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第5話 メラル

 広い廊下でレンとノエルが起こしたトラブルは、道ゆく学生たちの注目を大いに集めている。

 レンは冷や汗をかきながら目を泳がせ、ノエルは慌てた様子だ。


 一方、ノエルに絡んでいた学生たちは怒りの表情をレンに向け、今にも襲い掛からん体勢で睨んでいた。


 「待って……これは違うんだ……冷静になろう」

 「ふざけるな!!! メラル様を投げ飛ばしたのは貴様の方だろう!!!」



 ほんの数分前、メラルと呼ばれた短髪の学生は駆けつけたレンと対峙した。

 メラルの片手はノエルの細い手首を掴み、壁へ押し付けて彼女を捕まえていた。


 「その子を離せ!!」

 「……あ?」

 

 メラルと呼ばれた男が振り向いた。たったそれだけで、レンの第六感が危険信号を発する。

 振り向いたその瞳の中に、圧倒的強者が持つ理不尽な暴力性を、レンは垣間見た。

 

 危険が迫っている。


 (……攻撃が来る! 離れすぎてる、拳の間合いじゃない。剣? 魔弾? 地面から? 空中から? 背後か? それとも真正面?)


 ほんの一瞬のうちに、レンの思考が脅威を予測する。

 だが実際に行われた攻撃は、どの予測とも異なるもの。


 「……」


 無言のままに、メラルが腕を出す。

 その手が開かれた瞬間、レンは驚愕した。


 二人が対峙する距離は2メートル弱。

 とてもじゃないが、腕が届く間合いではない。

 

 しかし、届いた。

 レンの目の前で、歪んだ鏡に写したように不自然な軌道で腕が伸びたのだ。


 「……な!」

 「喧嘩なら買おうじゃねぇか……!」


 メラルの異常な魔法にレンは不意をつかれ、襟首が掴まれてしまった。そして、物凄い力で引っ張られた。


 その膂力は魔法によって強化した腕力。それも並みの強化ではない。

 レンが感じたのは、ドラゴンにでも投げ飛ばされているような重さだった。


 だが、レンの反応も異常だった。


 通常、襟を掴まれ引っ張られると、引っ張られまいと反対方向へと力を入れ、本能的に力を拮抗させようとする。

 しかしレンはむしろ、引っ張る力に身を委ねた。ほんの一瞬だけ。


 「……!!!」


 腕の動きが止まる。いや、止まらざるを得なかった。


 想像してみて欲しい、目の前にある重量物を。

 それを待ち上げようと力を込めると、思いの外軽い。だが、持ち上げきったと同時に、本来の重量が戻ってくる。

 

 どうなるか、答えはメラルが実感している通りだ。


 「なんだお前……! 麻痺系統の魔法使いか……!」


 まるで痺れたように、メラルは硬直してしまった。

 

 人間の脳はよくパニックを起こす。

 信頼する人物からの叱責に、突然車道に飛び出してくる子供に、日常が崩れ去るような大災害に。


 だが、それは脳だけの専売特許ではない。

 人体の中でも特に優秀な運動神経も同様に慌てふためく。冷や汗をかき、寒くもないのに震え、最終には硬直を引き起こす。


 メラルの掴む動作からレンの対応まで実に0.5秒。優秀であるが故に、優秀だからこそ、メラルの肉体は容易に硬直に陥った。

 

 「ノエルから! 離れろお!!!!」

 「おわ!!!」



 レンは掴んでいるメラルの手首を捕り、そのまま左へ腰を切る。そして伸びた腕ごとメラルを投げ飛ばした。

 相手の硬直を利用し、投げるこの技の名は、”人明流 紅葉崩し”。本来であれば、手首の関節を外しつつ投げるのだが、レンは無意識にそうしなかった。

 だが、投げられたメラルはたまったものではない。ノエルから手を離し、受け身も取れぬまま顔から地面に着地する。


 「…………ッハ! もしかして僕、またやった!?」

 

 投げ飛ばしてから、気が付いた。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎

大変恐縮ではございますが〜

少しでも本作を気に入ってくださった方

面白いと思った方

評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです

作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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