第5話 メラル
広い廊下でレンとノエルが起こしたトラブルは、道ゆく学生たちの注目を大いに集めている。
レンは冷や汗をかきながら目を泳がせ、ノエルは慌てた様子だ。
一方、ノエルに絡んでいた学生たちは怒りの表情をレンに向け、今にも襲い掛からん体勢で睨んでいた。
「待って……これは違うんだ……冷静になろう」
「ふざけるな!!! メラル様を投げ飛ばしたのは貴様の方だろう!!!」
◇
ほんの数分前、メラルと呼ばれた短髪の学生は駆けつけたレンと対峙した。
メラルの片手はノエルの細い手首を掴み、壁へ押し付けて彼女を捕まえていた。
「その子を離せ!!」
「……あ?」
メラルと呼ばれた男が振り向いた。たったそれだけで、レンの第六感が危険信号を発する。
振り向いたその瞳の中に、圧倒的強者が持つ理不尽な暴力性を、レンは垣間見た。
危険が迫っている。
(……攻撃が来る! 離れすぎてる、拳の間合いじゃない。剣? 魔弾? 地面から? 空中から? 背後か? それとも真正面?)
ほんの一瞬のうちに、レンの思考が脅威を予測する。
だが実際に行われた攻撃は、どの予測とも異なるもの。
「……」
無言のままに、メラルが腕を出す。
その手が開かれた瞬間、レンは驚愕した。
二人が対峙する距離は2メートル弱。
とてもじゃないが、腕が届く間合いではない。
しかし、届いた。
レンの目の前で、歪んだ鏡に写したように不自然な軌道で腕が伸びたのだ。
「……な!」
「喧嘩なら買おうじゃねぇか……!」
メラルの異常な魔法にレンは不意をつかれ、襟首が掴まれてしまった。そして、物凄い力で引っ張られた。
その膂力は魔法によって強化した腕力。それも並みの強化ではない。
レンが感じたのは、ドラゴンにでも投げ飛ばされているような重さだった。
だが、レンの反応も異常だった。
通常、襟を掴まれ引っ張られると、引っ張られまいと反対方向へと力を入れ、本能的に力を拮抗させようとする。
しかしレンはむしろ、引っ張る力に身を委ねた。ほんの一瞬だけ。
「……!!!」
腕の動きが止まる。いや、止まらざるを得なかった。
想像してみて欲しい、目の前にある重量物を。
それを待ち上げようと力を込めると、思いの外軽い。だが、持ち上げきったと同時に、本来の重量が戻ってくる。
どうなるか、答えはメラルが実感している通りだ。
「なんだお前……! 麻痺系統の魔法使いか……!」
まるで痺れたように、メラルは硬直してしまった。
人間の脳はよくパニックを起こす。
信頼する人物からの叱責に、突然車道に飛び出してくる子供に、日常が崩れ去るような大災害に。
だが、それは脳だけの専売特許ではない。
人体の中でも特に優秀な運動神経も同様に慌てふためく。冷や汗をかき、寒くもないのに震え、最終には硬直を引き起こす。
メラルの掴む動作からレンの対応まで実に0.5秒。優秀であるが故に、優秀だからこそ、メラルの肉体は容易に硬直に陥った。
「ノエルから! 離れろお!!!!」
「おわ!!!」
レンは掴んでいるメラルの手首を捕り、そのまま左へ腰を切る。そして伸びた腕ごとメラルを投げ飛ばした。
相手の硬直を利用し、投げるこの技の名は、”人明流 紅葉崩し”。本来であれば、手首の関節を外しつつ投げるのだが、レンは無意識にそうしなかった。
だが、投げられたメラルはたまったものではない。ノエルから手を離し、受け身も取れぬまま顔から地面に着地する。
「…………ッハ! もしかして僕、またやった!?」
投げ飛ばしてから、気が付いた。
◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎
大変恐縮ではございますが〜
少しでも本作を気に入ってくださった方
面白いと思った方
評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです
作者の日々の励みにもなりますので
お手数ではございますが
どうか、よろしくお願い申し上げます。




