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第59話 メルク城主 シンドラ

 皆で挨拶を交わし続けていると、西門が騒めきだった。

 レン達の旅を囲む集団ではない。


 何頭もの荷馬車が次々と修復中の西門を強引に通過していく。

 皆、共通のエンブレムを掲げており、明らかに商人や旅人の荷馬車とは違って豪華な造りに見えた。


 職人達が急いで道を開けているが、門衛の兵士たちはその一団を注意するそぶりも見せない。

 逆にかしこまっているようにも見える。


 「あら……アンタ達も運がないわね。最悪のタイミングで帰ってきたみたい」


 エミーがそう言うと、兵士長が急いで西門へ駆けて行った。

 不思議そうにレンが聞いた。


 「何? あの無駄に豪華な一団」

 「例の城主よ……」


 エミーが言っているのはメルクの混乱を放棄して逃げ出した、アルドの次代城主のことだ。

 どうやらその城主と側近の一団がメルクに帰って来たらしい。


 「逃げ出したくせに随分と優雅なもんね。がぐぐ……」


 誰が与えたのか、サリーが硬いジャーキーを齧りながら言った。


 やがて特に豪華な馬車が西門に入り、門前の広場で止まった。

 周りには近衛兵が十数人が集結している。

 馬車の扉がガチャリ、と開かれ中に乗っていた人物が降りてくる。


 高級そうな純白のマントが風に揺れ、後ろ姿からも身分の高さが窺える。


 エミーはレンに声を落として教えてくれた。


 「あれが商業都市メルクの現管理者でメルク城城主、シンドラよ」


 シンドラはアルドの従兄弟に当たる人物だ。

 アルド失脚後、彼の代役として真っ先に声がかかったのがシンドラだった。


 「これはなんたる有様だ……!! 兵士共は! 冒険者は一体何をしていた……!!!!」


 怒りに声を震わせている。

 その声色から、レンは自分と同じ歳くらいだろうかと推測した。


 すると、駆け寄ってきた兵士長がシンドラの前に跪いた。


 「お帰りなさいませ! シンドラ様!」

 「……兵士長。貴様、一体何をしていた……! この街の有様はなんだ!!!!」


 馬車から降りたシンドラが見たのは散々に破壊された西街だった。


 スライム撃退の余波でほとんどの家屋は倒壊し、メルク最大火力魔法『メルク・グリッター』の爆心地には草木一本生えていない黒焦げの地面が広がるのみ。


 「はっ……申し訳ございません!! 此度の魔人、スライムはあまりに巨大がゆえ、『メルク・グリッター』での焼却を試みたのです!!」

 「誰がアレを使ってよいと言った!! この都市は私の物だぞ!? 貴様は我が持ち物に傷を付けたと申すのか!!」

 「面目次第もござません! しかし、民を守るのが我らの務め。そのためには……」

 「もうよい!! 民など知ったことか……!! 無能め……!!」


 そう叫んだシンドラは、跪く兵士長の肩を蹴り上げた。

 兵士長は尻餅をついてシンドラを見上げ、はっきりと悔しさを顔に滲ませる。


 そして、シンドラは瓦礫の撤去をしている民衆に大声をあげた。


 「愚かな民衆共、よく聴け!! この西の大門は多くの貴賓が通る神聖な道だ!! この惨状を目にされれば、我が権威は失墜するだろう! 一刻も早く元の道に戻せ!! 分かったな!!!」


 それを聞いた誰もが、失望の色を出した。

 この愚かな城主は何も分かっていない。


 こんな惨状でも死傷者が十人に満たない事は奇跡と言っていい。

 それはアルドやエミー、兵士長の指揮の元で的確な避難誘導がなされたためだ。


 当時、パニックになり逃げる群衆に踏み潰されて亡くなった者も多く居た。

 先日レン達が出会った少年の父親もその一人だった。


 しかし、シンドラがそんな事を知るはずもない。

 彼はスライムが出現した途端、指揮を放り出してメルクから逃げたのだから。


 彼の姿を見ている職人や兵士、レン達でさえ、シンドラの態度に腹が立った。

 そしてここには、その中の誰よりも怒りを燃やす男がいた。


 「シンドラ……」


 アルドは拳に力を込めた。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎


大変恐縮ではございますが〜

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作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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