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第44話 覚悟の落下



 「クレア!? 何してんの!?」


 レンの驚愕を全く気にせず、クレアは猛然とこちらへ飛んで来ていた。

 猛スピードで廊下を横切る姿は飛燕の様だ。


 「探したよぉーーーー!!!」

 

 涙声でそう叫ぶ。

 彼女に減速する様子は見られず、レンは嫌な予感した。


 「クレア……? ちょっと待って、とまっ」

 「ちょっと来て!!!」


 突進するような勢いのまま、レンは腕を掴まれ廊下の先へ飛び去った。


 「ああああぁぁぁぁーーーー……」と、彼の虚しい反響だけが残された。



 「え……」

 「あれ……? レン様……」


 そのあまりの早技に仲間達はその場で唖然とするしか出来ない。

 だがしかし、そんな彼らの中で一人だけ肩を震わせて咽ぶ男がいた。


 「……クレア……! 間違いない……あれは、クレアだ……!」

 

 レンを連れ去るほんの刹那だったが、スミスはハッキリと確認していた。

 遥か後方へレンを連れ去ったのが、生き別れになった妹クレア本人である事を。


 スミスは彼女が飛び去った方を見た。

 既にクレアとレンの影は遠くなっている。しかし、スミスは追わずにはいられない。

 

 「クレアあああああああーーーー!!!!」


 仲間たちが気付いた時には、愛しい妹目掛け全力で駆け出していた。

 

 そうして取り残された三人。

 未だ困惑は抜けないが、どうにも調べ物をしている場合ではないらしい。


 「……私たちも追おう!」

 「はい! その方がいいですね!!」


 そうして駆け出したアルドとノエルの背を眺め、サリーは思わずため息をつく。


 「はぁ……なんか、今日は疲れる事ばっかりね……」


 誰も聞いてない愚痴をこぼしながら、サリーはゆっくりと歩き出した。


◇


 「あああああああああ〜〜〜〜!!! 速い!! 速いって!! もっとスピード落としてえええ!!!」

 

 廊下のタイルや壁の模様が次々と流れ去っていく。

 

 彼はクレアに腕を掴まれたまま、廊下の上空を疾走していた。

 勢いよく過ぎ去る景色にはしっかり人間も混じっているので、操舵権の無いレンにとっては、いつぶつかるのかと冷や冷やものだ。


 「レンレン、本当に見つかってよかったよ〜〜!! リースちゃんとメラルが大変なの!!!」


 クレアはそう言うと、思わずレンの腕を更に固く握りしめる。

 腕に伝わる力に、レンは思わず顔を上げてクレアの涙に浮かぶ瞳を見た。


 その表情だけで、彼女が今抱えている焦り、不安は読み取れる。

 それは、レンの心をざわめかせるには十分すぎる。


 「……クレア、何があったの?」

 「…………私にも何が何だか分からないの……でも、このままだと、私、親友を失くしちゃう……!!」

 「……!」


 腕を掴んでいるクレアの手が震えているのを感じる。

 そしてレンは自由な片手を上げ、彼女の掌にそっと置いた。


 「分かった!! 助けるよ!!!」

 「レンレン……ありがとう……!」

 

 そうしている間にも疾走は続いている。

 やがて目の前は行き止まり。曲がり角も無ければ窓も無い。


 「クレア!! 行き止まりだ!! 止まって!!!」 

 「ううん、大丈夫!! これが近道だから!」


 そう言うと、クレアは懐から一本の杖を取り出し魔力を込める。


 『爆破(エクスプローズ)!!!!』


 唱えた瞬間、杖が輝いた。

 そうして燃える魔弾が壁へ放たれ、轟音と共に白磁の壁に大穴を開けた。


 そしてスピードを緩めることなく、その穴を通過する。

 外に出ると強い風が二人に吹き付け、クレアは加速を止めた。


 出た先は中庭。四方を校舎に囲まれている。

 そして眼下に見た光景はまさに危機そのものだった。



 まず目に入ったのは背を向けて倒れるのメラル姿。

 そこかしこにある血と立ち上る炎。


 メラルは幾つもの切り傷で血が滴っており、制服も所々が黒く焼け焦げている。

 

 メラルの後ろには、リースが茫然と立ち尽くしている。

 彼女を守るため、どれだけ奮闘したのか。倒れ伏す背中が語っていた。


 そんな二人の前には、マントをはためかせた騎士らしき男が見える。



 (あいつか……!)


 レンがそう思った瞬間、騎士の男もこちらを見上げた。

 白く輝く鎧に身を包んだ男は、あからさまな警戒心を視線に込めた。


 レンの中で方針が決まった。


 「レンレン! あれがね……!」 

 「大丈夫、クレア! 手を離して!!」

 「な、何言ってんの!? レンレン浮遊魔法は使えないんでしょ!? 手を離したら……」


 クレアの「落ちちゃう……」の呟きを待たず、レンはクレアの手から自身の腕をするり、と抜き去った。

 

 落下が、始まる。


 


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