第62話 冒険者
西の大門よりメルクを出たレン一行は街道を一度南下して行く。
馬は快調に走り、新しい荷台も揺れが少なく快適だ。
「はぁ……お腹減ったわね」
そう呟いたのはもちろんサリー。
「あれ? さっきジャーキーを食べてたじゃん」
「いい事言うわね、レン。ねえアルド、あのジャーキーまだあるのかしら?」
レンの真っ当な疑問は無視して、サリーはアルドに聞いた。
「ああ、そこの樽に入ってると思うよ。提供してくれた神父様曰く、ノエルのお手製らしい」
「そっか……結局ノエルには最後まで会えなかったわね……寂しいけど、あの子の事を思い出しながらいただきましょう……」
そう言って、サリーはいくつかの樽を物色する。
サリーとノエルは妙に気が合ったのか、まるで姉妹のように仲が良かった。
メルクへ向かう道中や教会、冒険者ギルドでも、サリーはノエルを気遣っていし、今も本当に寂しそうだ。
一方のノエルも、サリーを深く慕っているようだった。
いつだって、サリーを見つめる瞳は輝いていた。
そんなノエルだが、アルドとレンの旅の目的を知ってからは姿を見せなくなってしまった。
悲しい事だが仕方がない、と一行は分かっていたものの、やはり寂しさだけは拭きれない。
しかし、この旅はレンの記憶を取り戻すだけではなく、神を打破する事も目指しているのだから。
神職にあるノエルがこの旅をどう思うか、想像に容易い。
「おっ、これね教会が提供してくれた樽は」
「ああ、そうだ。頼むからつまむ程度にしてくれよ。私たちも食べたい」
「……はーい」
空返事をしながら、サリーはウキウキ顔で蓋を開けた。
だが蓋を持ち上げたまま、サリーは固まった。
樽の中身を凝視して。
「…………えへへ、すみません……ついて来ちゃいました……」
サリーが開けた樽の中。
詰まっていたのはジャーキーではなく。
「あの、サリー様……?」
「アンタ……!!」
荷台がぐわん、と揺れ、スミスは思わず馬を止めた。
「おい! なに騒いでんだ! なんかあったのか……って!」
サリーは樽に入っていたそれを引き上げ、襟を掴んで子供のように駄々をこねていた。
「ジャーキーは!? 私のジャーキーはどこよう!!!!!」
「ああああ!! すみませんすみませんすみませんンんんんん!!!」
激しく前後に揺らされた金髪が荷台の中で舞っている。
サリーはつい先ほど言っていた『あの子の事を思い出しながらいただきましょう……』なんて台詞はすっかり忘れているようだ。
「あああああああああああります! ジャ、ジャーキーなら私の分があああああああああ!!!」
その言葉を聞いて、サリーは腕をピタリと止める。
「なによ、先に言いなさい」
「は、はひぃ……」
ノエルが懐から出したジャーキを貰い、サリーは上機嫌でもぐもぐし始めた。
一方、振り回されてボサボサになった髪のまま、ノエルはレン達へ向き直る。
「……あの……皆さん……」
一同の視線は固い。突然の出来事に、皆驚きから抜け出せていなかった。
ノエルは少々気まずそうにしながらも、「コホン」と咳払いし場の雰囲気をリセットした。
そしてそのまま、スカートを摘み、恭しく小首を下げる。
「冒険者のノエルです。どうかこの旅路にお供させて下さい」
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