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第60話 メルク脱出

 「……城主からは流石に隠れた方がいいよな?」


 スミスが心配そうな声をかけてきた。

 両親との別れは済ませたらしい。


 シンドラの理不尽に怒りを滲ませつつも、スミスは比較的冷静だった。

 いかに兵士や冒険者が庇ってくれていようと、城主に指示を出されてしまえば彼らも従わざるを得ない。


 「うん。僕もそう思う。あれが通り過ぎるのを待って出よう」

 「賛成よ。グガガ……」

 「なら、アンタらは荷台に引っ込んだ方がいい。周りは固めておく」


 見送りに来ていた冒険者のガッドはそう言うと周囲の冒険者に声をかける。

 他の見送りに来た者達も状況を察して荷台に人の壁を作り、レン達の姿を見えないようにしてくれた。


 「ありがとう皆さん。さあ中に……てっアルドは?」

 「本当だ。アルドの奴、どこに行った?」

 「ああ。ほれなら……」


 サリーはジャーキーを口に入れたまま指を向ける。

 向けられた先は、メルクの新城主シンドラ。

 そこにズンズンと歩いていくアルドの姿が見える。


 「「え?」」

 「あのバカ王子……」


 レンとスミスの声が重なり、ドーラはため息をついた。


 レンとスミスも気が付くのが遅すぎた。

 既にアルドはシンドラの近衛の一人に止められている。


 「何者だ! 貴様!!」

 「この顔を知らない訳があるまい。元第3王子、アルドである。シンドラと話がしたい。通してくれ!」


 さらに数人の近衛がアルドを睨んだが、その姿を見て気がついた。


 「……おい! 本物のアルド様だぞ……!」

 「何!?」


 シンドラの兵達が一気にざわめきたつ。


 「ちょ……あれバレてない!?」

 「サリー! 認識阻害の魔法は!?」

 「ああ。解いてくれって頼まれたからね。はぐはぐ」


 遠くに見えるアルドを見ながら、ジャーキーを堪能するサリー。

 レンとスミスは大慌てだ。


 「はぐはぐ、じゃないよ! なんで魔法を解いてまで行かせたのさ!」

 「止めろや!!」

 「私だって、好きで行かせた訳じゃないわ、失礼ね。どうしても決着を付けたいって言うから仕方なくよ!」


 この時点で、サリーにジャーキーを与えたのがアルドだとレンとスミスは気が付いた。

 強欲学者サリーには”我慢”という言葉は通用しない。

 だが、喧々諤々に言い合うレン一行を、エミーが冷静に宥めた。


 「あんた達は下手に動かないで。もしもの時は私たちがなんとかするから……」


 そのエミーの一言で、冒険者達が殺気立った。


 「よい、通せ!」


 シンドラの声がかかる。

 すると、アルドを取り囲んだ近衛兵が道を開けた。


 「久しいな、シンドラ」

 「アルド……! よくのこのこと顔を出せたな……」

 「厚顔無恥は承知の上だ……だがなシンドラ、王族として貴様の言動は見過ごせない……!」


 アルドは拳を深く握る。

 自身の不甲斐なさと、悔しさ、犠牲になった者たちへの後悔が手の中に籠もっていく。


 「王族だと……? 貴様は既に反逆者として手配されている身だという事を忘れたか! お前には王族を名乗る資格はない!!」

 「ああ、その通りだとも。私にはその資格は無い。だから王族を名乗るのはこれが最後だ……」


 一歩、二歩とアルドは前へ進み出る。

 そして、心配そうにアルドを見上げる兵士長を通り過ぎ、シンドラの目前で止まった。


 「な、なんだ……? 貴様……」

 「一つ、聞いておこう。メルクの危機に何故逃げ出した、シンドラ?」


 睨むような、真っ直ぐな視線が、シンドラの瞳に突き刺さる。

 アルドの態度に、シンドラは一瞬怯んだ。


 彼の近衛兵は武器を構えている。

 周囲に居る冒険者、職人、民衆も二人の王族に目を奪われている。


 「ハッ! 何かと思えばそんな事を聞きたいのか、アルド」


 アルドの厳しい視線を笑うように、シンドラは言った。


 「そんな事……? 貴様が逃げ出したことでどれだけの被害が出たと思っている!! 貴様のくだらない家財を運ぶために西街の民が何人死んだと思う? 事の重大さが分かっているのか貴様は!!!!」

