 「クレ、ア……」

 「あわ、リースちゃん……!」


 前のめりになって倒れ込む。

 それを寸前でクレアの細腕が抱きとめる。


 リースはよっぽど消耗が激しいのか、短い呼息を繰り返している。


 「……クレア……メラルが……」


 何とか言葉を紡いだリースの声には力がない。

 ぐったりと項垂れたリースを抱えつつ、クレアは彼女の指す方を見る。


 そこには地面に倒れ込んだメラルの姿。

 周囲には小さい炎がゆらゆらと立ち、彼の体を黒く焦がしていた。また、切り傷を負っているようで所々に血が滴っている。


 「メラル! 大丈夫!? 生きてる!?」


 そう叫んだクレアの声に、応えはない。

 意識の無いメラルを見て息を飲んだクレアだが、腕の中で震えるリースが彼女の腕を掴む。


 「クレア……早く、アイツに回復魔法を……もう、魔力が無いの……」

 

 懇願するように、必死の面持ちだった。


 「うん……! リースちゃんもここで休んでて……! あんな奴、レンレンがきっと、きっと、倒して……」


 クレアの瞳に大粒の涙が溜まっていく。


 ついさっきまではいつも通りの日常だった。

 それがどうして、自分の友人二人がここまで傷だらけになっているのか。


 「それは、大丈夫よ……クレア……」


 リースの指が、クレアの頬にそっと触れた。

 そして、浮かんだ涙を優しく拭う。


 「ごめんね……私のせいで……これ以上は、もう、誰も傷付けさせないから……」

 「リースちゃん、何言ってるの! ダメだよ! それだけは絶対ダメ!」


 一方、レンは蹴り飛ばした男への警戒を向けたままだった。


 蹴った瞬間、男の鎧の頑強さとさらに防御魔法も使っている事は分かっていた。

 しかし、内部へ浸透する打撃、穿打を使うほどの余裕はない。

 

 手応えのない攻撃だった。すぐに立ってくるだろうと、レンは直感した。

 予測通り、男はあっさりと身を起こす。


 「貴様……この私に何をしたか、分かっているのだろうな……?」


 能面のような無表情だが、彼の纏った濃密な魔力が陽炎のように揺らいで見える。

 その姿に内包された圧倒的な殺意がレンの全身に突き刺さる。


 しかし、レンは怖じける事なく構え直した。


ご拝読ありがとうございます!


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