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第42話 強い感情



 「この三つは……?」

 「鍵の計測値を分かりやすくしたものだよ。そして三つあるのは君が手にした三つの鍵について話している時の値だ」


 振り返ったウルド王子にレンは静かに頷いた。

 

 「この波形はね、君がそれぞれの状況について語っている時に観測したものだ。左から闘技場。次にエルフの隠れ里、最後に商業都市メルク」

 「そう見てみると、闘技場の状況について話している時が、鍵の波形が動いているようですね」


 ウルド王子の隣から、アルドは言った。

 それを受けて、王子もゆっくりと頷いて答えた。


 「ああ。そこでもう一度レン君に聞きたい。闘技場の話をしている時、君はどういう気分だった?」

 

 顔を向けられ、レンはまた闘技場の記憶を呼び起こす。

 そして、ガロード卿の悪意やボロボロになったルイスの情景を鮮明に想起し、重い口を開いた。


 「……やっぱり、あまりいい気分ではないです……。思い出すだけで悔しいし、辛い……」

 「すまない。しかし、ありがとう! これで私たちの仮説は証明された!」


 ウルド王子は朗らかに笑って見せると、立ち上がった。


 「この鍵から記憶を取り出すには、君の強い感情が必要という事。そして、これまで存在していた三つの鍵を考えると、鍵によって必要な感情の種類があるという事だ! この波形と君の感情の整合性がそれを証明している」 

 「種類、ですか?」

 「そうだ。明確な種類までは分からないが、大きく分けて二つ。一つは負の感情に起因するもの。これは闘技場とエルフの隠れ里で得た鍵の事だね」


 それを受けてアルドが聞き返す。


 「確かに……では兄上、二つ目は負の反対。いわば正の感情という事ですか?」

 

 彼はアルドへ顔を向けると頷いた。


 「その通り。そして、それは商業都市メルクで得た鍵だ」

 

 ウルド王子の説明を聞き、レンは静かに納得した。

 これまで鍵を光らせ、記憶が戻る前には必ずと言っていい程激しい感情が渦巻いていた。

 

 そこでレンの脳裏に新たな疑問が浮上する。


 「……じゃあ、王子。この鍵はどちらなのでしょう?」


 そう言ってレンはポケットから鍵を取り出した。

 古めかしい金属に赤い宝石が輝いている。


 「それはこの波形が示す通りだ」


 そう言って王子は再び先ほど見た三つの波形のうち、最も激しい反応を示した波形を指差した。

 闘技場の場面を想起している時のものだ。


 「闘技場での感情……これが最もその鍵の求める感情に近かったという事だろう。それも、エルフの里での感情とは少し違う……なんと言ったらいいのか、う〜〜ん」


 しばらく考えた末、ウルド王子は肩を竦めた。


 「すまん。そこまでは分からない。流石に検証不足であくまで仮説なんだが、消去法で嫉妬や怒り、そんな所だろうか」


 実際の言葉にされると、レンは妙に納得がいった。

 確かにエルフの里ではルイスの死をとその責任を感じ、絶望、悲壮といった感情だ。


 レンがしっかりと頷くのを見て、ウルド王子はやり切ったように近くの椅子に腰掛けた。

 あまり使われていなかったようで彼が座った瞬間辺りに埃が舞い上がる。


 「フゥ〜〜、そして、鍵から記憶を取り出したいのであれば、その時と近い感情になればいい。最も、思い出す程度では足りないようだからよっぽど強い感情が必要なようだがね……」

 「王子。本当にありがとうございました! お陰で記憶を取り戻すためには何が必要か、ハッキリわかりました!」

 「いや、いいんだよ。私も良い研究が出来た」 


 再び頭を下げたレンに王子は片手を振った。

 そして、アルドも片膝をついた。


 「兄上、ここまで協力してくださり、私も感謝の言葉もありません」

 「いいんだって、アルド。僕たちは兄弟じゃないか。それに……女神の聖遺物までもらってしまったしな」


 女神の聖遺物とは、サリーのソックスの事だろうか。

 もっとも、それは王子本人が体内へ吸収したために既に存在しないが。


 そこにはあえて突っ込まず、アルドは話を続けた。


 「それで兄上、もう一つだけご協力をお願いしたいのですが……」


 その一言でウルド王子はさらに疲れたような表情になる。


 「え〜〜!? まだあるのかい? 流石にこれ以上は僕も疲れたというか……」

 「いえ、あまり手のかかる事ではありません。学院図書館の禁書を観覧したいのです。兄上の認証する旨ご一筆いただければ……」


 しかし、アルドの言葉は王子の声に遮られた。


 「アルド」


 その声は重く響き、静かな怒りにアルドもレンも威圧された。

 朗らかだった場が緊張感に包まれた。それを感じ取り、アルドは辛うじて返事を返す。


 「……兄上」 

 「あまり研究者をなめるなよ? あの書庫には一般人には危険な術や、とても貴重な書物が詰まっている。君たち素人に触れさせる訳にはいかない。まして私は、この魔法都市ザグラムの統治者だ。そう簡単に言ってくれるな……」


 (しまった……どうやら言葉を違えたか……)


 この中の誰よりもウルド王子の気難しさを知っていた筈。

 アルドは自分の油断を悔いた。

 

 「申し訳ございません、兄上。愚弟の軽率な発言をお許しください」

 「謝ってくれるならいいけどさぁ……そのお願いだけは聞けないかなぁ〜〜」


 アルドの謝罪を受け、口調は元の軽さを取り戻すも、彼の空気は変わっていない。

 このままでは本来の目的が達成出来ない、最悪の展開だ。


 しかし、アルドはこの状況を打開する策を、いや、切り札を使う決意をする。


 後ろからその空気を察したサリーは、隣のノエルの片腕に自分の腕を強く絡ませた。

 

 「サリー様……? いたたた……!」


 ノエルの静かな悲鳴とサリーの刺すような視線を感じながら、アルドは懐に手を入れて言い放つ。


 「兄上……………ソックスはもう一足あります…………」

 「紙とペンとってくる!!!!!!!!!!!!!!!!!」


読んでいただきありがとうございます。

面白いと思って下されば

ブクマ、ご評価、ご感想いただければ嬉しいです。


創作の活力になりますので

どうか、よろしくお願い致します!!

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