 「黙れ!!!!! 民衆など知ったことか!!!! この都市の管理者たる私の命の方が最優先に決まっている!!!」


 怒鳴り声は離れたところまで響いている。

 その瞬間、民衆も、冒険者も、メルクの兵達も、誰もが怒りで拳に力がこもった。


 「……そうか。それが答えか……」

 「下らん問答だ。おい、近衛、この罪人を連れて行け……」


 アルドは腰を切った。

 そして、レンに教わった通りに拳を形作り


 「ーーこの、愚か者!!!!!!」


 瞬間、アルドの想い拳がシンドラの顔面にめり込む。


 ーーぐガァ!!!!!


 情けない声とともに、シンドラは背後に転がった。


 近衛が動く。シンドラの顔面へ拳を振り切ったアルドを捕らえようと、彼の背後に迫った。


 だがそれより早く、冒険者達が動いていた。


 「手配犯のアルドよ!!! 捕まえなさーーい!!」


 エミーの号令と共に、冒険者達が近衛兵達を押し除け、広場は一瞬で混乱に陥った。


 「なんだ貴様ら!! そこを退け! シンドラ様が!」

 「ウルセエーー!! 賞金は俺たち冒険者のもんだーー!!」


 シンドラの近衛兵達は奮戦するが冒険者達に圧倒されてしまう。

 一方の冒険者達も、ある程度手を抜きながら戦った。そうして騒ぎを広げ、アルドの退路を確保するべく、乱戦を繰り返す。


 遠くからは土煙しか見えない。

 レンとスミスはその光景を心配そうに見つめていた。

 なお、サリーは黙々と真剣に、固いジャーキーと奮闘している。


 やがて、エミーがアルドを担いでレン達の荷馬車に走ってきた。


 「お待たせ♡」


 アルドはレン達の目の前に雑に転がされた。


 「うう、手間をかけた、ありがとう……!」

 「いいのよ! それに礼を言うのはアタシ達よ! お陰でスカッとしたわ!」


 それだけ言って、エミーは荷馬車の馬に手綱を付ける。

 すると入れ替わるように、荷台の後ろからドーラが顔を出した。


 「アルド様、皆様、後の事はお任せください。」

 「ドーラさん! 色々とありがとう!」


 真っ先にスミスが言った。

 彼もまた、ドーラの辣腕に救われた一人。

 彼の妹を探しを手助けしてくれたからこそ、スミスの感謝は強い。


 スミスに続いて、レンもお礼を言った。

 さらに続いてアルドも最後の握手をと、手を出した。

 しかし、彼の手はシンドラを殴り倒したことでボロボロになっている。


 仕方なく言葉だけで感謝を示した。


 「……ありがとうドーラ、おかげで助かった……!」


 アルドの右手を見て、ドーラは物悲しげな表情を浮かべる。


 「いえ。貴方が殴っていなければ私が殴っていましたので」

 「ははは! 本当に、君という人は! どうかその芯の強さを曲げず、挫けず、元気でいてくれ!!」


 それは新たな旅路へ赴くアルドのせめてもの願いだった。


 「ええ。もちろんです。しかしアルド様、私も含め、この街は、人は、この程度では挫けません。貴方が愛したこの街は、これからも元気であり続けるでしょう。だから……」


 ドーラの瞳が僅かに潤んだ。

 その瞳で、真っ直ぐにアルドを見つめる。


 「いつでも帰ってきて下さい。ここは貴方の家なのですから」

 「……ああ……。必ず、必ず戻る……」


 荷馬車が動き出した。


 「出るわよ! 誰か御者席へ!」


 外からエミーの声が聞こえた。


 「よっしゃあ!! 行くぞお前ら!」


 そう言って、スミスが手綱を受け取った。


 馬が嘶き、荷台が弾む。


 後方で騒ぐシンドラの臣下たちは既にアルドがいなくなった事に気がつかない。

 冒険者達は大いに騒ぎを広げ、無駄に暴れて土煙を上げている。


 その間、馬車は前へ前へ。

 次なる目的地、魔法都市ザグラムへ向けて進む。


 そして、西の大門を潜り抜けた。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎


大変恐縮ではございますが〜

少しでも本作を気に入ってくださった方

面白いと思った方


評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです


作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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