第41話 検証結果は?
レンが真っ白な部屋から外に出ると、ウルド王子は広い窓に向かって流れる文字列と奮闘していた。
そのすぐ後ろでは、アルドとスミスが腕を組み、興味深そうに窓を眺めている。サリーはやや離れた所で座り、ノエルにピタリとくっついている。
「しばし待ってくれ」
ウルド王子は窓から目を離す事なく、レンに言った。
やがて窓枠一杯まで拡大された波形が表示され、サリー以外は目を見張った。
そして、ウルド王子はレン達の方へ振り向いた。
「これを見てくれ。やはり、私と彼女の出した結論は間違っていなかったようだ」
「ウルド王子……これは何です?」
拡大された波形には、上下に曲線を描いている。
まるで心電図のようであった。
「これは鍵内の魔力の揺らぎを計測したものだ。今映し出しているのは君があの部屋に入る前の波形だ」
すると、同じく波形を見ていたアルドも口を開いた。
「……兄上、この波形はどういう状態なのですか?」
「ごく一般的な魔道具も似たような波形になる。この波形が揺れる時は、術式が起動したか、重大な破損が起きた時くらいかな」
彼らから離れた位置で、サリーの目が光った。
サリーがウルド王子を嫌って遠く離れたため、彼らの声は聞こえない。
だが巨大な窓から見える不可思議に輝く図形だけは、二人の視界には届いていた。
ノエルに説明するように、サリーが言った。
「あれは魔力の計測表ね」
「計測ひょう……」
あからさまにハテナを浮かべたノエルに、サリーは笑みを浮かべて解説し始めた。
「ノエル、私たちが普段から普通に使っている魔道具はね、懐中時計のように常に駆動しているのよ」
「そうなのですか……?」
咄嗟にノエルは自分の持つ魔道具、守護のペンダントを手に取り出し、耳を当てた。
「……サリー様、何も聞こえません……」
「当たり前でしょ。耳で聞こえるなら、計測のためだけにあんな大袈裟な部屋を作ったりしないわよ」
もぞもぞとペンダントを仕舞うと、ノエルは再び波形を見た。
「では、ウルド様が作られたというあの部屋は……」
「ええ。魔道具の駆動、いわば魔力の揺らぎを捉えて数値化、そして波形として表現できる機材といったところね。ま、他にも色々な観測機構があるようだけれど」
「……凄い機材って事ですよね……?」
ノエルの純粋な瞳がサリーを見つめる。
彼女は呆れたように笑みを見せると、自嘲気味に言った。
「正直、あの機材は私も初めて見たの。ハッキリ言って凄いなんてもんじゃないわ。魔道具分野の常識を覆す大発明よ、あれは」
サリーは肩を竦めつつ、天才ウルドの背を睨み付ける。
その瞳には研究者としての真っ直ぐな嫉妬心が燃えていた。
「……んっ♡」
「うわ、どうしたんだ兄上、急に」
説明途中に甘い声を出したウルド王子。
最も近くにいたアルドが顔を引きつらせた。
「いや、私にも分からん。何だかとても素敵な視線を感じたような……」
そう言って後ろを見回すが、居るのはアルド達と遠くに見える修道女と女子生徒。
吸い寄せられるように、ウルドの視線は女子生徒、もといサリーの方へ。
「それよりも検証結果の続きを!」
「ああ、それもそうだな」
レンに急かされる形でウルド王子は再び窓に向かい合った。
「次にこの波形を見てほしい。これはレン君が部屋に入った直後のものだ」
大きく拡大された映像が真横にスライドし、別の図形に入れ替わる。
「……これは……」
「さっきとは随分違うように見えるが……」
呟いたスミスの視線には先ほどとは全く異なる図形が映し出されている。
その波形は大きく乱れ、深く鋭い山谷を形成していた。
「この鍵には、今まで様々な検証を行ってきた。燃やし、冷やし、傷付け、叩き、腐食させ、魔力干渉までやった。だが、この波形だけは一定のまま。ここまで大きな変化を見せたのは、今日が初めてだ。だが、これ以上の変化が起きるのはこの後の問答の時だ」
そう言ってウルド王子はさらに三つの波形を並べて表示した。
左から激しい動きを見せる波形、次に中程度の動きの波形、通常時とは変わらない波形がレン達の目に入った。
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