第11話 反撃連撃
”空間歪曲”
それが、メラルの”伸びる腕”の正体。
標的と自分の間の空間を紙を折るように歪めることで、遠く離れたところからの打撃を成立させる。
それに強力な”自己強化魔法”も加わるため、上級の魔法使いでも苦戦を余儀なくさせた。
それは異常な光景。観客席にいる多くの生徒は、眼下で戦う二人を見て戸惑っている。
メラルは学園内では指折りの実力者。
魔法模擬戦闘では無敗。今までもあらゆる魔法の使い手を屠っている。
風魔法で高速戦闘を得意とする者だろうと、土系統の防御魔法で頑強な体を誇る者だろうと、火炎魔法で広範囲を焼く者だろうと、その全てを一撃の拳のみで叩き潰してきた。
メラルの拳は、それだけ早く、強く、誇り高い。
風のように舞っていようと、当たり前のように拳に捉えられる。
岩盤のように頑強でも、当然のように砕き破られる。
炎に焼かれようと、炎上したまま拳を放つ。
だからこそ、かの剛腕を当然のように避け、あまつさえ前進しているレンの姿はあまりにも異常に写ったのだ。
そしてそれは、当のメラルにとっても同様である。
「くああああああ!! いい加減当たれ!!!」
既に2撃、3撃と拳を振るっている。いつもならとっくに終わっているはずだ。
ーーゴウ!!!!
4撃目の豪腕が空をきった。
対するレンは膝を抜くように脱力し、腰をかがめて身を躱す。
そしてまた一歩、脚を進める。
先ほどから、攻防はその繰り返し。
メラルが放てば、レンは避け、少しずつ間合いを詰めていく。
「なんて動きしやがる! スゲェな畜生……!!!」
メラルが吠えた瞬間だった。
彼の心理的、肉体的な隙を感じたレンは、竜歩を使って加速。間合いを一気に詰める。
「ーー!」
それにメラルも反応する。
向かってくるレンに対し、反射的に構えをとる。
その間合は、とうとう2メートルまで詰まった。既に十分レンの射程内だと言えるだろう。
お二人はお互いに動きを止め、競技場は静まり返る。
だが、この静寂は先手の読み合いではない。
単純にメラルが待っているのだ、レンの攻撃を。
焼けるような気迫がレンを襲う。
”打ってみろ。受けてやる”
その意思が、メラルを前にしたレンにはハッキリと理解できる。
(ーーああ、そういうことなら……!)
レンの右拳が翻った。
左腰から抜き放つような右裏拳。まるで居合い抜きのような迅腕がメラルの顎側面を捉えた。
だが、やはり固い。
競技場由来の防御魔法もあるが、メラルの自己強化魔法は防御面でも優れている。
レンはかつて闘技場で相対した強敵、ローグの防御魔法を想起した。
(いや、明らかにローグ以上の強度だ……打った拳の骨が震えてるよ……)
「どうしたあ!!! そんなもんかよ!!!」
「ーーだったらこれはどうだ!!!!」
瞬間、メラルの体が発火するような連撃が放たれた。
左右上段突き、中段回し蹴り、上段裏拳、中段右突き、そのまま上段左肘打ち、返って左肘突き、左拳金的打ち、上がって左裏拳昇打ち、右拳心打ち、左手刀打ち、そのまま襟を掴み寄せ頭突き、左掌底を顎へ、右手刀であばらを薙ぐ、その勢いで右背足の上段回し蹴り。
打ち、切り、蹴り、薙いだ。
上顎を、眉間を、心臓を、こめかみを、人中を、金的を、あばらを、あらゆる急所を攻め続けた。
だが、連撃は無限ではない。当たり前のように体力の限界がやってくる。
そのままレンは飛び退き、メラルから距離をとった。流石の元勇者も呼吸が切れ、酸素を求めて大口を開ける。
「はぁはぁ……」
レンの攻撃は、常人であれば死んでいてもおかしくない急所への連撃だった。
だが、目の前の男は魔法使い。それも異常なまでの強化魔法を使う。
「お前……やるじゃねぇか……」
傷だらけになりながも、悠然と立ち続けるメラルがそこにいた。




